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「ビーミッシュ先生」
フィルとアイリスには先に教室を出てもらい、一人になったルークは部屋を片付けている曲がった背中に声を掛けた。
「君は…ルーク。どうした?」
ルークは声を掛けたものの言葉に詰まった。
まずビーミッシュが信じてくれるかという不安もあった。
「実は…属性試験のことで」
「属性を変えるのは無理じゃよ」
「そうではないんです!」
浮かない顔をしていたのだろう、困った顔で答えたビーミッシュにルークは首を振った。
「僕…あの…信じてもらえるか…」
「何だね?」
「…無の属性だったんです」
ルークの言葉にビーミッシュはまさかというような表情をした。
そして慌てて羊皮紙と羽ペンを隣の部屋へ取りに向かった。
「もう一度、ここへ名前を書いてみなさい」
ルークは羽ペンを手にした。
そう、何かの間違いであってほしいという願いを込めて。
先程と同様に丁寧に羊皮紙に自身の名を綴った。
まるでインクを吸い取ったかのように、羊皮紙から名前が消える。
そしてそこに浮かんだ光は――。
「…信じられん。無、じゃ…」
ビーミッシュは息を飲んだ。
疑うも何も、実際に目にすればそれは真実なのだ。
そしてビーミッシュ自身が言ったように、属性は変えられないものなのだ。
「今日のところは部屋に戻りなさい。わしから校長には伝えておく」
「じゃあ僕はやっぱり…」
「君が無属性ということはまだ誰にも言ってはならん」
ルークは何とも言えない気分だった。
「ねぇ、ルーク」
アイリスが今度は怪しげな袋を手に現れた。
一体今から何をしようとしているのだろう。
もしかするとそれに自分も巻き込まれるのだろうかと不安になる。
「まだ今は試作品の段階なんだけど――これ、あなたにあげるわ」
袋の中をゴソゴソと漁ったアイリスはゴツゴツした妙な石をルークに渡した。
正確に言うと押し付けた、なのだが。
光を受けて所々虹色に輝く黒い石は隕石か何かではないかと予想をした。
しかし、一体何に使えるのかは想像がつかない。
「これ、何?」
「ララックスよ」
「…ララックス?」
聞き覚えのない名前にルークは首を傾げた。
そんなルークにアイリスはふうと息を吐き、言った。
「お守りみたいなものよ」
特にそれ以上の説明はない。
それにしてもこの石がお守りだとしても、いつもこれを持ち歩いている必要があるのだろうか。
だとしたらなかなか面倒な物を押し付けられてしまったらしい。
こういうところが変人と呼ばれる所以なのかもしれないとルークは思った。
しかしアイリス自体は愛らしく優しい一人の少女であり、ルークには周りの生徒達のような態度を取る気にはなれなかった。
「ありがと。もらっとくよ」
ゴツゴツした石をズボンのポケットにしまい、ルークは礼を言った。
きっとこれはあの時の自分の表情から何かを察したアイリスの気遣いなのだ。