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君と僕の心世界  作者: エンゼルケーキ
16/18

人形との日

 明け方、僕は鳥たちの囀りで目を覚ます。一人用のベッドには二人、僕の隣でエンゼルが横たわり眠っている。その狭苦しいと思える空間には、暖かな温もりを確かに感じ取れる。そんな物が存在している。

 僕はその温もりに愛おしさを感じて、彼女の髪を撫でて今の気持ちを表現した。


「たとえ何があっても、必ず僕が君を護るから……」


 愛おしい君を護るためなら自己犠牲だって構いやしない、そう心に刻み込む。

 彼女を寝かせたままベッドから抜け出す。春先とは言え朝に起きるとまだ肌寒い朝、僕は少しの寒さに抵抗しながら早い気がするが学園に向かう準備に取り掛かった。


「全生徒による集会……か。一体、何の話をされるのだろう?」


 説明されるとなると、まず昨日の夜に急に現れた聖戦の塔の話だろう。学園側はあの塔についてどう判断するのかが重要だ。


「はあ、考え過ぎってのも考え物だな。気分転換に寮内を散歩してよう……」


 一度考えを中断して、部屋を出た。そして寮の中央にある玄関口からBとC棟の近道でもある広場まで足を運んだ。

 天窓から朝の陽射しが差し込む、心地の良い場所だ。辺りには木々が植えられ園芸の広場としても使われている、近くにあった備え付けのベンチに座ると僕はうたた寝を始めてしまった。二度寝ほど気持ちの良い物は中々無いと心から思う。


「にゃ? ニャルのお気に入りの場所にいるとは何奴――ってシフォンか。寝てる……? まぁ、気にしない。ニャルも寝ることにするにゃ。」


 何か、誰かの声が聞こえた気がした、でも今の僕のこの眠りを妨げる事は誰であろうとできない。

 僕は眠る。



「シフォン!」

「――はい!」


 うたた寝をしてた僕を叱咤する様な声が聞こえて、すぐさま起きた。目の前にはご立腹な様子で頬を膨らませたままのエンゼルが立っていた。その姿はすでに部屋着ではなく制服を着ていて、何時でも学園に向かえる準備ができてる感じだ。


「これはどういう事なの、説明して!」

「せ、説明っ?」


 説明? 説明って言われても、寮の広場のベンチで座っていたら心地良かったから、うたた寝してただけなはずだけど――ん? 右肩が重みを感じる、何だろう。


「えっ、にゃ、ニャルさん!?」


 右を振り向くとすぐ傍にニャルの顔があった。ニャルはシフォンに寄り掛かるようにベンチで一緒に眠っていたのだ。どうやらエンゼルはこの様子を見て説明を要求していたのだろう。


「私が起きたら隣に君はいないし、探しに来たら違う女の子と一緒に寝てるなんて! 私より、その猫の方が良いって言うのね!」

「ち、違うよ! 僕は一人でうたた寝してたんだけどいつの間にか隣にいたんだって、信じて!」

「んもー、うるさいにゃ、一体何の騒ぎだよ」


 僕とエンゼルが巻き起こす喧騒で、ニャルが目を擦りながら起き出した。


「ちょっと、ニャルさん! 説明してくださいよ、どうして僕の隣で寝てるんですか?」

「どうしてってニャルのお気に入りの場所で寝てたのはそっちだよ、起こすのが可哀想だから特別に一緒に寝るのを許可したんだにゃ」


 特に問題ないとの感じで経緯を説明するニャルに、エンゼルの怒りの緒が切れた。


「この泥棒猫! 私のシフォンによくも色目使ってくれたわね!」


 怒りで言っている事と考えが無茶苦茶になっていた。その怒りと共に具現化したのは白銀の三対六枚の翼である心装具(ハーティファクト)だ。

 彼女の怒りの臨界点が突破して武力行使に移ろうとしている。


「っわわ、ストップ! ストップぅ! エンゼル、別にニャルさんに他意は無いって!」

「ふしゃー! 何なのにゃ、エンゼル! 勝負するって事なのか!」

    

