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君と僕の心世界  作者: エンゼルケーキ
14/18

天使との日

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

ですが1つ謝らなくてはなりません、最近になってどうも気分が優れないと言うか精神面での問題が発生したため物語を書ききる自信が失われました。

ですが、どうしても作品を出した以上は拙い駄文であっても終わらせるのが作者としての義務だと思います。

なので急展開のめちゃくちゃな物語になるかもしれませんが許してください。

ごめんなさい。

 あの日、僕達が辿り着いた塔の目の前で起きた事件。

 それは人形の形をした白に塗りつぶされたモノと黒に塗りつぶされたモノが現れ、生徒の心を抜き取ったように見せた現象だった。

 それから数日間の事である、聖戦が始まる度にその人形達は其処彼処に現れるようになり増え続け街を跋扈するようになったのだ。

 そして、人形達は生徒達のみならず街の住人達までも襲い始めた。


「だから、この場で話し合った所で失心者の容態は良くなる訳でも無いだろう! それに被害は増え続けていくばかりだ!」


 第9のイェソドの神徒であるカイル・ディストが叫ぶ。

 ――失心者。

 それは、あの人形に襲われ人達のことだ。

 生きてはいるが感情が欠落し全てに対して無反応となり、文字通り心を失った状態。

 何を口にすることもなく何処か遠くを見詰めて人形の様になってしまっている。


 そして今、僕ら神徒達は学園の依頼により人形ドールに対する対策を講じる会議が行っている所である。 


「だったら少しでも力ある俺達が街へ繰り出して人形ドールを殲滅するのが役目だろう!」

「少しは落ち着きなさい、カイルくん。それは今は講師の方々がやってくれています、私達も生徒一個人である以上は危険に晒す訳にも行きません。」


 シェリルがカイルの事を落ち着かせようとしている。


「今の私達の役目は、この現状を打破する為に議案を纏め対策を練る事です。」

「はん、何が議案だ。被害を食い止める、それ以外に何ができる。シェバトの癒しの心の力(ハーティスト)ですら効かなかった失心者をどう助けるって言うんだ。」


 納得できない、そんな状態からかカイルは苛立ちが募りシェリルに対して挑発するよう言葉を飛ばす。


「それは……」

「うーん、ごめんねー。僕が不甲斐無いばかりに治せなくて……。でも、彼女だって僕達の身を案じて他にできる事を今探してるんだよ~。」


 その通りだ。確かに僕たち神徒が街に繰り出し、少しでも人形ドールを排除できれば被害は抑えられるだろう。

 だけど、次は僕達が失心者となるかもしれない。その状況を作り出したくないのが彼女なりの優しさなのだろう。


「何が身を案ずるだ、ならば俺は一人でも街へ行く――――」

「そこまでにするんだ、カイル。君の言ってる事は尤もだが彼女の言う事も理解してくれ、一先ずは現状の情報を整理してみよう。」


 カイルを制してさせ、情報を整理すると言った人物は第1のケテルの神徒であるミトラ・メタトロスだ。

 僕が初めて会う最後の神徒の一人だ、貴族風の出で立ちで金色に染まった髪を持つ青年だ。


「まず人形ドールと遭遇した事のある神徒から聞いた事をまとめると、襲い掛かった人間に対して心臓を――心を抜き去る様な動作を行うと聞いた。」


 これは僕とエンゼルが見た光景の情報だ。攻撃を受けた生徒たちは失心者の症状、状態へとなってしまった。


「そして、ただ触れるだけならば特に害悪性は無いとの事だ。そうだったね、フィーナくん。」

「ええ、私が襲われそうになった時に咄嗟に信徒の子が助けてくださいました。その時に人形の手に触れられたにも関わらず心身に別状はありませんでした。」


 特定の所作を受けなければ人形から心を奪われる様な事は無いらしい。


