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君と僕の心世界  作者: エンゼルケーキ
6/18

騒動との日

 君が顔を近づけてきて僕にくれた物は口づけではなく、君という神徒を信仰する証だった。

 だけど、これも良いと思えてしまう自分がいる。もしかしたら僕は望んでいたのかもしれない、彼女へ恩返しする為に僕にできる一番の事を探していたから。

 そして僕は学園初日から、ただの新入生だったはずがいきなり第6のティファレトの信徒になってしまった。


「あの、僕が信徒なんかになれるんですか? 心だって、まだちゃんと扱えないのに。」


 彼女は予想外とでも言いたそうな表情をした。


「あれ? 嫌がるかと思ったけど乗り気なんだね君、良かった! それと大丈夫だよ、私が君の心をちゃんと使えるようにこれからも練習に付き合ってあげるから。そういう訳だからね、これから宜しく!私と一緒に聖戦を戦い抜いて願いを創造かなえよー!」


 彼女は微笑みながら僕に言った、願いを創造かなえると。つまり彼女にも何か願い事があるのだろうか。


「そういえば、エンゼルさんって何を願おうとしてるんですか?」

「あーうん、やっぱり気になるよねー。まぁ、私は神徒だからどうせ知られちゃうから言うけど。」

 

 僕がただ純粋に興味本位で尋ねてみたが、少しばつの悪い顔をして言い淀んだ。

 そして今度は活き活きとした表情で、はっきりと言った。


「私が世界に願いを創造かなえることは、私自身が天使になることだよ!」


 自分自身が天使になる、それは世界を創った神様になるんだと言っていることに等しい。

 世界へ願い事をする訳でもなく自らの願いを叶える為にあの塔へ目指している。ふと僕は今朝、彼女と対立していたカイルと呼ばれた男の神徒の言葉を思い出した。


”私利私欲に満ちた欲念を改めさせてやるぞ、神徒の名を汚す者め”


 そうか彼女は神徒であるのに世界の為に願うのではなく自身の願いの為に、この聖戦を戦い抜く気でいる。

 そう言った理由で彼に戦いを挑まれ対立していたのか。


「君は特別に話してあげる、私は別に自分の為だけじゃないんだ。世界にお願いごとするのに聖戦なんて面倒なことしてないでさ、誰かがこの世界を創造つくった天使様になれば自由に何度でも良い世界に創り変えられると思うんだ。」


 突飛的だが理に適っていた、そして出会って間もないのにとても彼女らしいと思えた。

 それと同時に凄い願いごとを持っている彼女に対して、僕は自分の願いを投影させるようにした。

 この時に僕のここで自分が存在する理由、そして願い事の全てが決まった。


「君の願いごとを僕にも叶えさせて欲しい。」


 自分から無意識になって言葉に出た、こんな事を言うなんて僕自身も驚いたが彼女も驚いた様子だった。


「急に頼もしくなったね、まるで熟年の信徒みたいだよ? それと、キミキミって呼ばれると何だかくすぐったいな。」

「あっ、ごめんなさい、エンゼルさん! あまりに素敵な願いだったんで何だが感情的になっちゃって。」


 彼女は笑っていたが冷静になった僕は、神徒であり先輩でもある相手に失礼な呼び方をしたことに気がついた。 


「いや、私は別に構わないよ好きに呼んでもらっても。私も好きに呼ぶからさ、シフォン? それともケーキくん? まぁ、やっぱりキミキミかな。それと、ありがとうね、私の願いが素敵だなんて言ってくれて。君に話して良かったよ!」


 そういえば、どうしてこんなにも素晴らしい願い事をちゃんと持っているのにカイルという名の男の神徒に咎められたのだろうか。


「あの、エンゼルさん。今朝のことなんですけど、どうしてあの男の神徒に言わなかったんですか? そんなにちゃんとした願い事なら彼も納得してくれると思うんですけど。」


 シフォンがエンゼルに問うと彼女は少し気難しそうな顔をした。


「うーん、誰もが理解してくれるなんてことは無いんだよ。例えば私が天使になれたとして自分勝手に世界を創造つくられたら困るし嫌でしょ? それに私利私欲ってのも間違っては無いんだ。私は空が好き、だから空を飛んでみたいんだ天使のような白い翼を持って自由に。」


