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君と僕の心世界  作者: エンゼルケーキ
5/18

心の力の日

 君が僕に教えてくれたこと、君は第6のティファレトの神徒で、君の名前はエンゼル・ケイキス。

 ただそれだけの事を僕は心に刻み、何かを考えるように彼女の去り行く後ろ姿をずっと見つめながらその場を動けないでいた。


「そこの生徒。ちょっと、これは何の騒ぎなのか説明して貰えるかしら?」

 

 この騒ぎに気が付き声を上げながら駆け寄ってきた人だ、背後から僕にこの場の状況の説明を求めて声を掛け近づいてきた。

 そういえば、彼女がこの場を逃げ出す前にこの声の主の事をこう言ってたっけな――――――


「って、あら?貴方は昨日の寮に入って来た――――」

「――――――堅物お嬢様。」


 僕は何を口に出して言ってるんだ、近くに本人がいるのに聞かれたりしたら大変だ。

 声を掛けられた方へと振り向き、その人物を確認してみるとそこには満面の笑みで怒りの雰囲気を醸し出している人がいた。

 第10のマルクトの神徒であり寮長であるシェリルさんが立っていた。


「あら、シフォンくん。貴方はもっと礼儀正しい人かと思ったのだけど私の見当違いだったのかしら。」

「シェ、シェリルさん! ご、ごめんなさい、違うんです。さっき神徒の人がそんな事を言って去っていったので!」


 咄嗟にエンゼルのせいにした、シフォンだった。


「冗談よ、わかってるわ。その私に対しての呼び名とあっちで項垂れてるカイルくんの様子、それと吹き飛ばされている生徒達を見れば大方の予想は付きます。」


 僕の一言と周囲の状況確認で、この場で何があったか彼女は把握できた様子だった。

 あの男の神徒はカイルという名前なのだろうか、彼女が男の神徒に視線を向けそう言っていた。

 

「またエンゼルさんとカイルくんが心の力(ハーティスト)を使って戦ってたのね、それも心装具(ハーティファクト)まで取り出して。」


 彼女は男の神徒に掌を向けた。すると鎖の様な物が手から放たれ男の神徒を縛りあげた、そして鎖で縛った彼を自分の元へと手繰り寄せたのだ。

 彼女の心の力(ハーティスト)なのだろうか。


「ぐぅ…………何をする、シェリル!」

「何をするじゃありません、また貴方はエンゼルさんに余計な手出しをして戦いを挑みましたね?」

「それも心装具(ハーティファクト)を使ってまで何を考えてるんですか、周りの生徒達を巻き込んで危険に晒すなんて!」


 シェリルさんの彼に対する咎め具合から、心装具(ハーティファクト)がどれほど危険な力かがわかったような気がした。


「ふん、奴の考えを改めさせるには一度戦いで負かさねばならんからな。それと俺が生徒達に危害を加えたわけではない。」


 戦いで負かし考えを改めさせる、物凄い自念を持っている人だ。 

 それを聞いたシェリルさんは頭を抱えて首を左右に振っていた。


「はぁ、これは貴方が蒔いた種です。自分の信徒達にでも協力をして貰って倒れている生徒達を介抱してあげなさい。これは時と場所を弁えなかった自身への戒めとして受け入れてください、反論は認めません。」


 そのカイルと呼ばれた男の神徒は渋々と言った様子で了解をしたようだ。


「それとシフォンくん、貴方は学園初日ですし学園長へ挨拶もまだでしょう? この場は私に任せて急いだ方が良いですよ。」

「そうでした! すみません、僕はこれで失礼します。」


 学園の初日、新入生は学園長に挨拶するのが最初にすることだ。急いで向かうことにしよう。

 あまりにも衝撃的な出来事の連続ですっかり忘れてた、僕はフェンと一緒に――――フェン?


