関係
「華絵先輩」
転校生が来た次の日の放課後、私は転校生を連れて吹奏楽部室へ行った。
「河川敷でこそこそと堂々と吹かなくても、吹奏楽部に入れば毎日張り切って堂々と吹けるよ」
訳のわからない、日本語になっていないものを彼に投げかけ、彼の返事も聞かずに部室に連れてきた。
口実にもほどがある口実だと思う。
私の気持ちが、何かしらの方向に定まっていた訳ではないけれど、気持ちのまま、思いのままに言葉を繋いだ。それがいいのか、悪いのかもわからずに。
「どうしたのよ、架穂」
「新入部員を連れて来ました」
「はい?7月のこの時期に新入部員?」
「岩佐くん!こっちこっち」
「ど、どうも……」
華絵先輩がソプラノサックスのリードを咥えながらポカンとしていた。これぞ真顔、という顔だった。
「は、初めまして……?いや、どこかで会ったことあるっけ……?」
「あ、えっと」
「彼は昨日転校してきたばかりなので初めましてだと思います」
「そ、そうなのね、初めまして……私は部長の柏崎華絵です。ご覧の通り、サックス担当で……えっと、お名前は?」
「僕は……岩佐宏文といいます」
「華絵先輩、岩佐くんはサックス経験者なんです」
「あら、本当?前の学校でやってたとか?」
「まあ、そんなところです」
「そんなところ、どころの騒ぎじゃないです」
話盛り過ぎだよ……といった顔で彼は私の方を見た。