7
「わたしのママは魔法使いの家に生まれたの。…なのに魔法が使えなかった。もちろん手紙だって届かないし、おじいちゃんやおばあちゃんには勘当されたのよ!」
アイリスの目は僅かに濡れていた。
知らなかったとはいえ、傷付けてしまったのだとルークは胸が傷む。
「――ねぇ、僕ら似たもの同士だね」
黙り込んでしまったルークとアイリスに、フィルはそう言った。
「僕みたいなハーフはどっちの世界でも生きにくいんだ。ヒトにも魔法使いにも異端扱いされる。頭も力も至って普通レベルなのにさ」
フィルはまた草の上に寝転がった。
それにルークとアイリスも倣う。
ふわりと風に揺られた草の匂いが鼻腔をくすぐった。
*****
「――それは本当ですか?」
しわがれた声に告げられた言葉が俄かには信じがたいといった様子で若い女が返す。
老人は長く白いヒゲを撫で、頷いた。
「実際にワシも見たんじゃ…『無』に輝く光を」
ビーミッシュの言葉にオルグレン校長は息を飲む。
だとしたら、ただごとではない。
『無』が現れる時は何かが終わり、そして始まる時だと言われている。
一般的には無属性の魔法使いは存在しないとも言われていたが、事実はそうではないことを一部の魔法使い達は知っていた。
「…魔王の再来か、いえ――」
オルグレン校長はこめかみを押さえた。
そう、彼女も年若いが真実を知る者の一人だった。
「あるいは、新しい風になるやもしれん…」
神妙な顔付きでビーミッシュが言った。
校長はそうねと頷いたが、表情は曇っている。
魔王と呼ばれる者以来、無属性の魔法使いは現れてはいない。
その魔王自体が存在したのも今から数百年以上も前のことなのである。
代々の校長に引き継がれる歴史書にすら、他の魔法使いの名は出ていなかった。
「…幸い彼は、魔術の才能がよくありません」
出来るだけ穏やかな声で校長は言った。
入学資格があるかどうかを生徒やその家族に知られずに試験し、資格がある者にのみ入学案内を送るのが校長の務めの一つだ。
確かにルーク・フォーブスは才能がないようだが、学校で学べば何とかなるだろうと思えるレベルでもあった。
「しかし、何が隠されているかは分かりませんわ。ルークについて少し調べるしかなさそうね…」
ビーミッシュはその言葉に頷き、曲がっている腰を更に折って礼をした。
オルグレン校長がそれに微笑んだと同時に、彼の体は消える。
「ルーク・フォーブス…無属性の魔法使い」
再びこめかみを押さえながら、校長は静かに溜息を吐いた。