「ああああああ、そうだ、フェンは大丈夫かな!?」


 僕の事を心配して来てくれたのに心の力で吹き飛ばされた彼の事をすっかり忘れていた。

 フェンが恐らく吹き飛ばされたと思う方向へ急いで探しに行かないと。


「確か、こっちの方に吹き飛ばされてたような――――いた、フェン大丈夫!?」

「痛ったたた、おお、シフォンか。お前は無事だったんだな、それにしてもすげぇ力だったな何だったんだ?」


 良かった特に目立った怪我をしている様子は無いし意識もしっかりしているみたい。


「ああ、うん、さっきのは神徒が使った心の力みたいなんだ。近くにいた生徒達は皆弾き飛ばされちゃって。」

「マジか……神徒っつうのはとんでもねぇな―――――って、何で近くにいたお前は無事なんだ!?」


 僕が無事だった理由、それは僕も知りたい事だった。説明なんてできない。


「えっと、たぶん神徒の人がたまたま僕に気を使ってくれたんじゃないかな?」

「ん? でもお前、近くにいた奴等は全員吹き飛ばされたって言って――――」

「あー、そんなことよりフェン!時間が無いって、学園長に挨拶に行かないと。」


 少し無理があるけど、この事は僕にもわからない。フェンには悪いけど無理やり話を変える事にした。


「おぉっ、そういえばそうだな!すっかり道草食っちまったぜ、急ぐぞシフォン!」

「うん。」 


 僕たちは学舎へと入り、学園長室へ向かった。

 建物の内部を見て歩いていると外観からもわかるように中はかなりの広さがあり内装も煌びやかだ、本当に城と言っても良いほどになっている。

 すれ違う生徒の数もかなりの多さだ、世界中から一定の年齢期の人たちが集められているというのも頷ける。


「シフォン、着いたぞ。ここだな、学園長室は。」


 フェンが目的の場所を見つけ、僕たちが部屋の扉を叩こうとすると先に扉のほうが開いた。

 その扉の先から出てきたのは、用があると学園の門前で別れたジェラだった。


「……あれ、二人とも。まだ挨拶……してなかったの?」


 彼女は少し驚いた様子だったが、それもそうだ。

 別の用事があると言って別れた彼女が先に学園長に挨拶を終え、後から僕たちが来たのだから。


「あぁ、ちょっとこいつが道草食ってよ。遅れちまったって訳だ。」


 そう言いながらフェンは僕の首に腕を掛け、笑いながら冗談交じりで技を掛けてきた。


「あははは。……ごめん。」

「……そうなんだ。……ふふ。」


 僕とフェンの仲睦まじさを見てか彼女を少しだけ笑った、あまり表情を表に出さなそうな感じなだけに僕たちの仲の良さはかなりの物だと思いちょっぴり嬉しくなった。

 ただ、感情をあまり表に出さなそうってのはジェラに対して失礼だったかもしれない。


「……挨拶終えたら、講堂で学園の説明あるみたい。私、先に行くね。」

「うん、それじゃまたね。」

「おう、俺たちもすぐ行くぜ。」


 ジェラと再び別れた僕達は今度こそ学園長室の扉を叩いた。


「はい、どなたですか。私は居りますよ、どうぞ中へ入ってくださいな。」 

「失礼します。」

 

 部屋の中に入るとそこには男性のかなり高齢だと思わせる外見の白い頭髪と髭を貯えてる御老人がいた。

 何かしら伝わる凄みというのだろうか、まるで魔法使いや仙人など伝説上の人物と対面しているみたいに僕は思えた。


「おや、これは見ない()ですな。もしや、君達は新入生かね?」

「はい、僕はシフォン・ケーキです。ご挨拶に伺いました。」 

「俺はフェン・クラップです。同じく新入生の挨拶に学園長に会いに来ました。」


 僕とフェンは同じに自己紹介をすると、その学園長である人物は品定めをするかのように僕らを見つめていた。


「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか。御主らは良い()をお持ちのようじゃ、挨拶は承ったぞい。さすれば次に講堂へ行き説明を受けるとよい、己が()ずる道を見つけれる事を祈っておる。」 


 学園長は僕たちに良い心を持っていると言った、人の持つ心を見据える事などできるのだろうか。それともそれが学園長である彼の心の力なのか。

 どちらにせよ空世辞などそういった意味も含まれているのだろう、あまり深く考えないことにした。


「はい、それでは僕たちはこれで失礼します。ありがとうございました。」


 二人は礼をして部屋を後にした。

 