「そして、これは最後の情報だ。人形ドール心の力(ハーティスト)のみでは倒せない、心装具(ハーティファクト)を持ち得た者のみが倒せる。」


 そう、これが重要だった。最初は心の力(ハーティスト)で応戦をしていた生徒達だったが効果のある者と無い者がいた。

 それは単純に心装具(ハーティファクト)を扱えるかどうかなのだった、それが明確にわかるまで逆に被害は増大していっていた。

 だから、カイルはずっと”力のある者”と言い表し神徒である僕等を駆り立てさせようとしていたのだった。


「弱者だけを刈り取る行為、気に入らんな。」


 マガルが重々しく口に出すと、立ち上がり部屋の扉の方へと向かって歩き出した。


「どこへ行くんだい? マガル、まだ会議の途中じゃないか。」


 エルがマガルの行く先を聞く。


「俺は頭を使うことは苦手なんでな、街へ身体を動かしに行って来る。会議でも何でも好きにしてくれ、決定には従う。」

「さすがだ、マガル。俺も付き合うぞ。」


 彼の意図を読み取ったのかカイルは賞賛の意を表しマガルと共に部屋の扉から一緒に出て行って行った。

 その二人の去り行く後ろ姿を見てシェリルは諦めた様子で心配をしているようだった。


「本当、勝手だにゃ。ニャルより自由なんてちょっとムカつくにゃ、ニャルも行こうかなー。」

「おいおい、勘弁してくれ。これ以上、神徒がいなくなったら会議も何も無くなってしまう。私達だけでも案を出し合うぞ。」


 ニャルは借りてきた猫の様に大人しくはなったがミトラは自由奔放な神徒達を見て困り果てていた。


「ミトラ、はっきり言うが案と言っても数を減らすぐらいしかないとボクは思う。この世界の過去の資料をあるだけ全て読み漁った僕だけどこんな事例は知らない。」


 誰もが思っていることだった、失心者を助けれない以上は僕達に残されたできる事は被害を食い止める事のみだと言うことを。


「いや、考えてみようヨッド。君のその世界が関係しないとするなら、これは自然現象ではなく作為的な物だって可能性が出てくる。なら、その人物を探し出して止めさせれば良いのではないか?」


 ヨッドの言葉に引っ掛かりを見つけたエルは思った事を口に出した。


「作為的……。それは不可能だ、どんな人物がこんな状況を引き起こせると言うんだ。」


 ミトラの言う通りだった、人為的な要素が絡む場合はどうあっても一人で引き起こせる事態では無いのだから。

 仮に複数人いたとしても、ここまでの大事をすれば手掛かりの一つや二つ出ててもおかしくない。


「それにただ人々を害するだけで何の脈絡も無い。」

「……まさに(天使)のみぞ知る所業だね。」


 エンゼルの一言が沈黙と静寂を重ねたモノに変わり、この場を覆いつくした。

 そして、その一言に対して僕は思わず口に出した。


(天使)がわかるなら、(天使)に頼んで止めて貰いましょうよ。」


 シフォンの発言にエンゼルを除いたこの場にいる全員が呆気にとられた。


「新入生の神徒くん――――君は、確か、シフォンくんだったね? この期に及んで神頼みとはどういう了見だ。」


 ミトラは呆気に取られ驚きのあまりか僕に対して叱責を始めたが、その意味を理解しているエンゼルは、すぐに助け舟を出してくれ。


「違うよ、私のシフォンが言いたいのは聖戦の願い事でこの状況を打破できるんじゃないかって意味だよ。」


 いつの間に僕は彼女の私物と化していたのか突っ込みを入れたかったが話の腰を折る訳にも行かず、そのまま話を続けることにした。


「そうです、今だけこの現状を乗り切るために神徒全員で協力し合って聖戦を行うんです。そして願い事で世界を平和にする――なんて、素敵だと思いませんか?」


 世界の為に願いを叶えるなんて、聖戦の目的と願い事の尤もらしい答えだろうと思う。この回答に、この場にいる全員は納得した様子で各々の考えをまとめているようだった。


「そうか、聖戦か……。この事態にすっかり失念していたよ。確かにシフォンくんの言う通りだ。わかった、神徒は協力し合って塔へ目指し願いを叶えるとしよう。異論がある者はいないか?」