 とりあえず彼女を宥め、その場をどうにか落ち着かせて事無きを得た僕。朝から一波乱あった物の僕らは食堂へと行き朝食を摂る事にした。


「にゃはは、それにしても今朝のエンゼルは面白かったにゃ」

「面白くない! 全く……そもそも私が起きた時に部屋に君がいなかったのがいけないんだからね! シフォンは常に私と一緒じゃなきゃ駄目なの。」

「はい、ごめんなさい……」


 理不尽な事ではあるが今は逆らわないでおこうと僕は思う。でも、彼女が嫉妬してくれた事に少しだけ喜びを覚えた。愛されている、そんな感情が露になっている気がしたから。


「にゃんと、二人は一緒に寝てるのか。楽しそうだにゃー。もぐもぐ、んぐっ、おかわりしてくるにゃ」


 ニャルは立ち上がりメニュー選びのカウンター越しに向かった。

 楽しそうじゃなくて本来なら学徒である手前、不健全やら色々な由々しき問題が表の感想に出るはずなのに彼女はつくづくマイペースだなと思い知らされる。それにしても朝からよく食べるな。


「あの、第6のティファレトの神徒さんと第11のダアトの神徒さんですよね?」


 咄嗟に声を掛けられた僕達だったが、神徒としての呼び名であれば僕らがそうである。テーブルを間に隔てて一人の女生徒が心悲しげな雰囲気で立っていた。


「うん、私達がそうだけど、どうしたの?」

「あの、私聞きました。神徒の皆さんが一緒になって聖戦の願い事を叶える事を――その……どうか失心者を、私の友達を助けてください!」


 その女生徒は涙目ながら深々と頭を下げて懇願した。どうやら、彼女の友達は人形の攻撃で失心者にでもなってしまったのだろうか。


「神徒である皆さんなら力も……あるはずです。本当なら私が、私が友達を助けてあげたいんです。けど力なんて無いから神徒さんの人達にお願いするしかないんです……」


 エンゼルは席を立ち上がり彼女に近づくと優しい表情をしながら、その女生徒を抱き支えて頭を撫でてあげた。


「大丈夫だよ。失心者も貴女の友達も皆、私が助けてあげるよ! 私が強いのは噂で有名でしょ? 今回はちゃんと力になってあげるから安心して待っててね。」


 母であるかのような心温かさを放ち優しい表情と言葉で彼女を包み込む。


「はい、ありがとうございます……。よろしくお願いします……」

「ふふん、別にエンゼルがいなくてもニャルだけで十分だけどにゃ」


 ご飯のお代わりを持って戻ってきたニャルが鼻を鳴らしながら自信ありげに言うと再び席に付きご飯へと食べ付いた。


「ニャルの癖に生意気ね、こっちこそ貴女がいなくても十分なんだから猫はベッドで丸くでもなってなさい」

「にゃにー、エンゼル! いつもいつもニャルの事を猫って言って! 学園に行く前に一勝負するにゃ」


 二人はいつもの調子で、喚きながらお互いに言い合い始めた。


「ふふ、あははははは」


 それを見た女生徒は先程とは打って変わって悲しげな雰囲気を吹き飛ばすぐらいに笑い出した。


「どうしたの?」

「いえ、ごめんなさい。お二人のやり取りを見ていたらとても仲良さそうだったので。」

「ニャルとエンゼルは仲良くないにゃ! 貴様の目は節穴にゃー!」

「私、安心できました。神徒の皆さんでしたら大丈夫だってはっきりとわかったから。ありがとうございます!」


 彼女は一礼すると、僕達の前から走り去って行った。


「彼女、最初の悲しげな表情から一変して明るくなって良かったね」

「そうね、あの娘の為にも今日で蹴りを付けよっか。あの塔を必ず攻略して見せるんだから!」


 僕達は頼まれた事を成し遂げる為にも頑張らなくてはならない。あの娘の為にも、この街の人達の為にも色々な人達が僕ら神徒に期待を寄せているんだ。


「なら食べるにゃ、腹が減っては心が満たぬとも言うし戦えないにゃ。」


 そう言って横から食べ欠けの皿を突き出すニャル。

 彼女はわかっていて今日は朝から食べ続けているのだろうか、僕達の出す結果が街を助け、世界を修復するのだと。

 でも、食べ欠けの皿を突き出されても食べる気にはならない。普通にお代わりを頼むよ……。

 