 その学園長と呼ばれる老人は部屋の窓辺に立ちそこから見える街全体を見渡した。


「もう少しだ、もう少しで…………」


 窓に映る老人はどこか少年のような青年のような姿を映し出していたように見える、そんな錯覚を覚えさせるような雰囲気を漂わせていた。



「うっし、それじゃ俺達も講習の場所へ向かうかそこらの学園の案内板に場所が書いてあるだろ。」

「そうだね、説明を受けたら後は自由時間だ。今日はまだ始まったばかりなのに緊張で疲れたよ僕は。」


 何気ない会話をしながら僕たちは講堂へと向かった。


「おーいジェラ、俺達も着いたぜー。」


 講堂へ着くと広い部屋の席にぽつんと座っているジェラを見つけフェンは声を掛けた、さらにその席の面前には講師であろう男の人が立っていた。


「うん? 君たちも新入生か、それだったら席へ着いてくれ。ちょうど始めようと思っていたところだ。」


 講師である男がそう言うと僕たちは席へと座り、学園を含めて関わる事のほとんどの説明を受けた。


「まず最初に言っておくことがあるが、この学園では心を学び心を育みそして互いに競い合う事を主とする。その理由は諸君等にもわかってはいると思うが、聖戦もとい世界に願いを創造し革める義しい心を持つ者を教育する為だ。」 


 この話は知っている、この街へ来る前に荷馬車の中でフェンから聞いた話だ。

 聖戦を行い突如として現れる塔へと駆け登り、その先に辿り着いた者が世界に願いを創造(かな)えるというものだ。


「そしてもちろんの事だが、競い合いそして聖戦を行う事は危険が伴う。怪我や命を落しかねない事だってあるだろう、だがそれも含め他者を重んずる心を持たせる事が私たちの務めだ。」


 なるほどと僕は納得した。

 これら全てを別の言い方をして見れば、心の力を悪用したり犯罪に使うこともできるはずだ。

 だけどそれを抑制させるまたは未然に防ぐ為でもある教育の場、それがこの学園なのだとシフォンは考えた。


「だが、もちろん競い合うことを苦手とする者もいる無理に聖戦に出て怪我などして貰っても困る。その場合は心学だけに集中してもらっても構わない。」

「それとだ。この学園は一度学園長へ挨拶を終えたのなら、いつ学園を辞めて貰っても構わない。」


「えっ……?」


 思わない内容にシフォンは思わず声を出し、そして講師に質問をした。


「あの、入学したらいつ退学しても大丈夫なのですか?」

「ああ、そうだ。学園長に挨拶さえすれば、また申し出て学園を辞める事もできる。これは心学だけを学ぼうとしている生徒達に言える事だが不意に聖戦に巻き込まれたり怪我するなど、それらに対して覚悟ができてない者だって出てくる。その為の配慮だと思ってくれ。」


 そうだ、世界中から一定年齢期の人達は学園に集められ入学する規則があるけど講師の言う通りだ。

 無理やり集められて聖戦や心の力のぶつかり合いに巻き込まれるなんて例えそれが当たり前だとしても覚悟ができない人だっている訳なんだ。

 

「はい、わかりました。ありがとうございます。」


「うむ。それとこの学園では基本的に2つの授業があるが1つは今言った心学だ。言ってみれば心の教養を学ぶ授業だ。次に心力学、こちらはあまり耳にした事が無いだろうが学園では聖戦の為に心の力を使う事を教えている、先程言った他者を傷つける力がある以上は正しい使い方を学ばなければならないからな。」


 心学は心の教養、心力学は心の力を学ぶ、もしかしたら僕の心も使い方を学べるのだろうか。

 シフォンは自分の心の力に考えが行き、ふとエンゼルの顔が思い浮かんだ。


(そういえば、第6のティファレトの神徒のエンゼルさんに僕の心を見てもらうんだっけな……。大丈夫なのかな?)


「それと毎日の授業だがどちらを受けても構わない、それは個人の自由だ。さらに言うと強制参加は無い、自習でももちろん構わない。だが何にせよ心の力を扱うならば注意を払うんだ、いいな?」

 

 今朝方に起きた、学園の庭で争いあってる事件を思い返した。

 学園の敷地内ならば心の力(ハーティスト)を使っても大丈夫なのだろうか。

 

「そして最後に、聖戦についてだが。これはいつ如何なる時に行われるのか予測は付かないが夜間には起きない事は確かだ。恐らくだが陽や人々の心が活気づく時間帯が何かしらの条件であると学園側では予想している。」