 全員に聞いて見た所、肯定の沈黙を見たミトラはこの案で議決する事を決めた。


「ならば、マガルとカイルにも至急、この案件を知らさねばな。それと学園中の者達にも公布せねばならない。私は学園長へこの件を伝えに行く、先に失礼するよ。」


 言い終えると、ミトラは忙しなく部屋を退出していった。

 そして会議が終わった事を理解した各自はそれぞれ自由に部屋から出て行った。



 神徒の会議を終えた僕とエンゼルはいつもの定位置である屋上の場所で佇んでいる。  


「いつも静かな屋上、ここから眺める学園も静かになっちゃいましたね。それと街までも……。」


 陽が真上にあり、昼休みでもある中で屋上から眺める学園の敷地内の広場は、今までより圧倒的に少ない生徒数になっていた。

 誰も外に外出しようとしない、何故なら人形ドールに襲われるからだ。

 家屋や建物の内部まで侵入はしてこないのが幸いとも言えるのだろうが、それが皮肉にも街を学園を静けさで包み殺すのには十分だった。


「大丈夫だよ、私たち皆できっとすぐに解決しちゃうんだから! それか抜け駆けして天使になる願い事でも叶えちゃおうかな、なーんてね。」


 こんな時でも彼女は持ち前の明るさで和ませてくれる。

 彼女ならきっとどうあっても、この街を救ってくれるんだろうなと僕は思う。


「あはは、それでも良いかもね。僕はエンゼルのする事だったら何でも力になるよ。」


 その言葉に彼女は一瞬だけ身体全体を静止させ何かを想い、考え、そしてシフォンに質問を投げ掛けた。


「ねぇ、シフォン。君はどうしてそこまで私を想ってくれるの? 私が君にしたことなんて、心の力の手助けをしただけだよ。」


 エンゼルはシフォンの正面へ向き直し、その宝石の様に美しい金色の光を纏った瞳で彼を見据えた。

 真剣な表情と視線に見惚れて思わず動けなくなってしまったが、シフォンはすぐに答えを出した。


「君が好きだからかな。 僕の心が君の力になりたいって言ってるんだ。」

「ふーん……突然だね、君は。」


 屈託の無い純粋な気持ちを述べたシフォン、それに対して今度は彼女が動けないでいたかもしれない。

 だけど、それもすぐに終わり彼女は言葉を紡いだ。


「そっか……うん、私も君の事が好きだよ。初めて出会った時から何か君の中に特別を感じていた気がしたんだ。」


 好きは突然に、その言葉は一言だけ、表現は抽象的かもしれない。だけど好きなんて感情なんてそんな物だと理解した上で御互いの気持ちを確かめ合う事ができた。僕は今がとても嬉しく喜びで心が満ち溢れた。

 これからも彼女の為に尽くしていこう力になろう、そんな事を考えさせられる。


――さすがは僕、今の君になら大丈夫かな。僕の心を一つに戻そう。――


 シフォンは私に「君が好き」と言ってくれた、私はこの言葉を待ち望んでいた気がする。ずっと探していた物、それは想い人からの愛情表現だったのかもしれない。

 想い人? 私はいつから彼の事が好きだったのだろうか、出会った時? 違う、もっと前から……。


――やったね私、これが好きって感情なんだ!ずっと、わからなかった心の憂い。もう一つに戻っても良いよね。――


 気持ちを確かめあっていた僕らを突如として光が包み込んだ。

 天使の羽根を象った光の翼が2人の背に顕現し光をもたらしたのだ。それは心装具(ハーティファクト)


「えっ――わっ、なんだ!?」

「きゃ――な、なに!?」


 無意識に具現化された心装具(ハーティファクト)の輝く光の中で、眠るようにシフォンとエンゼルは意識を断たれる事となるのであった。



「んっ――ここは……? っわわ、空を飛んで、浮いてる!?」


 シフォンが目覚めた場所。そこには空だけがあった、夕陽に朱く染められた夕空。

 宙を漂う形で浮いている僕、そして辺りを見渡すと僕のすぐ隣にはエンゼルがいた。


「エンゼル、大丈夫!?」

「んっ――あれ? シフォン、ここは何処……? 私達って学園の屋上で話してたんじゃなかったっけ。」


 そう、僕達は確かに屋上で話し合っていたはずだったのに、確か突然として僕達の心装具(ハーティファクト)が背中に現れたような?


