初めての日
僕は今、初めてやってきて街で、初めての聖戦が行われ、そして初めての聖域で生徒と遭遇した。
「あぁ、ちょっと待ってください先輩方。俺達二人は今日街に着いたばかりの新入生なんですよ! 見逃してくれないですかね?」
敵意が無いことを知らせ、相手を制止させてフェンは急ぎ口調で僕たちの状況を説明した。
そして寮の場所と何とか助力を得られないかと相談してみた。
「へー、そいつは災難だったな。来ていきなり聖戦か、そりゃうけるわ! ひゃははは。」
「そうですか、でしたら時間の無駄ですね。私達は先に進んで塔のルートを確保しますので、寮なら今の塔が見える位置から南東に位置する場所にあるわ。大きいからすぐわかりますので自力で頑張りなさい。」
そう言って女の生徒は先の道へ進み行こうとした時だった、男の生徒は笑うのを止めて僕たちに言葉を投げかけてきた。
「お前ら心の力は使えるよなぁ? 少し先輩として聖域での戦いってもんを教えてやるよ!」
女の生徒はいつもの事かのようにと、ため息を吐きながら先に塔へ向かう道へと去っていった。
「先輩、ご指導はありがたいんですけど。俺たち今日は疲れてるんで寮に荷物を置いてから休みたいんですよ、また今度にしてもらえませんかね。」
フェンは冗談交じりでどうにか説得を試みたが、男の信徒は聞く耳を持たなかった。
「そりゃ無理な話だぜ、せいぜい怪我だけはするなよなぁ新入生!!」
男の信徒はそう叫びながら、右手を下から上へと振りかぶるように空を裂いた。
そして何か見えない何かを飛んでくるのが感じ取れた、恐らく彼が心の力を使ってきたのだろう。
咄嗟に左右に避けたシフォンとフェンだったが、その間を通る衝撃のような何かに吹き飛ばされ、二人は避けた方向の先の壁に身体を打ち付けられる様な形になった。
「ぐっ----痛てて、おいシフォン、お前は大丈夫か!?」
フェンは吹き飛ばされ壁にぶつかるも心の力を纏っているため衝撃の影響をあまり受けなかった。
しかし、シフォンは心の力をまだ発現させていない状態で壁へと身体を打ち付けられていた。
「がはッ、げほげほ、うんっ......だ、大丈夫。」
やせ我慢をしているが生身の状態で全身を強く打ったシフォンは息をするのも苦しい状態だった、それを見てか男の信徒は眼を細めてその様子を伺った後にシフォンを叱咤した。
「おい、そこの軟弱野郎、てめぇ心の力を発現させてねぇな?聖域で生身なんざ死にてぇのか!? 新入りだろうが、聖戦時にはまず心の力を発現しててめぇの身を護るのが常識だろうがぁ!!」
ただの戦闘狂かと思われた男だったが、本当に指導的な物が含まれていた。
そして男の信徒がシフォンに対して叱咤している間に、すぐに動けたフェンは攻勢に出てた。
「そいつは田舎者なんで勘弁してくださいって、そんで俺は友達がやられたら先輩相手でもさすがに黙ってないですよ!」
そう言ってフェンは男の生徒に向かって殴りかかった、その手は熱を帯びてるように少し赤く見えた。
それに気が付いた男の信徒はフェンの拳を払いのけるように手で制した。
拳と手がぶつかり合った瞬間、空間に衝撃が生まれた。
二人は互いに後ろへと弾かれ後ずさった、すると男の生徒は少し嬉しそうな顔をしていた。
「へぇ~、そっちのてめぇは随分と根性あるじゃねぇか。気に入ったぜ! ちぃとばかし強めの指導をしてやるよ。」
男の信徒の周辺の空気が少し振動してるように感じた。
まだまだ加減をしている様子だったが、指導のつもりなろうだろうかシフォン達とさらに力を込めて戦おうとしているようだ。
「はいは~い、ストップだよ~。君は頼りになるけど面白いこと見つけると見境ないな~。」
突如、やる気の無さそうな声と風貌した人が現れ、男の生徒に向かって言葉を掛けた。
