真実との日
あはは、何だろうもうよくわからない作品になっちゃった。次はちゃんと楽しませられて読ませられるような作品を作りたいな。
小説って難しいね。次でラスト予定です。
僕らは学園の館から、そして学園の敷地内を出て街の中央の広場へ向かっている。その最中に道中で出会う人形共を蹴散らしながら進み行く。
さすがは神徒なだけある。個々の力が秀でいるばかりか、人形の数を物ともしない豪胆な立ち振る舞いだ。
「うぉおおおおお、邪魔だっ! どけぇえええええ!」
マガルがその大きな体躯と闘争心を印象付けるかの様な咆哮なる雄叫びを上げつつ、付近にいる人形達を殴り飛ばす。
「マガルは本当に戦いの時は性格が変わるにゃ、普段は物静かなくせに」
「ああ、だが奴の戦いにはどこか惹かれる何かがあって俺は好きだ――俺も加勢するぞ、マガル!」
のんびりと感想を述べてたニャルを横目に、カイルは同調しつつもマガルの傍に参戦しにいった。
「カイルも戦闘狂だにゃ……」
目を細め、呆れた様子のニャルだった。
ふと戦闘している輩を除いて先頭を歩いていたミトラが立ち止まり、シフォンとエンゼルの方へと振り向き直った。
「そうだ、シフォンくんとエンゼルくん。先の館での乱戦では君達の力が見事に解決策を投じてくれた。全生徒を代表して感謝する。ありがとう!」
ミトラは深々と頭を下げて僕達に感謝を述べる。
責任感の強さとその統率心の高さからか、それとも彼の人柄なのだろう。とても律儀だった。
「いえ、僕は僕にできる事をしたまでです。あの時は誰もが皆を助けたい護りたいって戦ってましたから」
「本当にシフォンは真面目なんだから、素直に感謝の一つや二つぐらい受け取っときなさいよ。それに、あの時の君は最高に格好良かったよ!」
褒め称えると同時にエンゼルは僕の腕に絡んで寄り添ってくる。
「エンゼルさん、淑女としての恥じらいを持ちましょう。軽々しく殿方に触れるなど、はしたないですよ!それに天使さまだって見ておられるかも知れないでしょうに」
フィーナがエンゼルのその様子を見ると矢も盾もたまらず、子供を叱り付けるように彼女は指を突き立てて「めっ」と言わんばかりにエンゼルを咎めた。
「もう、お堅いんだから聖女ちゃんは、しょうがないなー」
素直に僕から離れるエンゼルだった。さすがに時と場合を考えてのことだろう。
「天使さまだって見ておられる」――とは言う物の、その天使さまとは僕達の事なんだけどね。
エンゼルと視線を交わすと同時に微笑み合った。
「そろそろ広場に着くよ。あの塔へと挑む準備はできてるかな。ところで、僕達はどんな願い事を叶えるんだい?」
エルが爽やかな笑顔を作りつつ、僕ら神徒達の本来の目的である願いの確認を行った。
その言葉に全員が一度立ち止まった。
「どんな願いって、人形を排除して失心者を元通りにして欲しいって事を願えば良いんじゃないのか?」
エルの質問にヨッドは難無く答える。
「それって願い事が二つになって困らないかい?」
「うん……? 二つだね。そうか、ボクにはわからないが願いの数に制限があれば確かに不可能だ。」
その場を沈黙が覆う、誰もわからない。
誰も塔で願いを叶えた事が無いからだ、そして誰も願いを叶えた者も叶え方を知らないからだ。
ここに来て聖戦という不透明で不安定な概念が表面下に現れ、そして疑問として浮かび上がってきた。
「うーん、考えても仕方が無いか。今は塔の頂上へと辿り付く事を専念としよう!」
一先ず思考を放棄して目的の願い事を行う為の前提をまず始める事に決めたエルに同調して全員は再び塔がある広場に向かって進みだした。
僕とエンゼルは知っている。あの塔が天使が住まう浮島へ願いを創造えに行く為の架け橋でない事を、だから確かめに行かなくてはいけない。
どうして人間があの塔を創ったのか、本当に願い事を叶える力があるのかどうかを。
◇
「なん……だ、これは――――」
その場にいる全員が戦慄したと思える状況だった。
僕らが辿り着いた先、それは街の中央の広場。天まで届くほど高い塔があるだけかと思ったが、その光景は違った。
街の広場は異形で異彩を放つ人形達によって埋め尽くされ、人形だけ景色を作っているかのような悪夢の光景だった。まるで何者も寄せ付けないようにする為の。
「な、なんて数だ。こ、これじゃあ、まるで街中の人形が塔に集まっている様ではないか」
ミトラの一言の後に、広場全体を埋め尽くし塔を中心として群がり蠢めいていた人形達は一斉にぴたりと静止した。
静寂。
先程まで人形達のざわめく擦れた音の響きは無くなり、全てが時が止まったかのように思えた。
――そして次の瞬間、人形達がこちらを振り返ったように感じた。
「来るのか!」