「そうだ、勝手に心装具(ハーティファクト)が具現化されたんだ。その光に飲み込まれて僕達はここに?」

「どうして私達、浮いてるんだろう? それにしても綺麗な空、こんな場所で空を眺められるなんて夢見たい。」


 確かにとても綺麗だ。雲海によって陽の光が遮られ木漏れ日のように空を繊細に朱く染め上げている。

 まるで一枚の絵画を見ているかの光景。


「見て、シフォン。あっちの方角に何か見えない?」

「本当だ、行ってみよう! って、言っても動けない……」


 空から落ちることは無いが身体は浮いてるだけで動こうとすると思うように進めず、その場で虚しくも宙で足掻いてる状態になった。

 見かねたエンゼルは僕の手を取り、三対六枚の白翼(ハーティファクト)を広げた。


「いいよ、私が飛んで連れてってあげる、今なら落ちる心配なさそうだし!」

「あはは、お願いするよ。そうだ、僕も三対六枚の黒翼(ハーティファクト)を出しておこう。」


 彼女の空を飛びたい欲求はここで晴らされるだろうか、そんな他愛の無い事を考えつつ僕は彼女に手を引かれ導かれるようにと何かが見える方角へと空を飛んでいった。


「あれは……浮島? 何だろう、建物みたいなのもあるけど。」

「降りて調べて見よっか、何かあるかもよ。」


 僕とエンゼルは建物がある浮島の場所へと降り立った。

 その浮島には石柱が点々と立ち、蔦が這っている。島の中央前面には広い大きな階段、そしてその上には石で作られた聖堂みたいな物が建っていた。


「……何だろう。私、ここに凄い見覚えがある気がする。」

「うん、僕も何故か見た事があるような……」


 困惑しつつも2人は階段を上り、その未知の聖堂らしき建物の中へと入って行った。

 

「っけほ、けほ、かなり古びてるんだね。」


 光の射し加減で砂埃が舞っているのが覗き見え、この内部の見た目の古さから、この建物はかなり古くからある物だとわかる。


「そうだね、ずっと放置されてるみたいだけど。――――あれは? エンゼル、奥に像があるよ!」

「像? 本当だ、何の像なんだろう、人の様な形をしていて翼がある……天使の像?」


 2人は何かに惹かれ呼ばれるかの様に像の下へ歩み寄った。

 その像は2人の天使が御互いの両手を取り合って中央に寄り添う形で翼を広げている像だった。


「これは――まるで、僕達みたいだ。」


 今の僕達が同じ体勢を取れば、この像と同じ様に見えるだろう。そう思えるほど今の僕等に似ていた。


「うん――今の私達の姿にそっくり。って、あれ……?」


 その像は柔い光を纏ったと思えば、光は放出され2つの玉を生み出した。


「なんだろう、暖かい。」

「不思議だね、これ。」


 その光に触れると玉は輝きを増し光が2人を包み込んだ。



 光の玉が映し出した遠い記憶、それはかつて名も無い天使だった頃の自分達の記憶だった。

 心に流れ込んでくる記憶に僕達は全てを思い出した。

 いつからだろう、気が付いた時にはすでに君と僕は時を同じくして存在していた。


「ねぇ、今日は僕と何をする? 僕は君といるだけで楽しいけどね。」

「うーん、今日は空を眺める日にするかな。私も君といるだけでいつも楽しいよ。」


 私はこの時、嘘を付いていた。いつからだろう、君といるのに何か知らない感情が心の奥底に憂いを生じさせていた。

 それは好きって言う感情の一つだった。だけど、この時の私はそれが何かわからないでいる。


「ねぇ、今日は僕と何をしようか。歌でも歌う? あれ……どうしたの?」

「ううん、なんでもない。そうだね、今日は一緒に歌を歌おー。」


 僕はこの時、彼女の変化に気が付いていた。存在していた時からずっと僕達は一緒だった、だからわかる。何かが足りないと彼女は想っている、それが何かはこの時の僕にはわからなかったけど今ならわかる。