そのやる気の無さそうな人物の後ろからまた、別の十数人ほどの生徒が現れた。
すると力を込めるのを止めて男の生徒は、そのやる気の無さそうな人の方へ振り向いた。
「あぁ!! シェバト様、もうここまで進んで来てたんですか早いですね。無事で何よりです。」
「いやいや~、君がここで新入生を相手に遊んでるって連絡が届いたからだよ~。」
やっぱりやる気の無さそうな声と風貌だが、あの好戦的な男の生徒が礼儀を正している。
さらに後ろに付き従えているような十数人の生徒達を見る様子から、力の序列では上に位置している人なのだろうか。
「そこの御二人さん、ごめんね~。この人が迷惑を掛けたみたいで~、根が良い奴なんだけど~。」
彼はさっきまで戦っていた男の生徒に対してのフォローを入れつつ、こちらへと振り向いた。
そしてやる気の無さそうな声で自己紹介を始めた。
「僕の名前はシェバト・ロムって言うんだよ~。第8のホドを冠する神徒をやってるよ~。」
彼の口から出てきた神徒、それは学園でも屈指の心の力の持ち主でその力は天使に近いとされ天使の数字を冠する事を許された人達の事であるとシフォンはフェンから受けた説明を思い出した。
つまり学園にいる10人の神徒の内の1人であり、相当な力の持ち主と言うことになる。
どうやら、この仕掛け来た男の生徒は信徒であったようだ。
「あ、いや、初めまして俺はフェン・クラップって言います! 先輩には先程からとてもよくご指導して貰ってました!」
あのフェンが混乱しているのか、自分自身が一番苦手そうな挨拶した。しかもさっきまで戦っていた先輩に対しても礼儀を添えて。
相手はあの神徒なのだから、そうなるのも仕方が無いのかもしれないと思った。
しかし、第8の神徒である彼はその様子を察したのかやる気なさそうな笑顔で応えた。
「あぁ~、僕の事は気にしないで~。神徒って言っても同じ生徒だから偉いとか無いよ~。お詫びと言っちゃ何だけど~、二人とも僕の傍に寄って~。」
彼がそう言うとフェンがシフォンの身体を支え起こし、第8のホドを冠する神徒であるその男シェバトの傍に近づいた。
すると彼は軽く手を振りかざして呪文を唱えた。
「痛いの痛いの飛んでけ~。あと心の疲れとか肩こり腰痛も~。」
二人は何の冗談かと思った矢先、シフォンとフェンの身体は戦いをする前の身体よりさらに心身ともに全快したのだった。
大した心の力も使っていないのにも関わらずこの身体の回復状態に、二人は呆気に取られていた。
「はい~、これで治療はおしまいね~。それじゃあ寮までの案内はうちのホドの信徒を何人かつけるから安心してね。それじゃあ達者でね~。」
そう言うと彼は最初に出会った女の生徒が行く先の、塔へ向かう道へ歩いていった。
咄嗟にお礼を言い忘れていたことに気が付いたシフォンは彼に聞こえる様に声を出した。
「あの! シェバトさん、ありがとうございました!」
僕の声がちゃんと聞こえたようでシェバトさんは手をひらひらとさせながら塔へ続く道へ消えていった。
こうして僕たち二人は第8のホドの信徒である人達によって寮まで案内をして貰い、寮の前まで無事に辿り着いたのだった。
役目を終えたホドの信徒達は一人は心の力を使い凄い速度でさっきまでの道程を走り戻って行った。
そして、もう一人は心の力を使い歌を歌い始めた、おそらく歌声によって伝令や伝達をすることのできる力なのだろうか。
「ふぅー、何だろうなシフォン。身体は全回復したってのによ色んな事がありすぎて一気に疲れたな。」
「そうだね。初めて来た場所で、たくさんの初めてのことがあったから。」
二人は全身の力を抜くと同時に、緊張の糸を切らした。
「って、そうだ! シフォン、お前あれほど戦いになるかもしれないから心の力だけは発現しておけって言っただろ。ったく、あの先輩が手加減してなかったら大怪我してたかもしれないんだぞ。」