 そういった理由で彼女はただ天使になるという願いを誰にも伝えてないらしい。


「本当はそれも含めて神徒になるつもりなかったんだよね、神徒は自分の掲げる願いや思想を生徒に伝えないといけないから。でも、私は心の力が強かったせいで勝手に選ばれちゃったって訳なの。」


 だから彼女は神徒に対してあまり良い思いをしていないのか。


「そうだったんですか……でも、これからは大丈夫です。僕がエンゼルさんのことちゃんと皆に理解して貰える様に頑張りますから!」

「あははは、そんな事より心の力をちゃんと使えるようにしなさいよ?明日までに見せれる位にしないといつまで経ってもクラス決められないよ。」


 ぐうの音も出ないとはこの事だった……。


「それじゃあ、まだ時間が大丈夫なら私が傍で見てあげるから慣れていこうか。」

「はい、よろしくお願いします。」


 それから僕は彼女の元で心の力を発現することによる周囲に作用する力の影響を抑え込む練習を始めた。


「そういえば、エンゼルさんは神徒だからクラスやっぱりSクラスなんですか?」

「んー? いや、私は心装具ハーティファクトは使えないからAクラスのままだよ?」


 Aクラスなのは別段と驚くこともなかったが、神徒であるからには心装具ハーティファクトを持っている、使える者だと思っていたから予想外の返答だった。


「えっ、心装具を《ハーティファクト》持たなくても神徒に選ばれることってあるんですか?」

「はい、無駄口叩かないで集中切れてるよー? 周りの木片が動いてる。」

「あっ、ごめんなさい。」


 彼女には僕の心の力の影響を受けず、わからないため。最初の心の力(ハーティスト)の発現で壊してしまった自分の周囲にあるテーブルの木片を使って確認している。


「うーん、私もよくわからないけど神徒って絶対的に心の力の強さによって選ばれる者だから心装具ハーティファクトなくても大丈夫なんじゃない?」


 何とも曖昧な答えではあったが、心装具ハーティファクトを持っていないのに選ばれた彼女の凄さがよくわかった気がする。

 それから僕は心の力(ハーティスト)を解き発現させを繰り返し、身体に重みのような負担が掛かるもののどうにか周囲には影響を出さずにいられる状態にまではなった。


「うん、その程度なら君も安心して学園生活を送れるでしょう! これからどんどん慣れてってね。」

「はい、まだ身体が重たく感じますけど心の力(ハーティスト)を発現させられるようになっただけでも僕にとっては生まれ変わったようです!」


 大袈裟な様にも思えるが学園で過ごしていく上での絶対的な問題だった心の力の心配はほぼ無くなり、本当の意味での自由の選択という物を手にした気分だ。

 そして彼女の願いが僕の願いにでもなった今、僕の成すべき事が明確に示された事で存在理由もできた。


「あはは、大袈裟だな君は。あっ、そういえば君は何処に住んでるの? この街かな、それとも学園の寮?」

「えっと、僕は学園の寮です。今はC棟の一室を借りてます。」

「へー、それじゃあ私と一緒だ。ちょうど良いかな、私の信徒になったことだし連絡も取りやすいね。」


 そしてエンゼルは屋上にある柵のような石垣に寄り掛かり空を見上げた。


「まぁ、でも普段の私はずっとここで空を見てると思うから何かあったら訪ねて来て。」


 それから僕も近くの地べたに座り込み、2人で空を眺めていた。

 段々と沈む陽によって朱く染め上げられる空の様子を君と僕は言葉を交わす事無く、ただただ見ていた。


「……ねぇ、私の信徒をやめたくなったら言ってね。」


 静寂さの中でふと掛けられた言葉は、先程とはまったく反対のお話だった。


「私って願いごとの事もそうだけど、神徒として周りに良い様に思われてないんだ。だから君が私の信徒だってだけで何か揉め事に巻き込まれたりするよ? 本当は冗談のつもりで信徒の胸章をつけたんだ、嫌だったら外す気だったんだけどね。あっ、もちろん心の力のことはちゃんと付き合ってあげる気だったよ!」