 それは君と僕の関係だった。この時の僕達は家族? それとも恋人だった? もしかして友達? 色々な関係が渦巻いていた。


「ねぇ、今日は僕と何を――――」

「今日は、私達の仲間を創ろうよ!」


 私は心の憂いを払う為に言った、仲間を創ろうよと。だけど、それはただの自分の気持ちへの欺瞞だった。

 本当に創りたかったのは君との関係の証。それは――私達の子供。


「この子は――失敗作だ。可哀想に……翼が無い。これじゃあ空だって飛べない、ここから堕ちてしまったら大変だ。」

「そうだね。」


 失敗作――そんな悲しい事を言わないで欲しい、この子は君と私の結晶なのに。

 でも、仕方が無かった。この時の君と私は知らなかったのだから仲間を創ると言った本当の意味を。


「駄目だ――この子も失敗作か……。どうしようか? この子達には生きる術を与えなくちゃいけないな、僕達の責任だ。」

「そうだね、私達でこの子達の為の世界を作ってあげようよ。」


 自分達が創り出した子供(失敗作)達の為に、私達の心で世界を創造してあげた。そして目が届く様にと僕達の島の下に位置する場所に広い世界を与えた。

 

 そして生み出されたのが今の人間達の住む世界であった。


「もう、仲間創りはおしまい。これ以上は何だか飽きちゃった。」

「そうかい? 君が止めるなら僕もそうするよ。」


 飽きたなんて嘘。本当は自分への――私の気持ちの憂いが晴れないから止めただけだった。

 そしてある日、私達は創り出した世界を覗いて見た。すると、いつの間にか子供(失敗作)達の仲間が増えている事に気が付いた。

 この時に私達は、それらを”人間”と名付けた。それから私は興味を惹かれて来る日も来る日も世界を見ていた。


「君は今日も人間観察かい? 僕も付き添うよ。」

「ねぇねぇ、あの人間達はいったい何をしているのかな。君はわかる?」


 そこには指輪の受け渡しを行い抱擁しあっている男女の姿があった、それは婚約の儀だろう。

 だけど当然この時の僕たちはわからない。


「そうだな……。物の受け渡しをしているみたいだね。単なる贈り物をしてるだけじゃないかな?」

「ただの贈り物? でも、二人とも満ち足りた心を露にしてるよ。」

「きっと、何か特別なのだろう人間の事はよくわからない。」

「……」


 この頃からだった。私が次第に人間へと興味を抱き始めたのは、自分の内なる心に秘めている感情がわかる、そんな気がして。

 そしてついにあの日、あの時が訪れた。


「ねぇ、私と一緒に人間(失敗作)になってくれる?」


 私は言った、自分の心の中にある知らない感情を見つけるために人間になると。

 君は二つ返事で私の言った事を受け入れてくれた。


「あぁ、いいよ。君が望むのなら何だって僕は受け入れる。」


 今思えば僕は最初から彼女のことが好きで堪らなかったのだろう。彼女の為に生きる事に喜びを感じていたのだから。

 それから僕達、2人は自らの器を創り出し人間の世界へと送った。期を見て自分たちの心を移し入れ、天使だった時の器は石化し彫像となった。



 光から抜け出したシフォンとエンゼルは石化した自分達の彫像の前で全てを思い出し理解していた。天使の頃だった自分達が何故に人間になったのかを。


「あはは……えっと、何だろうね……。一度に沢山の事がありすぎて何から話せば――――」

「……シフォンっ!!」


 名前を呼びつつ突如、僕の胸の内へと飛び込んで来たエンゼルに思わず倒れ込みそうになったが踏みとどまり、その場で円を描き踊るように回転した。


「っわわ!? ど、どうしたの?」


 その突拍子もない行動に思わず面を食らうシフォンだった。


「ずっと、ずっとこの感情を抱え込んでいたの。やっと理解できたよ、私! 君の事が好き、大好きだったの! あの頃から、天使だった頃からずっとだよ!」