突然思い出したかのように少し怒り気味でフェンはシフォンに言った。
「あはは、心配掛けてごめん。緊張して上手く心を使えなかったんだ。」
それらしい事を言って納得させようと、僕は嘘を吐いた。
「そうか、まぁ確かに心の力なんて普段は使わない事が多いしな。日常なんてせいぜい使い慣らすことしかやらないか、ましてや行き成りの戦闘だったもんな少し難しかったか。」
心は繊細な物だ。
自身の精神状態が酷く反映してしまうため心の力を発現し制御しながら力を使いこなすのは難しい。だが心の力を発現させるだけにおいては、この世界の人間であれば歩くと同じに等しい簡単な行為だ。
フェンはシフォンに対して気を使い、言葉を選んでくれたのだろう。
「よし無事に寮にも辿り着けたわけだ、さっさと部屋にでも入って今日は休むか! これからも改めてよろしくなシフォン。」
「うん、こちらこそ改めてよろしくフェン。(ありがとう)」
何気ない握手を交わした僕たちだった。
そして最初に街の広場で聴いた時と同じ鐘の音が、また心の奥底に響くように鳴り響いた。
聖戦の事を思い出した僕たちは一度、塔があった場所をもう一度見てみたがそこには何も無かった。
「誰か辿り着けた人はいたのかな。」
僕は何気なく口に出した。
「いや、そんな簡単なもんじゃないだろ。長い間、誰かが辿り着いて願いを叶えたって話は聞いて無いからな。」
そうかと納得した僕は、陽が沈み辺りが暗くなるのを気が付きフェンと一緒に寮内へ入ることにした。
寮の中へ入ると玄関先から広がるように大きなロビーがあり、まるでここが学園じゃないのかと思えるような広さと大きい建物だった。
さらにロビーにはかなりの数のテーブルやイスにさらにソファなどがあり生徒達が休憩するにはうってつけの場所だと思った。
現にすでに私服姿の生徒だろう人達が、休憩しているのが伺える。
「さってと、中に入ったは良いものの誰に俺たちの使う部屋を聞くんだ。それとも空き部屋でも勝手に探して使っていいのか?」
「そういえば、学園の寮まで来るだけ来た訳だけど何も知らされてないね。誰か他の生徒に聞いてみようか。」
二人で考え悩んでいると向こうから、女の生徒がこちらに気がつきこちらへ向かって声を掛けてきた。
「あなた達も…今日から寮に来た……新入生……?」
あなた達もと言うことは恐らく彼女も今日から来た新入生なのだろう。
「おう今日着いたばかりなんだ、俺の名前はフェンだ。そんでこいつがシフォン。もしかして、あんたがここの寮の管理者とかか?」
「私は……違う。私はジェラ・アイトス。今日来た……新入生。」
フェンは僕と一緒に軽い自己紹介をしたが、やはり彼女も今日から街に来た学園の新入生だった。
ジェラ・アイトスと名乗った女の生徒は、小柄で物静かな口調の少し暗めな感じの子だ。
「ここの寮……管理してるの……第10のマルクトの神徒の人。その人に会えば……寮の部屋、色々教えてもらえる。」
ジェラはそう言うと僕たちにその第10の神徒がいる部屋の場所を教え、去っていった。
ふと僕は感謝とよろしくの言葉を言い忘れたの気がついたが、彼女はすでに消えていた。
「ありがとうって言いそびれちゃったね。」
「ああ、そういえばそうだな。また学園とかで会うこともあるだろ、その時にでもな。」
そして二人で寮の管理者である神徒がいる部屋へ向かった。
先程のジェラから聞いた話によると、どうやらこの寮は建物と建物の間にさらに通路を隔てて別の寮棟がいくつも繋がっている広く大きい寮らしい。
さらに一階には寮全体の中心に広い庭があり、そこからどの寮棟へ行く事もできるような造りになってる。
「よし、たぶんここだな。」
「うん。」