 それはそれで街の人からしたら迷惑な話だろうけど。

 人々が活気付く、だから僕とフェンが夕方頃に街の広場に着いた時刻に聖戦が始まったのだろうか。

 寮に着いた頃には日も暮れてその頃にはちょうど塔も消え、聖戦も終わっていた訳だ。


「もちろん日中に聖戦が始まり、その時に学園で授業など受けてたとしても例外として中断してもいい。もちろん、聖戦に参加せずに続けて貰っても構わない。」


 そうか、夜間に聖戦が起きない以上は日中である上に学園での生活がある。

 それを考慮しているのだろう、皆が聖戦に参加するしないの平等を保つために。


「大体といった説明はこんな所だ。それと最後に授業を受ける上で安全性や向上力を高めること目的とするため心の力の度合いによってクラス分けをしている。私の心の力(ハーティスト)による観察眼で力の度合いを見るから新入生は各自それぞれ心の力(ハーティスト)を発現するだけでいいからやって貰う。」


 心の力(ハーティスト)の発現と聞いた瞬間、僕は焦りの色を出した。

 僕の心は不完全で、とても軽々しく出せるものじゃない。


「それと基本的には新入生は基本的にはCクラスだから力まず自然体でいいぞ、CからSまでのクラスがあるが少しずつ上へと上がるといい。それでは最初に来た、君からやってくれ。」


(どうにかしないと、僕の番にまわって来る前に何か考えないと。)


「ほう、これは中々だ、君はもしかしてこの街の出身かな?通りで心の力に長けている分けだ。君はBクラスで始めて問題ない。」

「……どうも。」

「そしたら次はそこの君、心の力(ハーティスト)の発現を頼むよ。」


(ジェラはBクラスか、凄いな新入生は普通はCクラスらしいのに。違う、こんなことを考えてる場合じゃない。どうしよう一か八か心の力を発現してみようか?)


「おぉ、良い心を持っている。だが少し熱しやすい部分が見られるな、Cクラスからゆっくりと学ぶといい。」

「ぬがー、俺はCかよ!ジェラに負けちまったな、すぐ追いつくからなー。」

「はっはっは、君なら大丈夫。ほぼ彼女と同じレベルではあるから落ち着きの問題だ。」


(フェンはCクラスになったのか、それでも講師の人はジェラと同じって言ってるから心の力ではBに近いのか凄いなさすがだ。違う、そうじゃない。どうしよう、一か八かなんて無理だ。また昔みたいに。)


「それじゃ、最後に君。見してくれるかな。」


 (どうにかしないと、でも、この学園に来る以上はいつかこんな事がある訳なんだ。でも、早かったな。)


「――――君。聞いているのかね、君?」

「(おい、シフォン。呼ばれてるぞ、お前の番だってよ! どうした?)」


隣からフェンが声を掛けてきて、僕が講師に呼ばれてることに気が付いた。


「えっ、あ、はい。すみません、聞こえてます!」

「それじゃ、君。心の力を発現してくれ。」


(できない、こんな場所でこんな心の力を見せるなんて。)


 シフォンが躊躇っていると隣からフェンが講師に話しかけた。


「あ、すいません先生、こいつ実は今朝から調子悪くてしかも神徒の戦いに巻き込まれたんですよ!」

「うん? そうだったのか、そうか今は落ち着いて自然に心を出せそうにもないのか。」

「そうなんですよー、だからまた日を改めて貰ってもいいですか? こいつは結構凄い心の持ち主なんですよ!」


 フェンが僕に助け舟を出してくれた。


「そうか、なら仕方が無いが。ただしクラスを決めるまでは授業を受ける事はできないからな? できる限り、いや明日にでも見せに来てくれ。よし、なら今日の講習はこれまでだ。新入生は後は各自自由にこれからの学園での生活を謳歌するといい。」