 興奮を抑えきれない彼女は、瞳を潤ませて感情の全てを訴えかけ僕へ打ち付けてくる。

 いつもは物柔らかで陽気な彼女で本当の姿が見えない様に感じていた僕だったが、今だけは彼女の本当の素顔を見ているかのように感じた。


「落ち着いて、エンゼル。わかってるよ、僕も君の事が大好きだったんだ。今なら、はっきりとわかる。」

「嬉しいっ、本当にこれで私達はちゃんと結ばれたんだ! 私と君はもう恋人だよ! 絶対に離さない、シフォンは私の物なんだから。」


 そしてそれ以上の言葉を交わすことは無く、永遠とも想える時を僕らは抱きしめ合った。


「っとと、名残惜しいけど、こうしている場合じゃなかった。今この間でも街で人形達が暴れているんだ。」

「もうっ! 少しくらい良いじゃん、折角こっちが運命的な再開をしてたのに! 大体、私達の天使の力があれば問題の解決なんてちょちょいのちょいよ。」

「いやいや、エンゼル。今の僕達は人間だよ、天使だった頃の僕達はこの石像だよ……」

「まぁ、どうにかなるでしょ! 今なら聖戦だろうとなんだろうと簡単に願い事を叶えられるって!」


 記憶が戻り興奮が冷め切らないのかエンゼルは楽観的になっていが、天使だった頃の記憶が戻った僕はどこか落ち着いた視点で物を見つめる様になっていた。

 人間と天使の両方の記憶があるが僕達、僕は天使だった頃のほうが感情が希薄な感じがするようだったが、それに比べて彼女は……良い意味であまり変わりが無いみたいだ。


「とりあえず、学園に戻ろう。今いる島があの頃の僕達の島ならちょうどこの真下が中央の街で世界があるはずだ。」

「それなら、下に飛んでいく?」

「うーん、危険だけどそれしか方法が無いし仕方が無いか。」


 聖堂の外に出て見ると空はすでに暗くなっていた。

 シフォンは今いる浮島から下を眺め街が見えないかと様子を探ってみた。


「微かに明かりみたいなのが見えるけど……雲に覆われてて下があまり見えない。どれほどの距離があるのだろう、途中で落ちるなんて事になったら洒落にならないな。」

「ねね、シフォン。その心配無いと思うよ。」

「えっ?」


 彼女の方へと振り返ってみると、この暗闇の中で光で形容された手擦り付きの椅子に座って輝きを放っているエンゼルがいた。


「何してるの……?」

「ん、心で椅子を作ってみた。今の私達って元の記憶があるんだから心の力の使い方ぐらい楽勝だよ? さすがに人間の心じゃ大きなモノは作れないけど。」


 そういえばと思い、三対六枚の黒翼(ハーティファクト)に心の力を想い描き空を飛ぼうと試みた。

 すると飛べなかったはずのシフォンだったが想い描いた通りに力が働くようになっていた。


「おー、本当だ! これは便利だ、それならこのまま簡単に戻れるね。それにしても、人間離れしちゃったなー。」

「まぁ、この程度なら可愛いモノでしょ!」


 そして力を行使して、僕達は空を飛び学園へと戻る事にした。

 夜空を飛び雲を突き抜け風を裂き、2人はまるで天使だった頃を思い出しながら段々と見えてくる自分達が創った世界を眺めながら地上へと降り立った。


「到着っと! ね、シフォン言ったでしょ、心の扱いなんて今の私達なら楽勝だって!」

「本当だね、これなら人形ドールだって敵じゃないね!」


 夜の学園の屋上へと舞い降りた2人は自分達の心の力に驚嘆し浮き足立っていた。


「よし、今日はもう遅いし寮に帰って休もうか。」

「そうだね、そうしよー! それと夕飯、一緒に寮の食堂で食べよっか。」


 僕達の天使だった頃の憂いは消え去り、これからは人間として生きていく中で僕と彼女は上手くやって行けるだろう。

 もう心の統合は済んだ、後は君と僕の物語を終わらせよう。ただそれだけだ。



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