僕たちが辿り着いた場所は今まで通った廊下の寮部屋ある所より少し離れにある少し大きな扉の部屋だ。
たぶん寮の管理人室とかそういった部屋なのだろう。そして僕たちは扉を叩き、中から返事を聞きつけた後に部屋へと入った。
「あら学生だったの、それで私に何かご用件でもあるのですか?」
中へ入ると毅然とした物腰で、金色の長い髪を持った綺麗な女性の人が応対してきた。
部屋の中は応接間の様な感じになっており、お洒落なテーブルや椅子にソファまで設置してある。
「あの、初めまして僕はシフォン・ケーキって言います。」
「どうも、俺はフェン・クラップです。こいつと同じで俺たち新入生なんですけど。」
二人して自己紹介した後に、軽く経緯を含めて寮の部屋について彼女に聞いてみた。
「そうでしたか、貴方達は地方からこの街へ来られたばかりの新入生だったの。それで寮の部屋を借りに来た訳ですね。申し遅れました、私はシェリル・サンダルフォンです。第10のマルクトを冠する神徒をしています。」
神徒と改めて聞いた僕は第8の神徒のシェバトさんを思い出した、失礼ながらもシェバトさんより彼女のほうが神徒らしい振る舞いをしているのだろうと思った。
だけどこの時に何故か僕は、神徒も普通の人と同じで人それぞれ何も特別なことは無いのだと少しほっとしたような気がした。
「それと、この寮を管理している者でもあります。少し待っててくださいね、御二人に用意できる部屋の鍵をお渡ししますので。」
彼女がそう言うと、何やら棚の中にある書類を確認してから部屋の奥にあるテーブルの引き出しから鍵を二つ取り出して手渡してきた。
「はい、貴方はC棟にある部屋の鍵です、そっちの貴方はA棟にある部屋の鍵になります。」
僕が渡された鍵はC棟でフェンはA棟の鍵だ、どうやら建物2つほど離れた場所になったようだ。
ABCとそれぞれ建物が分かれていて、一つの棟に3階まである。A棟が玄関口に一番近いみたいだ。
B棟とC棟は1階から寮の中央の広場を通れば玄関口にすぐ向かえるのであまり距離は変わらないらしい。
「あちゃー、シフォン。お前とは結構離れた部屋になっちまったな。」
「うん、そうだね。でも、これからは学園で会える事だし大丈夫だよフェン。」
二人は残念な様子を取ったが、これからは学園という中の生活でお互いに会えると楽観した。
「ごめんなさいね、使用できて準備がしてある部屋が一室だけA棟に余っていたの。貴方達には悪いことをしてしまったかしら。」
「いやいや問題ないですよ、シェリルさん。別に遠くてもお互い出向けばいいことなんで!」
フェンはシェリルさんの申し訳なさそうな態度に慌てて助け舟を出した。
すると彼女はありがとうと言った感じに笑顔で返してくれた。
「それと、御二人とも自室に着きましたら部屋のテーブルに学園の手引きと寮での案内と規則が書いてある物がありますので目を通して置いてください。」
「わっかりました、シェリルさん。ふぅー、そしたらシフォン先に自分の部屋に行くぜ。今日は疲れたからなさっさと部屋で休みたいぜ、また明日な!」
そう言ってフェンはシェリルさんに礼をした後、管理人室から出て行きフェンは自室へ向かって行った。
その後にシェリルさんは僕に質問をしてきた。
「貴方達は、とても仲が良いのね。幼馴染みたい、同じ出身地なのかしら?」
「いえ違います、僕は北の地方から彼は東の街です。この街の来る途中でたまたま出会ってから、それからずっと一緒でした。」
僕はシェリルさんの問いに答えて、フェンと出会ってから街へ来たこと、それから聖戦に巻き込まれたことまでなどを軽く流れで説明した。
「それは災難だったわね、まさかこの街に来てからすぐに聖戦の戦闘に巻き込まれるなんて。」
「はい、でも通り掛った第8のホドの神徒さんとその信徒達の人に助けられて無事に寮まで辿り着けました。」