 彼女は何処か悲しげな雰囲気を纏わせていた。

 

「……やめませんよ? 僕はエンゼルさんに恩返しも含めて、力になれることがあれば全力で助けたいと思ってます。」

「僕は、僕の意思で君の信徒になる。例え、その選択で自分の身の回りに何が起きても僕は自分の意思を貫くよ。」


 僕は反射的に答え、そして彼女を安心させるかの様に力強く言葉を伝えた。


「……また君って呼ばれた。そんな時の君は何か頼もしく見えるなー、ありがとうね。」


 彼女に対してまた失礼な呼び方をしてしまったが、好きに呼んでも良いとの事と自分の言ってる台詞に対して何だか気恥ずかしくなり何も返さず僕はそのまま黙ることにした。


「そろそろ日が沈む頃だけど、君はまだ私と一緒に空を見る?」


 このまま彼女と一緒に空を見ていたいと思ったが、シフォンは学園の中を見回って無いのを思い出し一度全体を見てから寮へと帰ろうと思う事にした。


「もう少しだけ空を見ていたかったけど、僕は学園を見て回って寮に帰ることにします。エンゼルさん、今日はありがとうございました。」


 エンゼルは満足げな表情をしてわかったと言い、そしてシフォンは学園の中へと戻った。


「とは言ったもののこんなに広い学園を見て回るなんて短時間じゃ無理だよなぁ、どうしよう。」


 そんな感じで廊下を歩き思い止まっていると、向かい側からフェンがやってくるのが見えた。


「おーい、いたいた。シフォン、良かったまだ学園の中にいたのか。しばらくしてお前の様子が気になって探してたんだけどよ、今まで何処にいたんだ?」


どうやら僕の事を心配して探しに来てくれたようだ。


「ああ、うん、ちょっと屋上で神徒の人に心の力(ハーティスト)を教わってたんだ。」

「へぇー、神徒に心の力(ハーティスト)を教わるなんてすげぇな。道理で何か吹っ切れたような顔をしてるのか、それならもう大丈夫なのか?」

「うん、もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとうフェン。」


 これからは、僕からフェンの助けになる事もできるのだろうか。そんな期待も少しはしてみた。


「ところで、フェン。実は学園を全く見て回ってなかったんだけど、フェンはもう見回り終えたの?」

「ん? ああ、その事だけどここの学園って広すぎてよ。廊下のそこら中に学園の案内板みたいなのがあるから、必要なときにそこ見りゃいいかなって思ってあんまり見て回ってねぇんだ。」

「へー、そうなんだ。なら僕もそれを頼りにすれば良いか。とりあえず、そろそろ日も暮れて来て暗くなりそうだし寮に帰る?」


学園を見て回る必要も特に無くなったから、僕は寮へ帰る事を提案した。


「そうだな、だけどその前に学園の玄関口に神徒についての資料があるからそれをついでに持って帰ってからにするか。」

「そんなのがあるんだ、興味あるなぁ。よし、それじゃあ取りに行こう!」


 神徒についての資料、おそらく彼女が言っていた神徒は掲げる思想や願いを生徒に知られるといった物のことだろうか。


「おう、これだこれだ。ほら、お前の分のも。」

「うん、ありがとう。」


 フェンから受け取った資料には第1から10までの神徒の掲げる思想や願いについて、そして信徒の数など勢力についても様々な事が記されていた。


「そういえば、お前が教わってたって言った神徒の人って何番目の人なんだ?」

「えーと、確かは第6のティファレトの神徒だったよ。」


 僕はその信徒になったのだ、だから彼女の情報を少しでも見てみると思い目を通してみた。

 しかし、そこには確かに彼女の言う通りの願いが書いてあったが驚く事に第6の信徒の数は0人だった。

 他の神徒は一番多いところでは三桁にも到達している数で、少なくとも数十人は軽く確認できているのに彼女はただ一人も信徒がついていなかった。


”これ使う事ないと思ってたけどあって良かった。”


