部屋で吠える食玩
「…っ」
湊が目を開けるとそこはみなれた潮の部屋だった。
…そうか、夢かぁ、だよな~(笑)
湊は額にかかっているであろう前髪を書き上げるしぐさをした。
つるん
「?????!!!!!」
前髪のあるべきところは硬質て滑らかではあるが冷たかった。
「今度の夢じゃ、こなきじじいにでもなってんのかぁ?」
「あ、湊、起きた?」
湊の声で目が覚めたらしく起き抜けの間延びした潮の声が聞こえる。
と、湊の眼前にくりくりとした眼球がアップで現れた。
ー「どぁぁぁぁっぁぁ!」
「どうしたの?」
ー「な、なんで眼球!ってかおまえでかくね?!」
驚いた口のきけない湊が肩で息をしながら言うと潮が軽くうしろにさがりながら首をかしげて微笑んだ。
「小さいのは湊のほうなんだけど」
ー?
心のなかで疑問符を受べながら湊は潮が正面に置いた鏡を凝視した。
猫ともライオンとも鬼瓦ともつかない顔が『カパッ』と口を開けてこっちを見ていた。
「その形代になったんだ~♪」
ー涙しか出ない…
目の前の鏡の中の食玩が口を開けたまま、唯、だらだらと涙を滂沱していた。
「ねぇねぇ湊」
楽しげな潮の声に湊は顔を上げた。
「じゃーん♪」
潮が湊の前にやたらでかく感じるスマホを出した。
「…」
「み・な・とぉ~テンションひくいなぁ~。」
湊が口をパクパクさせた。
「あ、そっか~!話せるかどうかテストしてみたら?」
湊はゴクリと唾をのんだ。
「アー、アー、聞こえますか」
がさがさした声だったがどうにか声がでた。
「僕は鉱石ラジオぢゃないんだから…ほらこれこれ」
潮が笑いながらアプリの1つを指差す。
「で?」
すでに心の腰が折れて、学習的無気力になった湊がぼんやりと答えた。
「うん!作ったんだ♪」
…こいつオレがこんな状態の間に嬉々として作っていやがったな。
湊は幼なじみだけに見ていない時の潮の嬉々として作っている姿を容易に想像できた。
「で?」
湊がもう一度問うと
「これで『あれ』が動かせるよ」
湊は潮に『あれ』と言われて指差す方に目を向けると、潮のベットに正座した姿勢で両手をダラリと毛布の上に投げ出している湊の身体があった。
「身体?!どーしたんだ?!」
潮は見たからが死体のような湊の身体に軽く目を向けてから湊の形代の鵺に向き直った。
「重いからどうしようかな~って思ってたら、箕亀さんのおじさまが車出してくれてうちまで連れてきてくれたんだよ」
…こいつ、車なかったら置いてったな
湊は潮にジト目を向けた。
「そしたら、アプリと湊の身体を繋いでくれるっていうからやってみた~」
ちゃら男がそう言わなかったらあそこに放置だったらしい。
「ねぇねぇ、動かしてみてよ~♪」
…こいつ、オレで実験検証しようとしやがったな
「やだ」
「EEEEぇ~!せっかく頑張ったのにぃ」
潮はさらさらした髪を振りながら両手を口元にあてる。
「もう俺、人生に疲れた」
湊はふてくされたようにスマホの矢印の上に寝そべると猫の様に丸くなった。
「その形代気に入らないの?…なら、別のにする?」
潮は湊の機嫌が悪くなっている理由がわからないらしく無邪気に聞いてくる。
…他のって…
湊はのっそりと首を上げ潮の机の下に落ちている形代候補に目をやった。
例のごとく、なんとかちゃん人形、人体模型、ソフビの怪獣、山椒魚のしょういちろうのぬいぐるみ…。
「いえ、コノママでケッコウデス」
湊はもう一度組んだ腕の中に頭を落とした。
「いいなら、じゃぁじゃぁ接続できるかためしてみよ~よ!
休み明けから学校はじまるんだから」
学校!
その言葉に湊は頭を跳ね上げた。
「登校拒否したい…ホント」
「出席日数足りなくなったらおばさんにどつかれるよぉ」
潮が動かない湊の体を操って手を振らせながらにこやかな声で言った。