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さすらいは衝突のあとで
-「健全な心は健全な体に宿る」
とするのは誤訳だというのは周知の事実だ。
その誤訳を堂々と黒板の上に掲げている。
専門バカとはこのことなのだろう。
そして今、「健全な体」でもない状態の俺。
なんでこんな状態になっているのだろうか…。
湊はひとりごこちた。
「わたくしにいろいろおしえてくださいませ。湊様。」
長い黒髪の美少女、蓑亀藻子が
湊のぐったりとした腕を取り立ち上がらせるとクラスメイトに微笑みかける。
しかし、湊の今の位置からは彼女(彼女であるかさえ定かではない)の顔はあごしか見えず
スカートの端からちらちらと見える白い脚と上から降ってくる声が現実味なく揺らめいていた。
そう、湊の…正しくは湊のものであろう意識があるのは学ランの体のベルトについている〔鵺〕のストラップの中だからだ。
「なんでこんなことになったんだぁ!!」
湊は食玩の姿のまま学ランを汚す赤き何かを吹き出しながら嘆いた。