 そして僕達は食堂で食事を終えると学園に向かうことにした。

 食堂を出て玄関口へと出ると外の面には講師が何人か並んでいた、全生徒の召集のためか学園までの行く道のりを護衛するかの様に点々と並んでいる。

 すでに街にも講師の人達は護衛に出ているのだろう。朝からご苦労様だ。


「朝から大変ね、こうする必要も無くなるよう私達が頑張らないと!さぁ、学園に急ぐよ!」

「うん、それじゃ行こうか」

「ニャルは跳んでいくにゃ、それじゃ二人とも学園でにゃ」


 ニャルは心の力を纏うと十数メートルぐらいの高さはある近くの建物の屋根に跳び移り、そのまま屋根伝いで学園の方へと駆けて行った。


「行っちゃった」

「私達も飛んでいく?」

「いや、やめよう。朝からあまり目立ちたく無いから」


 ニャルの後ろ姿を見送った僕達は再び学園へと向かって歩き出した。



 学園の敷地内で東にある一番広い心力場の館で全生徒は集められた。

 被害者もいる分、生徒の数は目に見えて少なくなっていた。総数で千人前後はいるはずの生徒数は見た感じで三分の二ほどまでに減っている。講師の人達も街に出払っている為か十数人ぐらいしかこの場にはいない。 

 この状況を目で見て事態の深刻さがはっきりと伝わってくる、これまでの被害状況を含めて全ての問題が。

 これ以上長引けば自ずと街の機能は失われて人が住める街では失くなってしまうだろう。


「おはよう、シフォンくん。昨夜はちゃんと眠れたかしら?」


 隣にいたシェリルさんが話しかけてきた。壇上の下の前面で神徒は横一列で順番に並んでいるため僕が一番右端の場所にいる、だから隣が第10のマルクトの神徒である彼女だ。

 そしてその神徒の列を基準に生徒は大体と整列している形となっている。


「はい、大丈夫です。ただ色々な事が一変に起こったいるので考え事が多くなっちゃって……」

「そうね、人形達の件もそうだけど夜間に出現するはずの無い聖戦の塔の事も……。学園長はどこまで現状を理解されてるのかしら」


 この様子だとシェリルさんもまた考えを張り巡らせてばかりいたのだろう。


「あーあーこほん」


 壇上脇から咳払いをしつつ中央へ歩き出したのは学園長だった。シフォンとシェリルは会話を中断して、これから始まる講説に耳を傾け始めた。


「すでに皆の者は事態の把握していると思う。まず現在、謎の生物による襲撃によって人々が襲われて始めているのは周知の事であろう。その生物は人形ドールと名付けられておる。その件に関しては神徒の皆が議会を行い、聖戦における願いで事態の収拾を治めるといった案になった。それによってしばし聖戦では神徒達が協力し合って塔へと挑むであろう。できる限り、皆も協力してやってくれい。」


 どうやら神徒全員で聖戦に挑むと言うのは変わらずと言った所か。ただ今回ばかりは周りの生徒も協力的になってくれる以上、敵は人形だけとなる。

 つまり塔へ上るだけで、願いを叶えに行くだけだろう。あの塔が本当に願いを叶えてくれるなら。


「そしてもう一つ皆には言うて置かなければならぬことがあるのじゃが。昨晩、大きな地鳴りと鐘の音と共に街の中心の広場に塔が現れた。あれは私の目に狂いが無ければ本物の塔じゃ! 時は満ちたと言うことだ、是非とも世界に願いを創造かなえて街を救ってくれ。」