僕達は全員身構えた。この大きな街の広場を埋め付くすほどの数だ。さすがに本気で掛からないとやられてしまうと思った。
――だが、それは思いも寄らない局面へと変わった。人形達は波打ち始めると同時に道を作るかのように塔へ続く道筋を立てたのだった。
「な、なんだっ……どういう事なんだ、誘われている?」
全員が思ってるであろう疑問をシフォンは口に出した。
「……わ、私が最初に行って見るよ! 安全だったら皆着いて来て」
「な、何言ってるのエンゼル。もしも途中であの数の人形が襲ってきたらどうするんだ!」
まるで自分が毒見役を進んで引き受けるかの物言いにシフォンは狼狽えた。
「大丈夫だよ、私の心の壁なら触れられる心配は無いもの。仮に襲われても全部弾き飛ばしちゃうんだから!」
「駄目だ、だったら僕も行く! 君の傍にいられる僕なら一緒に進めるから問題ないはずだ。いざと言う時の為に近くにいるよ」
「なーに言い合ってるにゃ、道を譲ってくれたのなら進めばいいだけじゃないか」
僕達の言い合いを尻目にそのまま人形達が作った道を歩いて行くニャル。途轍もなくマイペースであった。
直前まで言い合いをしていた僕達は恥ずかしくなった。
「誰かが犠牲になるなんて事は無いよ、皆で犠牲を分かち合えばいいんだよ~。」
そう呟くとニャルの後ろに続いて歩き始めるシェバト。さらに続いて全員が進み始めた。
「襲ってこないね。良かった、杞憂で……」
道なりの中間部分で僕達は人形が襲ってこないのを確認できると少しばかり安堵した。
そして塔の門前まで、僕たちはついに辿り着いた。
「後は、この塔を上るだけだ。さあ、扉を開けるぞ」
全員が塔の石造りの重々しい大きな扉に手を掛けて、ゆっくりと押し開いてく。
塔の内部が一望できるまで開くと、全員が驚嘆した。
「き、綺麗だ……」
最初に声を上げたのはエルだった。
内部を見渡すと大きな広がりを見せた空間があった。床には幾何学模様で描かれた陣のような物があり神秘的に輝いていて、壁には天使を象った彫刻が施されて豪奢かつ優雅な雰囲気を感じさせられる。
「美しいです。これは、きっと天使様の塔ですわ……」
エルに続いてフィーナも賛美の声を上げた。
――天使の塔なんて存在しない、これは人間が創った人工物のはずだ。内部の様子から、これは本当に天使という名の象徴を崇めて創った物なのだろうか。
「さあ、急ぐぞ皆。我々には時間が惜しい、一刻も早く事態の収拾をせねばなるまい」
ミトラの言葉に全員が塔の中程の幾何学模様の陣の上まで進んだが、ある点に気が付いた。
塔の本来にあるべき階段らしき物が無い事に。
「おい、この塔はどうやって上にあがるんだ?」
「わからん、壁でも走って駆け上がるか?」
「おう、そうか、ならばそうしよう」
マガルとカイルは助走をつけて壁走りを試そうとしたが、思わずその馬鹿らしい行動にヨッドが止めに入った。
「何考えてるんだ、二人とも! 不可能に決まってるだろう、どれほどの高さがあるのかもわからないのに……。落ち着いて調べてみることもできないのか」
「ニャルが先に跳んで上を見てくるにゃ、そゆことで『自由の風、遮るモノを吹き荒らし、風の祝福を与えよ。天より抱きし聖靴、ニャルの心の姿を具現化すにゃ』!」
周囲に風が巻き起こりニャルの足元に収束する。そして光を纏うと心装具を顕現させた。
「それじゃお先に失礼するにゃ――にゃっ?」
彼女が空へ跳び出そうとした瞬間、床に描かれていた幾何学模様の陣が光輝き出した。それと同時にニャルが姿を忽然と消え失せ彼女を攫っていったように見せた。
それを見たシェリルは床に手を置き、何かを考えている素振りを見せた。
「もしかすると、下に描かれている陣は心装具に呼応して発動する心の力なのかしら……? 『万物を縛りし鎖よ、主を仇名すモノに楔を穿て拘束せよ、天より抱きし我が聖鎖剣。私の心の姿を具現化せ』!」
シェリルは自分の予測を確認する為に心装具を顕現さした。すると、先程と同じように陣が光を燦然と発行させ彼女を攫っていった。
――シェリルさんの心装具を見たのは初めてだ。
利き腕に鎖を巻きつけいて、細剣に近く、柄頭から鎖が伸びている代物だった。
「どうやら、心装具を出さねば次に進めぬようだな。皆、行くぞ!」
ミトラの声に続き各々は心装具を顕現させると次々と光に攫われていった。
「エンゼル」
「何?」
「手、繋ごう。一緒に行こうか」
「うん!」
シフォンとエンゼルは指を絡めながら手を繋ぐ。人肌の温かさ、彼女の温度が伝わってくる。
二人は同時に自分の心を具現化させると心装具である光の翼を自らの背に顕現させた。
そして光に真っ白い光に包まれ何処かに攫われる。
――眩しい、ここは何処だ。何も見えない、エンゼルは?