ちなみに戦闘に巻き込まれた原因が、第8のホドの信徒のせいとは言わないことにした。
「第8の神徒――――ああ、シェバト君の事ね。彼には驚いたでしょう、飄々とした感じの人で神徒に見えそうにないと思うから。」
シェリルさんは冗談めかして言っているのだが、実はその通りだった。
さっき初めて出会った時のシェリルさんの立ち振る舞いとシェバトさんの違いを考え比べてたのだから。
僕は苦笑いをして誤魔化した後に、ちょっとした質問をしてみた。
「シェリルさんは、今日の聖戦で戦ってたのですか?」
ただの興味本位で僕はシェリルさんに聞いてみた。すると思いがけない返答が返ってきた。
「いえ、私は今回の聖戦には参加しませんでした。今日は学園から帰宅してから寮の管理室で少し用事がありましたので。」
「えっ、シェリルさんって第10のマルクトの神徒なんですよね?聖戦に参加しなくて大丈夫なんですか?」
神徒である彼女が今日の聖戦に参加していなかった事にシフォンは驚いた。
聖域で行われる聖戦を戦い抜き、この街に現れる塔へ向かい登り、そして天使が住んでいたとされる空に浮かぶ島へ願いを叶えに行く。それに一番近い存在、それが神徒なのだとシフォンは考えていたからだ。
「ええ、例え神徒であろうとも必ずしも聖戦に参加をしなければならないと言う事はありませんよ。もちろん、生徒達や信徒である方々もです。そもそも、聖戦が行われること自体が不規則な事なので、その場その時によっては止む得ない場合もあります。もちろん、それでも積極的に参加をして自身の願いを創造えようとする学園生は沢山います。」
その事を聞いたシフォンは自身の考えを改め納得した。
「そうだったんですか、ごめんなさい僕は知らない事ばかりで。」
「大丈夫よ、貴方はまだ新入生なのですから。さっき私が自室にあると言った学園の手引きには聖戦も含め生徒に関連することは総じて記載されているので読めば大体理解できると思うわ。」
自室と聞いて少し長く話しすぎたと気が付いて、自分の部屋に戻ることにした。
「わかりました、それとすみません少し話し込んでしまって。そろそろ自室に戻って休む事にします。」
「気にしないでいいのよ、それと普段の私は学園が終わり次第しばらく夜までは寮の管理人室にいると思うので何かありましたら訪ねてきて下さい。」
はいと返事して礼をした後、僕は管理人室を出て行き自室へと向かった。
C棟へ向かってる途中、お腹の音が鳴るのが聞こえて思わず廊下で立ち止まった。
「うぅ、そういえば今日は一日たくさんの事がありすぎてお腹空いたな。確かこの寮には食堂とかもあったはずだけど、今日は疲れたからもう自室で休もうかな……」
食欲よりも休眠欲が勝った僕だった。
その後、自室へ着いたシフォンは部屋の中へと入り全体を一度見渡してみた。
テーブルと椅子にベッドとクローゼット、壁には時計が掛けられており、部屋の隅には冷蔵庫とさらにシャワー室が備え付けられていた、生徒一人の部屋としては十分過ぎるほどの部屋だ。
「うわ、教会の僕の部屋より豪勢だ。この部屋でこれから生活できるのか、楽しみだな。」
教会暮らしだったシフォンにとってはその部屋がとても感動的だった。
そして荷物をひとまず部屋の隅っこに置いて、テーブルの学園の手引きを手に取りベッドの上へと寝転んだ。
「これがシェリルさんが言ってた、この学園の事が書いてある本か……」
手に取ってただ眺めていると、これからの事を考え始めた。
僕に出来ることは何か、願い事は見つけられるのか、それとも誰かの力になれたりするのか。
そんなことを考えていると、だんだんと意識が薄れていきシフォンはそのまま眠りについた。
――これから巻き込まれていく僕の物語、それとも巻き込んでいく物語?――