 老体故に元々曲がっている背を、さらに曲げ深々と頭を下げる。その姿を全生徒が注視する中、それは突然起きた。


「おい、あれ……」


 誰かが壇上の方を指差して一言を言い放つ。あまりに自然だった。学園長の横に、さも最初から存在していたのではないかと錯覚するほどに。学園長の隣に人形ドールが佇んでいた。

 そしてその人形は動き出した。


「なんじゃ――」


 学園長が振り向く、すると人形は腕の形をした部位を学園長の心臓へ目掛けて突き出した。その手で心臓を一掴みするのだった。


「――ぐっ、ががああああ」

「学園長!」


 誰もが叫ぶ中で、すぐさま講師も含め神徒達が動こうとした。

 その時だった。館内の生徒達の周囲に大量の人形達が現れ始めた。


「馬鹿な、ここは建物内だぞ!? どうして人形共が現れたりするんだ! くそっ、『我が魂に宿りしは神聖なる刃、邪悪なるモノを斬り裂く力、天より抱きし聖剣よ、私の心の姿を具現化あらわしたまえ!』」


 狼狽えるもミトラは心装具ハーティファクトを具現化させ、剣を手に取った。そして瞬く間に近くに現れた人形を斬り裂いた。


「各自、散開して各個で人形達を撃破するぞ。生徒達を護れ、混戦になると思うが無理はするな! フィーナくんとシェバトは講師の方々と学園長の下へ! 皆いくぞっ!」


 叫びながら指示を出すミトラに続き、神徒全員は矢の如く飛び出し人形達を殲滅すべく散開した。


「ひい、助けてくれ――うぐぁああああ」


 次々と生徒達に被害が広がっていく、大量に出現した人形達に囲まれているせいだ。統率がとれてる訳では無いが奇襲に近い形で包囲網が敷かれている為に対処が遅れていた。

 生徒達も応戦し始めた物の周囲の人混みで上手く戦えてない状態であった。


「きゃああああああああ」


 また一人また一人と襲われていく中で、僕は心の力(ハーティスト)を行使して重力の力で人形を動きを抑圧させ存在自体を圧殺し消滅させていく。周囲に生徒達がいる為、広域に渡って力を使うわけにもいかず一体ずつ相手をしている為か、その効率の悪さに人形共の限りの無さを感じさせられている。


「糞っ! これじゃあ、全く切りが無い! 一度に全員を相手にする方法は無いのか!」


 考えるんだ。人形の行動を制限させて尚且つ生徒達を護る為の力の使い方を……。

 ふと館内の宙空を位置した所で心装具ハーティファクトの白銀の翼を拡げて浮かびながら、空から応戦しているエンゼルが視界に入った。

 空! そうだ、力の使い方を変えれば良いのか。


「無重力を館全体に作り上げて全員の行動を制止させてやる!」


 やると決めたと同時に僕は心装具を具現化させ背に現して漆黒の翼を拡げた。

 そして力の使い方を、重力を反転させ無重力を築こうと試みた。


「ふぅ……。行くぞ! 全員浮けえええええええええええええええ!」


 館全体が黒き光の線上の柱が浮かび立つ。

 シフォンの心の力が心装具を通して全体に行き渡らせているかのようだった。それと同時に全ての者とモノが浮遊し宙へと浮き上がった。

 見事に誰もが動けない静止した場を作り上げた。その奇想天外な状況に誰しもが目を丸くしてその場で宙を足掻く形になっていた。

 ただ一人を除いて――


「エンゼル! これなら被害はこれ以上に広がらない、今の内に君の力で人形を消滅させてくれ!」

「ナイスよ、シフォン! それじゃあ、次は私の番って訳ね。見てなさいよぉ!」


 低空にいたエンゼルは、天井を近くとする位置まで高度を上げて人形達に視線を向け狙いを付けていった。


「誰か間違えて当たったら、ごめんね! 心の力を纏ってれば怪我だけで済むから許してねー」


 エンゼルは可愛く物を言うと、自身の両手に小さい光の棘の束を創り出した。それを宙にばら撒くと一旦静止したかと思えば、大きくなり剣の様な物へと変貌した。彼女の周囲をくるくると浮遊している光の剣の束。