 そうだ、彼女は僕に信徒としての証を着け渡してくれる前に言っていた。

 つまり僕が最初の第6のティファレトの信徒ってことになる、だから彼女は僕が第6のティファレトの信徒になることで目を付けられる事に不安や心配をしていたのか。


「何だ、これ。信徒の数が他に比べて0人?それと願いの思想が天使になるってなんだ?」


 僕が彼女の代わりに説明をしようとしたが”誰もが理解してくれることなんてない”その一言を思い出し僕はやめることにした。


「たぶん、その人なりの何か考えや想いがあるんじゃないかな?」

「まぁ、そんなもんか。直接本人に聞かなきゃわかんねぇもんってのもあるしな。」


 僕は彼が思い遣りのある人だと心底思う、たった一言で他を思い考えるなど簡単そうに見えても単純にできることではないから。


「よし、目的のもんも手に入れたし後は寮とかでゆっくり見る事にするか。そろそろ日も沈みそうだしな、帰って飯でもするか。」

「そうだね、そろそろ落ち着いてご飯を食べたいよ……。夜抜いたり時間無い中で食べるのは勘弁したい。」


 この街に来てからの食事事情を思い返した僕だった。

 そして二人は学園の敷地内を出て寮への帰途に着いた。


「ところで、フェンの心の力はどんな感じなの?」


 ただの興味本位だった。

 自分の心の問題が無くなった今、積極的に心に関れるようになった変化だったのかもしれない。


「んー、俺か? 俺のは心を纏うだけなら何だろうな、身体が熱くなるっていうのか動きやすくなる感じだな。運動する前に準備体操とかするだろ、要はすぐにベストコンディションになるみたいな()だな。」

「そうなんだ、凄い便利そうって言うのかな。使いやすそうだね!」

「だけど、俺個人としてはもっとカッコいい心《物》が良かったぜ、まぁそれはこれから心の力(ハーティスト)を習っていく中でどうなるかだな。」


(僕もこれから心の力(ハーティスト)を巧く扱い、習っていけば彼女の役に立てるのだろうか。)


「そうだ、今ならもう聞いても大丈夫か?お前ってどんな心《物》を持ってるんだ。」


 彼も興味があるのだろう。いや今まで心配を掛けてた分、さらに何があるのか何があったのか気になってもしょうがないのかもしれない。

 僕は問題であったことを全て説明することにした。


「――――僕のは心を纏うだけで、周囲を力で押し潰す様な不安定な力だったんだ。人だって傷つけたし、それで今まで一度も発現もしなかったし本当は心の力なんて物は使えない。いや、できないのが正しいのかな? 今まで心配掛けてごめん。」


 重たく暗い話になってしまったが、フェンは僕を見ては何も気にしてない様子で笑っていた。


「あはは、お前の心って本当にお前らしいな。シフォン、お前は自分の事を追い詰めるような考え方とかしてるだろ?それが原因でその押し潰すような力が作用するんだよ、心の重圧プレッシャーみたいな物だ。だからさ、そんな()でもお前が上手に導いてやりゃ心も答えてくれるだろ。」