手には彼女の温度が確かに伝わってくる。少なくとも離れ離れにはなってない。
段々と光が収まりを見せると視界が少しずつだが開けてきた。
「はいはーい、またまた二名様ご案内だねー!」
突然として、その声は僕達へ向けて掛けられた。それと同時に何かが飛んでくる。
「きゃあっ!」
エンゼルの悲鳴、彼女の心の壁に何かが衝突したのだ。その衝撃と音が伝わってくる。
「エンゼルっ! 大丈夫なの!?」
「あれあれー? その心の壁は……。そうか昨日の夜に塔の頂上に向かって飛んできたのは君達だったかな。」
光が収まり視界が完全に開けて、全ての物がはっきりと見え始めた。最初に見えたのは青空と雲だった。
円形劇場を思わせる造りの空間であり塔の頂上と思わしき場所だった。不思議と風に煽られることは無かった。
それと――
「みんなっ!」
――宙吊りの黒い十字架に磔になっている神徒達だった。
「ああ、大丈夫だよ。彼等は大事な生贄なんだから丁重に扱ってるさ。後は君達だけなんだけど、さすが特別なだけはあるね。」
声の主は少年とも青年取れる風貌の白銀の髪を持つ男だった。そして隣には車椅子に座っている長い黒髪の少女が佇んでいる。
――あの娘は、確か学園室で見かけた少女だったような……。名前はイヴ……?
「ちょっと、貴方達は何者よ! 何でこんな事をするの、生徒だったら神徒に協力しなさいよ!」
エンゼルが躍起になって怒り出す。
「何者か……。そうだね、初対面って訳じゃないけど名は名乗ったことは無かったね。僕の名前はアダムだ、そしてこの隣にいる彼女がイヴだ。よろしく」
彼は丁寧なお辞儀をして見せた。
「それと僕は生徒じゃないよ、君達の学園長をやってた者だよ。」
「なんですって?」
その男、アダムが指をぱちん鳴らすと隣に僕達がよく知る老人の幻影が現れた。学園長だ。
その光景に全員が驚きを隠せなかった。
「ほっほっほ、こちらの喋り方のが良かったかのぉ? 皆の衆。」
その幻影は、アダムという男と同調し同じ動きをした。
「そうじゃな、ここまでよくやってくれた。その褒美に何故このような事をするのか説明してあげようではないか」
アダムはわざとらしく老人口調で幻影を通して口頭での説明を始めた。
「まず聖戦というシステムを作ったのは私である。何の為にか? それは皆も知っておろう願いを叶える為じゃ。この塔は私とイヴが想像し創造した物じゃ、心の力を吸収して行き成長する力を持つ施設――だっ!」
飽きたのか老人の幻影を自らの手で掻き乱し消し去ると、再び説明を始めた。
「聖戦で心を使えば使うほど、塔に吸収され力を蓄え成長する。そしてその成長した力で願い事を叶えられると言うのが、この塔の力なんだよ。それだけじゃない、人間を心に変換できる力も備わっている。だから願いを叶えた者なんてのはいなくて、皆この僕が塔の力によって心の力に変えて還元したんだよ。」
衝撃の事実だった。願いを叶えた者なんていない所か塔に辿り着いた者は、みんな心の力に変換され生贄とされていたのだから。
だから誰も叶えた願いも知らない。だから誰も辿り着いた人物を知らなかったのだろう。
「もう察してると思うけど、人形達を作ったのも僕達さ。人から心を奪い取り塔へと吸収させるための駒といった所だ。」
「なんだとっ? お前があの人形を作り出したのか! うおおおお、糞がっ!」
その言葉にマガルは反応して暴れようとするが、黒の十字架に磔にされていて全く微動だにできなかった。
