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端高の奇譚 ぷらす  作者: わたつみなん
8/10

哀しみの保健室(爆)

「湊様、しっかりしていただかないとこまります」

簑亀の黒く深みのある大きな瞳を顔前にされたうえきつく睨まれて湊は(からだ身を竦めた。

「…まだ、操作に馴れてなくて…」

カッ!

と、簑亀の目が更に見開いた。

思わず、湊は簑亀の掌に乗せられたスマホの上で後退った。

それに合わせて湊の身体がカクカクと奇妙に動く。

「み、な、と、様」

「す、すいません」

簑亀の怒りの目に(からだを硬直させて湊が謝った。

小柄な身体にもかかわらず簑亀は軽々と湊を引きずり迷うことなく保健室の前に立った。

「失礼いたします」

-カラカラ

保健室のアルミドアが軽い音をたててスライドした。

-そういえば、保健室なんてきたことないなぁ…

簑亀と(からだが足を踏み入れると(みなとは目をしばたかせた。

「????」

保健室←屋内のはずだがアルミ扉の先には霧が立ち込めていた。

剥こうも見えない霧の中、足元に紅い何ががぼおっと浮かび上がっている。

「失礼いたします」

簑亀は躊躇する事なくその紅い物に足をかけると(からだを引きずるように歩みを進めた。

-太鼓橋?

太鼓橋…『たいこのように半月形に反り返った橋。この近辺では天神様のところが有名』

授業で聞いた知識が無駄に頭にうかんだ。

無意識の現実逃避をしながら(みなとはスマホの上から下を除き込んだ。

-さらさら…

橋の下から水の流れる音がする。

-海の匂い???

「どうなされました?」

声に感触があるのならしっとりと柔らかく甘い声が橋の向こうからかけられた。

蓑亀はかなりの急こう配の橋を気に留めることなく上品に渡りきり湊をぼんやりと浮かぶベットに片手で投げ込むと糊のきいたシーツに沈めた。

ベットのクッションがいいのか湊の身体が一度中に浮き糸の切れたマリオネットの様に妙な角度で白いシーツにうずもれた。

「具合の悪い方をそのようにされてはいけませんわ」

抑揚がいまひとつない言い方でたしなめる声のほうにみなとが顔を向けると看護師の白衣を着た黒髪の妙齢の女性がゆるやかに立ち上がった。

わたくしとしたことがいけませんわね」

蓑亀が恥じらうように口に手を当てる。

「藻子さまでいらっしゃいましたか、本日はどのようなご用件で」

用件はどうみてもからだのことだと思うのだがそこは華麗にスルーされている。

「『様』はおよしくださいませ。今回、わたくしは一生徒ですので『蓑亀』でよろしくてよ」

「では蓑亀様、人ごときをお連れになってどうなさいましたか」

「ご説明いたしますと長くなりますがよろしいでしょうか」

「蓑亀様の仰せであれば問題はございませんわ」

言葉どおり蓑亀の説明は長くみなとが眠りについてしまったのはお約束であった。


湊が目を覚ますと、窓の外からは運動部の練習の声が聞こえ、吹奏楽部の不協和音と残り実習でやっているのであろう溶接の匂いがした。

―放課後!?

焦りで上半身を起こして左右を確認した。

目を瞬かせてみると足の先には清潔そうな毛布がかかりけだるげな午後の光が影と温かみをのせている。

その先には業務用デスクがあり、白衣の背に長い黒髪が印象的な女性らしき人が座っていた。

小中学校で怪我をすると連れてこられた『THE保健室』

湊はしばらく呆然とその背中を見つめていた。

「お目覚めになられましたか」

湊の視線に気づいたのか振り向いた女性は白衣をまとっているのにそれが逆に妙な色気を醸し出している。

「桜子様」

そういいながら湊に近づくとその白くほっそりとした指を湊の頬にあてた。

「ぁぁああああぁ????」

湊は驚いて後ずさると女性は困ったように首を稼げながら白魚のような指を自身の右頬にあてた。

「やはり、中身はちがいますのね」

いささか軽蔑したようなものいいに湊はカチンときた。

「どなたですか」

イラッとしてるときでさえ目上の人に言葉を崩せないのは母親の厳しいしつけのたまものかもしれない。

「養護教員の『咲丘さきがおか』と申します。お話は藻子様…蓑亀さんからうかがっておりますわ。湊さん」

冷たく突き放すような言い方に湊も憮然として立ち上がろうとして我にかえった。

あれじゃない?!

湊はあらためて自分の手を見てから長い髪を掬い上げ恐る恐る手洗いの上の鏡を見た。

「夢ぢゃねっぇええええ!!!」

大方の様相通り、湊は美少女の姿のまま絶叫した。





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