「それじゃ、飛んでけー!」


 彼女は利き腕の左手を振り上げ前方を指差しすると、その光の剣の束は人形達の方へと飛び出した。そして貫き切り裂いていった。

 光の剣に貫かれ切り裂かれて音も声も無く次々と消滅していく人形を見ているとまるで何かの演出を見てるかのように煌びやかだった。


「ニャルも動けるんだにゃー、エンゼルだけに良い格好はさせないにゃ」


 この無重力空間で動ける人物はまだいた。ニャルだった、彼女は宙を蹴ると同時に跳び回り人形たちを踏み潰していった。

 それを見た生徒達は奇想天外な出来事に驚きエンゼルに圧巻されつつも自分達にできる事を模索し始め次々と行動を移していく。

 ある者は遠距離から心の力で狙い定め撃ち抜き、ある者はニャルの様に上手い具合に宙を移動し人形達を消滅させ駆逐していった。


 しばらくして全ての人形共を消滅させたのを確認した僕は力を使うのをゆっくりと抑え、全員を地面へと着地させた。

 それと同時に周囲から歓声が沸き上がった。賞賛と喜びの声だ。


「うおお、神徒ってすげぇええええ!」

「もう駄目かと思った、生きてる!」


 そんな中で僕は心の力の使い過ぎによる疲労のせいか、その場に座り込んだ。


「ふぅ。はぁはぁ、くっ、少し広い範囲で心の力を使いすぎたかな……。疲れたぁ」


 歓声が沸き立つ中で僕に近づいてくる人物がいた。


「シフォン! お前ってば凄い奴だって思ってたけど、ここまでだとはな。驚いたぜ、このこの!」

「フェン! 無事だったんだ、良かった。」

「おうよ、お前さんのお陰だよ。あとジェラもちゃんと無事だぜ!」


 僕は僕の力で護れていたんだ、大切な友人を……。良かった。

 それでも、あまりにも沢山の犠牲者が出てしまったのには変わり無かった。恐らく、見た感じだと数十人は軽く倒れこんでいる様に思える。


「何をしている、自体は深刻化しているのだ! 失心者の介抱を急げ、神徒はすぐに体制を整え塔へ向かうぞ。建物の内部まで人形が出現する様になった以上は時間が無い。」


 歓声の中、一際大きな声で全体を指揮しているミトラがいた。

 確かにそうだった、事態の深刻化。建物にも人形が現れるようになった以上、被害がさらに広がりを見せるのも時間の問題だった。


「ごめん、フェン。話は後で、僕は行かなきゃ。」

「あ、おい、シフォン!」


 シフォンは立ち上がり壇上の上で横たわっている学園長の近くで集まっている神徒達の下に走り寄って行った。


「エンゼル、学園長はどうなった!」

「シフォン……。」


 エンゼルは首を左右に振ると、目線を下げて学園長を見た。

 そこに倒れていた老人は虚ろな目をして声を発さない人形の様だった。


「駄目だ、僕とフィーナくんの心の力を使っても何も反応が無いよ~。ごめんね」

「私の力を持ってしても、やはり駄目でした。ああ、天使様どうか皆をお救いくださいませ」


 シェバトとフィーナはその場で力及ばずな自分に対して悔み嘆いていた。


「これはすぐにでも、あの塔でお願い事をしないと駄目だね。ヨッド、覚悟はできてるかな?」

「人形如きボクの相手じゃないね、覚悟も何もいらないよ。ボクはあの塔の存在を調べに行くだけさ、エル」

「とりあえず私達神徒は全員無事なのだから、このまま塔へ向かうことにしましょう。時間が無いのはもう本当の事よ。塔の事だって全ての人を助けれる確証があっての事じゃないのだから、もっと被害が広がる前に急ぎましょう」


 シェリルが二人の間に割って入って話の先導すると全員は頷いて塔へ向かう事にしたのだった。



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