「無駄だよ。天使に最も近き僕達の力に、紛い物であり塔の養分でしかない君達の力なんて通用しないんだから。それと良い事を教えてあげるよ、さっき君は僕に何者かを問いたよね?」
アダムは隣にいた車椅子の少女に近づき頭を撫でながら、ゆっくりと話を続けた。
「僕とイヴは天使が創り出した最初の失敗作なんだよ」
その言葉にシフォンとエンゼルは目を見開いて驚愕した。
――彼等が僕達が作った最初の失敗作……? あの時の子供だっていうのか。確かに彼らには僕達の面影がある。それに車椅子の少女なんかは僕が学園長室で一目見た時、何故かエンゼルと見間違えた事だってあったけど。
繋ぎあってる手に力が入る、どうやら彼女も思い出し感じ取っているのだろうか。
「おや、その反応。驚いたな、もしかして記憶があるのか? 天使の心を持つ生まれ変わりさん。だったら創造主様とでも呼ばなきゃいけないのかな? それともパパ? ママ? どちらにしても僕らを捨てた天使様なんぞ憎む対象でしかないけどなっ!」
皮肉を込めてアダムは怒り叫ぶ。
「お前等が不完全に僕達を創ったせいで天使になり損ない。イヴは器に対して心が強すぎて不自由な身体になってしまった! お前達の傲慢さが僕達を生み出したんだよっ!」
「ま、待って!」
エンゼルが声を張り上げ呼び掛けた。
「私達のせいなら無関係な人を巻き込むのは止めて! 私達だけに当たればいいじゃない!」
「勘違いしてもらっては困るよ、憎む対象って言っても今は人間に成り下がった奴に今更どうこうする気はないよ。まぁ、僕とイヴの願いの養分ぐらいにはなって貰うけどね。あはははは」
頭と腹を抱え、けたたましく笑うアダム。
「それに関係ない人間なんていないよ。だって最初の人間達は僕達が心の力で創ってあげたんだから。まっ、今では勝手に増え続けてくれるから利用して役立って貰ってるけどね」
僕達が創り出した失敗作が人間じゃなかった。僕達が産み出した天使のなり損ないである彼等が、人間を自分達の紛い物として産み出した結果が本来の人間なのか……。
「ふぅ、話し疲れたよ。もういいだろう? 僕とイヴが『本物の天使』になる為に協力してくれよ、天使様」
ため息一つ付くとアダムは手を空に掲げる。空に一振りの漆黒に光り輝く槍が現れた。
――あれは、昨夜に塔の付近の空でエンゼルに向けて飛ばされた槍か!
「どうせ大人しく生贄になんてなってくれないんだよね? わかってる。だからさ、殺してでもパパとママの心は奪い去るよ。大丈夫、死んでも心は回収できるから。殺すのはただのちょっとした復讐――だよっ!」
言い終わる言葉と同時に投げつけられる槍。
「危ないっ、エンゼル飛ぶよ!」
「わ、わかった。」
その槍をシフォン達は上空へ飛び避けた。
「人間になってもまだ天使の翼があるのか、まだ空を飛べるのか。憎い、憎たらしい! 僕達を捨てて自分達だけ世界を飛び廻り空を見て楽しんで……。」
アダムの異様とも思われる天使に対する固執が、その碧い瞳の奥で復讐の炎を灯らせていた。
「シフォン、どうしよう。私は戦えないよ、あの子達と……」
「ああ、そうだね。あの子達のここまで追い遣ったのは他でもない僕等だから……。でも、だからこそ、僕達が責任を持ってどうにかしないと。この街が、人が、大変な事になってしまってる」
僕は覚悟を決めた、僕が彼等を止めなければ。エンゼルにこの状況は酷だ。僕が何とかするんだ!