 そう言って講師の男は講堂から出て行った。


「ありがとう、フェン。実は僕――――」

「いや、いい、大丈夫だ。何かしら抱えてるんだろお前さんはよ、無理する必要なんて無いぜ、できる時にすればいい。この学園は自由だしさ。」

「うん……」


 フェンの優しさは今の僕にとっては痛かった、無性に一人になりたくなった。


「……それに、辞める事だってできる。……貴方はまだ大丈夫。」


 ジェラがそう言うと講堂を出て行った、彼女なりの優しさのある一言なのだろう。


「まぁ、あいつの言う事には一言足りないな。つまり心の力だけが全てじゃないって訳だな、きっと。俺はこれから学園内を見て回るけどよ、シフォン。お前はどうする?」


 僕の心情を悟ったのか遠まわしに断りを入れられる言葉を投げかけてきた。

 本当にフェンには感謝してもしきれない。


「うん、折角だけど少し1人になって考えたいことがあるから止めとくよ。」


 そうか、と言ってジェラに続きフェンも講堂から出て行った。


「僕はどうしようか……空。空が見たいな、ここの学園の屋上なら空が近くに見れるだろうか。」


 僕はただ空が見たいとの理由で何も考えずに学園の屋上へと向かった。

 階段を上り、学園の屋上への扉を開くと風が舞い込んだ。そして見渡すと広い造りもあってか屋上には草木やベンチとテーブルなどが置かれてるのが見えた、庭のような感じだ。

 空を眺めながら考え事をするのが凄い好きだ。


「心の力が不安定だから発現を見せれなくてクラスも決まらず、1人悩んで屋上へ空を眺めに来たって感じかな?」

「えっ......!?」


 不意に何処からか聞こえてきた声、その言葉に全てが完璧に言い当てられていて心臓が痛くなるぐらい驚いた。


「思った通りだったけど、まさかここに来るなんて本当に君は興味深いね。私と似てるのかな?」

「えっと、君は確か------エンゼルさん?」


 学園の屋上の庭にはどうやら先客がいたようだ。朝に出会った彼女、第6のティファレトの神徒であるエンゼル・ケイキスだ。


「そう、私だよー。朝の約束通り、心の力を教えに来たよ。本当はこうなる事がわかってたんだけど時間無かったからね、ごめんね!」

「いえ、気にしないでください。自分でも、心の力が遅かれ早かれ問題になるってわかってましたから。」


 何故だろうか思い悩んでいた事も彼女を見ただけで大丈夫な気がしてくる。


「そしたら心の練習でも始めようか、大丈夫? それと、とりあえず一つだけ確認したいことがあるのだけどいいかな?」

「えっ、はい、あの僕は構わないですけど。」


 すると彼女は何かに集中しながら、ゆっくりと僕の近くへ一定の距離を測りながら近づいてきた。


「うん、やっぱり君って私の心の力に影響しないんだね。」


 僕は何のことかわからず顔で疑問を表した。


「あのね、君は私と出会ったときに心の力を発現するだけで周囲に影響を及ぼすって言ってたけど私もそうなんだ。」


 神徒である彼女が、僕と同じ悩みや境遇を持っていたことに驚いた。


「私の場合は心の力を発現するだけで、自分を中心とした一定の範囲に心を拒絶する壁みたいなのが生まれるんだ。だから心を持っているモノが発現している私に近づくと弾き飛ばされたりするの。」


 つまり彼女は今朝の男の神徒との戦いで相手の攻撃を防いでいた目に視えない壁みたいな物は心を拒絶する壁ということなのだろうか。 


「でも、何故か君だけは私の心の壁に拒絶されもしないし直接的に力を行使しても弾かれない。だから何かあるんだろうなって思うんだけど心が似てるのかな?」


 彼女になら言える僕のこの心を、どんな事でも彼女になら言える。


「僕の場合は――――心の力を発現すると、自分と周囲を巻き込んで全てを押し潰そうとする力が作用するんです。それで僕は昔に大怪我を負って、さらに大切な人を傷つけたんです。」


 人は物心が付いた頃には親なり周囲の大人なりと様々な人に心の力の在り方を教わり、発現させることを当たり前のように教わる。

 シフォンの場合は教会で育ち、彼の母代わりでもあるマザーである人に教わったのだが問題が起きた。

 心の力を発現をしたと同時にシフォンは強く地面に打ち付けられた。そしてまだ幼さを残していた彼にとっては、その時の力が強すぎた為に身体中に負担が掛かり生死を彷徨う状態にまで追い込まれた。

 そして教えるため近くにいたマザーもその力に巻き込まれたが、幸いなこと彼女は心を纏っていた為か比較的軽度の怪我で済んだ。

 だが、これらのことは全てシフォンの心へと行き彼の心的な苦痛となっていた。


「そうだったんだ、それで君は怖くなったんだね心が。私も大体そんな感じかな、でも君の方がもっと大変だったんだね。」


 彼女は全てを語らずとも、僕の様子を感じ取り全てを理解してくれたんじゃないかのように見えた。


「ならさ、やっぱり私が適任だね! 君と同じだから、きっと大丈夫だよ私に任せてみて。」


 言葉だけなら軽いが彼女からは、とても心地の良い安心感を覚えた。


「ねぇ、私に近づいて。そしたら君の心を縛る、君自身から心を取り出してあげて。」


 覚悟を決めた僕は何も考えず、ただ彼女の言葉を信じて彼女に近づいた。


「その、先に言って置いても許されないことだけど怪我とかさせたら本当にごめんなさい。」

「だーかーらー、私に怪我なんてさせれないって、そんな事より自分の心配するでしょ普通は!」


 僕はあの頃に捨て置いた心を再び手にして、この場で心の力(ハーティスト)を発現させた。

 その時、僕と彼女の中心から黒い閃光の様なものが周囲に広がりを見せた。


――また君と一緒に、僕は空を見に行きたいな――

(空を見に行きたい? 君と一緒って誰のこと?)