 僕は本当に恵まれている、こんなにも思って考えてくれる友人が近くにいるなんて。


「うん、ありがとう。」

「ははは、気にするな。気にするとまた心に負担を掛けるぞ。気楽に行けよ、お前はその方が調整バランス取れてるぞ。」 

「あははは、そうだね、そうするよ。」

「それにしても心を発現するだけで周囲に力が出るのか、お前の心の力はすげぇな。よし、俺も頑張るぞ!」


帰りながら二人は和気藹々と話し込んでる間に、僕達は寮へと着いた。


「よし、一度部屋に戻ってからまた食堂で待ち合わせな! シフォン、どっちが先に着いても席取って置くんだぞ!」

「うん、わかった。それじゃあ、また後でね。」


 シフォンとフェンは一度、寮内で別れ部屋に戻ることにした。

 フェンと別れた後に僕が部屋へと戻る途中の寮の廊下を歩いてる。すると反対側から並外れた巨体を持った男の生徒と思われる人物とすれ違ったその時だ。


「その制服の記章は第6のティファレトのか?」


 不意に声を掛けられすれ違った男の生徒の方へと振り向いた。近くで目視すると改めてその巨躯に僕は驚きを隠せなかった。まるで小人のようになった気分だ、僕の倍近くはある。


「はい、そうですけど……」

「ふっ、そうかあのむすめが信徒を採るとはな。どういった風の吹き回しか知らぬが小僧、お前は覚悟があるのか?」


 覚悟があるのか、その男が僕に向かって言った。それはエンゼルさんが言っていた”私の信徒になることで揉め事に巻き込まれたりする”その話の事だろうか。

 その事なのだとしたら僕は迷わず答える。


「はい、もちろんあります。彼女の為にどんなことでも僕は力になる気でいます。」

「そうか、ならば俺が言うことは何もあるまい。せいぜい力尽きないよう頑張るんだな。」


 そう言い残すと彼はそのまま去っていった。

 見ず知らずの生徒に覚悟があるのかと問いただされる、それほど彼女の状況は大変なのだろうか?

 本当に僕で力になれるのだろか、いや力になってみせる。新たに覚悟を決めることにした。


「っとと、こんなとこにいる場合じゃない。さっさと一度部屋に戻って食堂でフェンと会わないと。」


 僕は部屋に戻り寮の食堂へと向かった。


「うわ、凄い数の生徒だ。」


 食堂へと着いたシフォンは思わず声を出した。今朝に訪れた食堂は自身が遅れた時間帯だった為かそれほど生徒の数も多くは無かったが、今は夕食の時間の真っ盛りなのだろう生徒の数で食堂が賑わってる。