「アダム! イヴ! 僕達は確かに一度、君達を見捨てたに等しい事をした。けれど違う、それは守る為にそうせざるを得なかったんだ。君達には翼が無かったから!」
「翼をなく不完全に産み出したのはお前達だろ! 僕達を守る為だと? 綺麗事を並べるな!」
またしても憎悪に満ちた黒い光輝く槍をいくつも飛ばしてくる。それらを空中で、紙一重で回避する。
「きゃあっ」
「っく。それに今ならはっきりとわかる。アダムとイヴは僕等が望んで産み出した子だ! 皆で一緒に暮らそう、今ならそれができる!」
その言葉にアダムは静止した。
「一緒に暮らす……? パパとママと僕とイヴで?」
落ち着きを見せたアダムを見て、シフォンは空から地に足を付け着地した。
「そうだよ、皆で暮らそう。だから、もうこんな事は止めるんだ。」
純粋な気持ちでアダムを見詰める、説得できると信じて。
「わかった、それなら僕の事を抱いて見せてよ。自分の子供のように……」
「ああ、わかった。今行くよアダム。」
アダムに歩み寄り近づいていくシフォン。
――そうだ、これで良い。争う必要なんて無い、これからまた僕達はやり直していけるから。一緒に暮らせるんだ。
「――なんちゃってね! 死ね、穢らわしい」
アダムと後一歩という距離でシフォンは槍に貫かれた。胴体に鋭い痛みと熱さを感じる。
時間がゆっくりと動いていく様だった。認めたくないその場面を見て、誰もが時が進むのを許さないかのように。
シフォンの身体は血を撒き散らしながら後方へと吹き飛ばされた。
「いっ、いやあああああああああああああああああああああああ」
耳が引き裂かれるような悲痛の叫び。その場を覆う悲しみの音。エンゼルの声だ。
「何が望まれた子だ、何が一緒に暮らそうだ。今更何を言っても遅いんだよ」
エンゼルはすぐに翼を羽ばたかせシフォンの元へと飛び近寄った。金色の瞳には涙が溜まり、零れ落ちて頬を伝い濡らしている。
「シフォン。ねぇ返事して、シフォン!」
エンゼルが泣いている。僕のせいなのか? 僕が悲しませてるのか? それは駄目だ。それだけは例え何があっても許されない。彼女を悲しませたりするのは嫌だ。
「ど……うしたの、エンゼ……ル?泣か……ないで。僕……大丈夫だか……ら」
「何が大丈夫なのよ、馬鹿っ!待って、今急いで治療してあげるから。フィーナとシェバトの二人を呼んで治して貰うから」
「う……ん……」
感覚が無くなって行く、意識が遠のいてしまいそうだ。だけど、エンゼルを悲しませたりなんかしないよ僕は……。
「そこを退きなさい、アダム。シェバトとフィーナに急いでシフォンを治療して貰うんだから」
「ママ、それは無理な話だよ。そいつはもう死ぬんだ。その心は塔へと還元されるって訳なのわかるかな?」
「退きなさいって言ってるでしょう、アダム!」
刹那、エンゼルを取り巻く円蓋状の心の壁が閃光となって光と共に空間を走り周囲に広がりを見せた。
全てを弾き飛ばす心の壁。全てを弾く光。
「ぐぁあっ、なんだっ!」
後方へと弾き飛ばされたアダムと共に円形劇場の舞台上で十字架に磔になっていた神徒達も弾き飛ばされ、その頸木が解かれたのだった。
それを好機と見た全員はすぐに散開して、シフォンの傍に立ち揃った。
「君達が何者か話が突飛過ぎてわからないけど、今はシフォンくんを助ける事に全力を出すよ~!」
「はい、天使さまを御守りできるなんて光栄の極みですわ!」
シェバトとフィーナはすぐさま心装具でシフォンの治療を行った。
「ああ、まさか天使様と共に戦えるとはな驚きだ。助けられた借りを返すぞ!」
「うぉおおおおおおっ、あのふざけた野郎をぶっ潰す!」
カイルとマガルが気合を入れ直し、戦闘に向けて構え出す。
「ふふ、君達が天使なんて驚きだね、事が終わったら後でボクに世界について色々と教えて欲しいね」
「あはは、こんな時でもヨッド。君は世界の興味津々なんだね、面白いね。でも、僕も知りたいな」
ヨッドとエルが笑い合いながら心装具に手を掛ける。
「君達が今は何者であるかなんて関係ない、この事態を収めて見せよう!」
「そうね、私達の本来の目的は生徒と街の人達を護ること!」
ミトラとシェリルが誓いを立てるかのように剣を掲げる。
「よくもニャルの事を縛りつけたにゃ、自由を奪った代償をきっちり支払って貰うにゃ」
ニャルが怒りを露にし戦闘体勢に入る。
「ありがとう、皆……。私はあの分からず屋の駄々っ子を懲らしめるわ! 皆、力を貸して。」
そしてエンゼルの声を合図に一斉にアダムに向かって全員が飛び出し散開した。
「馬鹿な奴ら、大人しくすれば痛みなんて無いまま心に変えてやったのに。抵抗するんだったら殺してでも塔へと心を還元させてやる」
弾き飛ばされた衝撃時に内臓を痛めつけたのかアダムは口元から血が出ていた。その血を手で拭い去り、体勢を立て直した。そして向かってくる神徒達を全員に戦いを始めたのだった。




