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換気扇

作者: 糸川草一郎
掲載日:2014/01/20

どこかに換気扇の音が鳴っている

それはぼくの悪夢だろうか

夕べぼくは誰かを殴った気がする

どこかへ逃げた気がする

いまこの部屋に大の字に横たわっていて

ぼくは自分が無実であることを確信できずにいる

ぼくはいろいろな悪いことをしてきたはずだ

夢じゃない

人に随分な言葉の暴力だって浴びせたはずだ

夢だったらよかったけれど

あの店はきっと出入り禁止だろう

あのうまいスコッチはもう飲めない

どこかに換気扇が鳴っているから

ぼくは不幸なのだし

ぼくは結局換気扇のお蔭で

何処へも行けない

生まれた時からぼくの耳には換気扇の音が鳴りつづけていた

誰が換気扇のスイッチを入れたのか

父も母も、学校の先生も

物知りの祖母も教えてくれなかった

それはぼくの悪夢だろうか

ぼくはなぜぼくであって

換気扇の音を始終聞きながら生きてゆかねばならないのだろう

ぼくは恋をした

とんでもない恋だった

あまりに荒唐無稽だから

誰も信じてくれない

それが換気扇のせいだったら

ぼくはどうやってこの恋を実らせたらいいだろう

神さまは換気扇の向こうで笑っている

誰もここにはやって来られないし

誰もが換気扇のことなんか理解してくれない

夕べぼくは誰かを殴った気がする

どこかへ逃げた気がする

いまこの部屋に大の字に横たわっていて

ぼくは自分が無実であることを確信できずにいる

ぼくはいろいろな悪いことをしてきたはずだ

夢じゃない

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