「えっと、フェンはまだ来てないのかな?」


 一度辺りを見回すと、フェンより先に見知った人を見かけた。ジェラさんだ、何故だか彼女の周りだけあまり人がいないようなそんな気がする。


「あっ、ジェラさん。こんばんは、今ちょうど夕飯を食べに来てたんですか?」

「……? シフォン、貴方この場所が感じ取れるのね。」

「えっ、この場所が感じ取れるってどういうことですか?」


 僕の質問とは裏腹に彼女が意味のわからない質問をし返してきた。


「……今は私の周辺は心の力(ハーティスト)で感知しにくくしてるの。……心の力が弱い人は見えもしないんだけど、貴方は見えるみたいね。」

「えっ、ジェラさんって心の力(ハーティスト)を使いこなせるんですか!?」


 同じ新入生のはずの彼女が日も経っていないのに凄い差があるように感じた。


「……えぇ、この街の出身の人はある程度は心の力に長けてる部分があるわ。……それと私には、この学園に兄がいるから直接教わることも少しあったの。」

「そうだったんですか、凄いですね。ところで、何でその心の力(ハーティスト)を今使ってるんですか?」

「……私はあまり騒がしいの得意じゃなくて、一人が好き。だからできる限り減らしてる。」

「あはは、そうでしたか。」


 何とも彼女らしい理由だった気がする。

 会話をしていると食堂の入り口で僕のことを探してるのだろう、食堂全体を見回してるフェンがいた。


「おーい、フェン。こっちだよー!」


「うーん、シフォンの奴まだ来てないみたいだな。」


 あれ、確かに聞こえるぐらいの大きさの声で呼んだはずなのに。


「おーい、フェン。こっちこっち!」

「……彼には感じ取れてないみたいね。……近くに行って呼んできたら? それと心の力を発現させて見てって言ってね。」

「えっ? うん、わかった。」


 何故、心の力を発現する必要があるのか僕にはよくわからなかった。


「フェン、こっちこっち。ジェラさんと一緒に席が空いてるよ。」

「おぉ、びっくりした。あれ、お前先に食堂にいたのか? おかしいな一通り全体を見通したはずなんだが。」

「あー、それならジェラさんが心の力(ハーティスト)で感じ取りにくくする空間を作ってるんだって。」

「なんだそりゃ、そんでジェラは何処にいるんだ?」

「ジェラさんなら、ほら其処の席で先に食べてるよ。」


 僕が指差し彼女のいる位置を教えたが、フェンは変わらず場所を見て取れない様子だった。


「んー、いや、いないぞ。何処だ?」


 咄嗟に僕は彼女の言葉を思い出した、心の力を発現させて見てと。


「あぁ、そうだジェラさんが心の力を発現させてってフェンに言ってたよ。」

「はぁ? なんでだ。うーん、まぁいいや、やってみるよ。」


 少しだけ集中してフェンが驚いたように声をあげた。


「うお、ジェラ見つけた! まじでわからなかったぜ。」


 彼女は心が弱い人には感じ取れないと言っていた、なら心に力を入れれば感じるようになるそう言った理屈なのだろうかと僕の中で勝手に推測して納得した。

 

「よう、ジェラ。こんばんはの時間だな。席一緒にしてもいいか? 空いてるみたいだし。」

「……うん、別に構わないわ。」


 こうして三人で食事を始めた。

 

「それにしても、すげぇなジェラ。俺には全く見えなかったぜ、お前のって心の力(ハーティスト)って便利だな。」

「……そうでもない。心の強い人から見たら何の役にも立たないからね。」

「うーん、まぁそれはあれだな。お前さんが頑張ればいい話だ。」


 相変わらず前向きな彼だった。


「……ねぇ、シフォン。貴方、その胸に着けてる徽章って。もしかして信徒になったの?」

「何ぃ!? 信徒になっただと!? シフォン、どういうことだ!」

「えっ、あっー。ごめん、すっかり言い忘れてたよ!」


 そうだ、すっかり忘れていた。

 フェンには先に言っておくべきだった事だと思っていたのに。


「フェンには言ってあるけど、実は僕の心の力の問題を解決してくれた神徒の人に恩返しがしたくて、その人の信徒になったんだ。」

「なるほど。ってーと、あれか第6のティファレトの信徒って事になるのかって。ん?待てよ、そうすると第6のティファレトの信徒が0人だったのがお前が信徒になったことでお前が1人目って事になるのか!? おいおい、大丈夫なのかそれは……」

