悲しきタイトルの堕天使
「まぁ、まぁ、明日からGWなんだし、落ち着くまで俺んちにいればいいんじゃない?」
さすがに学ランのままとはいかないので、湊は学校のロッカーに入っていた作業服に着替え潮の家に向かうことにした。
潮の家は学校から徒歩圏内ということで湊の緊急避難場所に部長に勝手に指定されたのだが潮は気にも留めていないようでいつも通りにのんびりと歩いている。
後ろを歩く湊は着替えたとはいえ己の姿に未だ釈然とせずに体を屈める様に歩いていた。
「お前んちにいけるのは助かるけど…お前んちの家族に見られちまったらまずくないか?」
湊は前を歩く潮にぼそぼそと小さい声で聞いた。
「うちの親は旅行中だし、姉さんは大学に泊り込みだからGW中は大丈夫だよ」
「なんで、お前も落ちついてんだよ…」
「あわてても、もどるわけじゃないだろ?」
「そうだけど…」
「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着きなよ」
潮が家の扉を開けながら言う。
「はぁぁぁぁぁ…。俺、もどれんのかな…」
潮の家の玄関の大きな姿見に映った己の姿に湊は額に手を当てながら大きくため息をついた。
「あれ、潮…どこいったんだ?」
湊はテーブルの跡のついた頬をなでながら顔をあげた。
今日の疲れがでたのか潮が買ってきてくれた弁当を食べてすぐにテーブルに突っ伏して寝てしまったらしい。
髪に手をやるとふさふさとした茶色い塊が細い指の間をさらさらと流れる。
絶望感のなかで湊はスマホを手にしてからはたと手を止める
「ぁあ…そういやあいつて‘FAIN‘‘やってねー!」
潮いわく既読が面倒なので意図的にやらずまたアプリが必要ないということでガラケーにしているらしい。
仕方ないのでメールで
『どこ?』
と打ってみた。
いつ返事が返ってくるかもわからず首をこきこきとならしていると
うたたねしていた隣の椅子に紙袋が置いてあるのに気づいて視線を落とすと紙袋の取っ手のところに付箋が張ってあった。
『湊へ』
と書いてあったので湊は中をのぞいた。
「いぎゃぁぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!?」
美少女の姿のまま、美少女らしからぬ叫び声を上げた紙袋を床に投げた後、
確認のために湊は摘み上げる用におそるおそる袋に指をかけた。
そこにはブラジャーが入っていた。
「じゃん♪じゃららん♪じゃん♪じゃららん~♪」
昔なつかしの『解○ズバ○ト』の曲が携帯から流れてくる。
湊の母が有無を言わさず勝手に設定された着メロだ。
こいつのせいで湊は今、[漫研特撮班]に在籍する羽目になったのだが
解除するには命をかける必要があるので未だこの曲のままだ。
湊はあわててブラジャーの肩の部分に腕を通したまま携帯を取り上げて通話にした。
「つけた?」
潮のボーイソプラノな声が聞こえた。
「なにをだぁ!!」
「え?ブラにきまってるじゃん」
「つけてねー!!」
携帯に向かって怒鳴ると腕にかかったブラジャーが勢いで目の前で激しく揺れる。
「えぇ!せっかくおこずかいで買ってあげたのに~!だめじゃん!」
「なぜいまダメだしした」
「サイズ、ピッタ(ぴったり)でしょ?あれ~?ちがった?」
「そういう問題じゃないだろ!!」
「E~、第二次性長期にちゃんとケアしないと肌がすれたりして血が出たりするからちゃんとつけてあげないとだめだよ。保健体育でならったでしょ?」
「じゃなくて!!」
湊が涙声で潮に詰め寄ると潮は大きくため息をためいきをついた。
「いま、おまえ、面倒って思いやがったな…」
「思ったけど…そんな小さいことで大騒ぎしてって…」
「ちいさくねぇ!!!」
「はっ!」
湊の叫びに潮は吐き捨てるように息を出すと
「俺、『へるぽーと』横の公園にいるからくれば?もしかしたらなんとかなるかも」
ピッ!
「あいつはのーてんきか?!」
一歩的に通話をきられた湊は美少女の姿のままブラジャーを腕にかけたままダイニングテーブルの前でかたまっていた。