――そうだね、それと私は君と一緒に夕陽をあの場所から見たいな――

(君と一緒? 誰のこと? あの場所ってどこなの?)


 黒い閃光はすぐに消え、僕たちは目を開き周囲の様子を見たが特に何も変わりが無いように思えた。


(あれ、私。今、何か大切な事を思い出しそうだったような。気のせいかな?)


「えっと、僕って心の力(ハーティスト)を発現させてるのに何とも無い?」

「うーん、そうね。多少の心の負担は私に来ると思ったけど何も感じないし、もしかして無意識に制御できるようになってたのかな君は?」


 2人して拍子抜けしたかと思ったが突然、物が崩れ折れる音が響いた。

 屋上の庭に設置してあるベンチやテーブル、そして草木が押し潰され始めていた。


「ちゃんと心の力(ハーティスト)を発現できてない! 今は私の心の力(ハーティスト)で護られてるだけ、心を落ち着かせて。自分の身体の中心に心を圧し止める様に!」

「えっ、わ、わかった!」


 自分の身に何も起きてない事に拍子を抜け油断をしていたが、やはり心の力を制御できてなかったようだ。

 僕は彼女に言われた事を冷静にそして護られている安心感の中で行った。すると周辺の押し潰されていた物はそれ以上、形を崩すことは無くなった。


「そう、その感覚を忘れないで。後は慣れていけば呼吸をするように自然と出せるようになるから。」

「うん……ありがとう。これが心を纏った状態なんだ……?」


 僕は新たな感覚に感動し言葉が出ないようだった。


「ふぅ、一仕事終えたって感じね。それじゃ疲れたから後は自分で練習するのよ?」


 そう言って彼女が心の力(ハーティスト)の発現を解くと突然とシフォンの身体に重力が圧し掛かった。


「うぐぅ、お、重い……何だ、これ……心の力がまだ完全に使いこなせてないのか……」

「えっ、ちょっと、まだ不安定だったの!?」


 彼女がまた心の力(ハーティスト)を発現してくれた、すると嘘の様に身体が軽くなったのだった。


「で、でも、昔みたいに大怪我をするほどってものじゃないからこれなら大丈夫そうだよ。後は慣れていけばきっと......。」

「うーん、そうねー。あれ、でも私は心を纏ってなかったのに何にも影響しなかったけどもしかして私が君に心の力が届かないように君の心の力も私に届かないのかな?」


 似たような境遇だから似たような心の問題を抱えてたから、何故かはわからないが僕たちはお互いに心の力の影響を受けないようだ。


「むふっふっふー、良い事考えちゃった。ねぇ、君ってまだ完璧に心の力も扱えてない訳だしお姉さんが面倒を見てあげるよ!」


お姉さんなのか、どちらが歳上なのかわからないが先輩である以上そうしておこう。


「ねぇ、君ちょっと動かないでね。」


 彼女はそう言うとただでさえ近い距離をさらに身を寄せて顔を近づいてきた。

 まるで口づけをするかのように、僕は思わず目を瞑った。


「えっ、ちょっとあの……」


 そしてかちりと音が鳴ると彼女は満面の笑みをしてまた少し距離を取って、僕に言ってきた。


「いやー、これ使う事ないと思ってたけどあって良かった。それね、信徒が制服に付ける印みたいな物なんだ!これから君の面倒を見る代わりに君は私の信徒(所有物)ってことだからよろしくね。」


 自分の制服の胸の辺りを見ると翼の模った装飾品のようなものがぴたりと填まり込んでいた。


「ちなみに、それ私が心の力(ハーティスト)で外すか制服を新調でもしないと無理だからね!」


 こうして僕は第6のティファレトの信徒になった。

 心の力を制御でき始めたことを含め、この信徒になった事で僕はあらゆる事に巻き込まれるのだった。




――これから彼の物語が始まる?それともまだまだなのか、でも君となら楽しそうだ。―― 





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