「あはは、大丈夫だよ。これからだって成長していくんだ、僕だってそろそろ頼りないところばっかりじゃなく誰かの助けになりたいからね!」


 二人して談笑していると、ジェラだけは何かを考え込むように黙っていた。


「……私は、止めといた方が言いと思う。」


 唐突と発せられた否定の言葉、僕とフェンは二人して固まった。


「うん、どうしてだジェラ? 別にシフォンが信徒になって恩返し頑張るつってんだから応援してやろうぜ。」

「違う、そのことじゃない。……第6のティファレトの神徒はあまり良い噂を聞かないから危ない。」


 まただ、寮の廊下ですれ違った巨躯な男の生徒にも言われたが、ジェラさんにまで忠告されるとは思わなかった。


「……私はこの街の出身で学園に兄もいる、だからよく聞いた事があるけど危ないらしい。」

「危なくなんて無いよ、彼女は――――――」


「おい、お前。今、第6のティファレトの信徒って言ったよな? あのふざけた願い事に加担する阿呆がいるとは驚いた。」


 彼女について僕が弁解しようとしたら、男の生徒に突然声を掛けられた。

 そしてその突然と投げ掛けられた言葉の内容は、彼女の願い、思想を蔑んだ言葉だった。

 フェンが不穏に思い、席を立ち彼に近づいた。


「なんすか俺たちに何か用でも――――――ぐああああっ!?」

「フェン!?」


 フェンが彼に目的を問いただそうとした、その瞬間だった。

 男の生徒が心の力(ハーティスト)を纏ってフェンを殴り飛ばした。


「おい、何だ? 喧嘩だ、誰か寮長を呼べ! シェリルさんだ、早く。」


この騒動に周囲の生徒達は騒ぎ始め、退避し始める者もいれば戦闘体勢に入る生徒もいた。


「こっちはな前の聖戦であの第6のティファレトの神徒に仲間を怪我させられたんだよ。戦いの中だから、しょうがないってのもわかってるがあの女の願いは何だ? 何が天使(神様)になるだ。そんなふざけた願い事でよくも怪我させてくれたよな。これは復讐だ、あの神徒の仲間(信徒)であるお前に怪我を負わせて同じ痛みを与えてやる。」


 そして今度は僕に殴りかかってきた、咄嗟に僕は心の力を発現させつつ避けようとしたが心の力の負担で身体に重みが掛かり上手く避けれず殴られた。


「っぐ、痛った......。確かに怪我をさせたのは申し訳の無い事かもしれないけど、彼女の願いは彼女の()だ。ふざけてなんかない!それに何で関係の無いフェンを殴ったんだ、信徒の僕を殴ればいいじゃないか。」

「うるせぇ、あの神徒に関わる奴も、その信徒であるお前に関わる奴も全員同じだ。ぶん殴ってやる!」


 その生徒は自分の仲間が怪我をしたことで、エンゼルに対して逆恨みし見境無くなっているようだった。


「だったら、その関わりのある分を僕が全部殴られる。好きに怪我をさせればいいよ。」


 シフォンはそう言って、心の力を纏うのを止め無防備にその場で立った。


「知った風に格好付けた事を言いやがって、むかつく野郎だ! だったら望み通りぶん殴ってやるよ!」


 その男の生徒が僕の顔面へと拳を打ち付けようとした時だった、視界を覆う何かが僕の目の前に現われ盾になった。


「そこまでだ。」


 太く渋いその声の持ち主は、先ほど寮の廊下で出会った並外れた巨体を持った男の生徒。

 僕の顔にめり込む筈だった拳は彼の強靭な肉体によって受け止められていた。


「マ、マガルさん!? す、すみません、そいつを殴ろうとしただけなんです。マガルさんを殴るなんてことはするつもりなかったんです!」


 知り合いなのだろうか、熱り立っていた彼が冷静さを取り戻し言い訳を取り繕うようして混乱し始めている。


「そんな事はどうでもいい。貴様は何故こいつを殴れる?」

「えっ、いや、それはそいつの神徒に仲間を怪我させられたんで報復しようとして……」


「馬鹿がッ!!」


 男の言い分に対して、彼は大きく鋭い一喝を浴びせた。その勢いだけで周囲が揺れる様な錯覚に覚えた。


聖域(せんじょう)で怪我をして報復だと? 笑わせるな、覚悟も無いからそんな甘い考えが出てくるのだ貴様は。この小僧の方が貴様よりよっぽど良い覚悟を持っている。お前如きが殴れる相手では無い、拳を収めろ。」


 巨躯を持つ男の生徒に窘められると、男は拳を収めその場で悔しそうに項垂れた。


「そこまでです、全員その場で動かないでください。心の力(ハーティスト)を使用した場合、こちらも応戦することになります。」


 誰かが呼びに行ったのだろう、寮長であるシェリルさんがこの場に辿り着いた。


「あら、マガルくん? 貴方が騒動を収めてくれたのかしら、助かったわ。」

「ふん、俺は別に何もしていない。この腑抜けた野郎に説教を垂れただけだ。」


 シェリルさんが、その巨躯を持った男の生徒にマガルと言った。彼の名前なのだろうか。

 そしてマガルと呼ばれた男は、この場を去っていった。それを見て僕は急いで追いかけた。


「助けてくださって、ありがとうございました!」


  彼はこちらへ振り向き僕のことを見据えた。


「覚悟を見せてもらった、小僧。お前とはいつか戦うことになるだろう。」

「えっ?」

「俺はマガル・ギボルだ、第5のゲブラーを冠する神徒だ。小僧、お前の名は何だ。」


 その巨躯でありながら強靭な肉体を持つそんな彼は第5のゲブラーを冠する神徒であった、だからあの場で僕に殴りかかった男の生徒は萎縮していたのだろう。


「僕は、シフォン・ケーキです。あの、改めてありがとうございました。」

「小僧、お前のためじゃない。俺は覚悟の無い奴が嫌いなんでな、俺のためにやったことだ。」


 そして彼は去っていった。

 彼の背に向け一礼して、僕は再び食堂へと戻り急いでフェンの介抱へと向かった。

 

「どうやら貴方がこの騒ぎの当事者ね、大体の事はジェラさんと周りの生徒から聞きました。そこの彼が先に心の力でフェンくんを殴ったそうね。その後、貴方も襲われたと。」


 倒れこんでるフェンの周りにシェリルさんとジェラさんが付いていてくれた。


「はい、すみませんでした……それとフェンは大丈夫なんですか!?」

「ええ、今は気絶してるだけみたいだけど寮の医務室で一度診てもらいましょう。もしかしたら、打ち所が悪い場合だってあるから。」

「宜しくお願いします……」


 そしてシェリルは気絶しているフェンを騒動を起こした男の生徒に担がせ医務室へと食堂を出て行った。


「僕のせいで、僕が信徒だったからフェンに怪我をさせてしまった。」


 これが彼女、エンゼルさんが言っていた揉め事、それとマガルさん言っていた覚悟、そしてジェラさんに危ないと忠告された事だったのだろうか。

 僕に危険が及ぶのは構わない、けど周りの人に迷惑が掛かっては駄目だ。僕のせいで、また僕のせいで周りの大切な人が傷つくのか。


「僕のせいで……」

「……貴方のせいじゃないわ。」


 悩み悔やんでいるシフォンの隣から声を掛けてきたのはジェラだった。


「……確かに過程としては貴方が信徒だったから今回の事が起きたかもしない、けどそれは仕方が無かったこと。……結果としては間違えを起こしたあの男の生徒の人……それか原因を作った第6の神徒の人。……もっと言えば聖戦あらそいのせい。……どうしても自分のせいにしたいのなら、護れなかった貴方のせい。……結局は全部の事が要因として貴方に降りかかったこと。……だから仕方が無いの。」


 ジェラの言葉が悩み固まっているシフォンの思考や心を解かしたようだった。


 そうだ、僕は自分で決めたんだ。身の回りで何が起きても僕は僕の意思を貫くそして覚悟を決めた。こんな所で心揺らいでる場合じゃない、人を助け護れるような力をつける様に頑張らないと。


「そうだ、僕が護れるようになれば良いんだ。ありがとう、ジェラさん!」

「ええ、気にしないで、それで納得できたのなら良かった。……それともう休んだら? 疲れたでしょう。」

「えっと、そうですね。少し早い気もしますが自室に戻ることにします。たぶん、僕がここにいたらいい気もしない人もいると思うので……」


 僕は逃げるように寮の食堂を後にした。

 フェンの事が気になり一度医務室へ顔を出そうと思ったがシェリルさんに任せたのだから僕は近づかない事をしないことにした。

 自室へ戻る時に僕はただただ力が欲しいと強く想った。




――人は何かを欲するとき、生き急ぎ何かを間違える。それは何故だろうか間違えている時はわからない。――  





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