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「では、名前を呼ばれた者から順に隣の部屋で試験を受けてもらいます。終わったらすぐにこの教室へ戻ってくるように」
しわがれた声で先生が言った。
真っ白な髪と伸びたヒゲに、腰が曲がったような老人だった。
丸まった羊皮紙を広げ、上から順に名前を読み上げていく。
「アイリス・ヘイルウッド」
まず最初に呼ばれたのはアイリスだった。
はいと返事をしたアイリスは席を立ち、示された方へと向かう。
誰もが緊張しているのだろうか、教室内はやけにしんとしている。
それもアイリスが戻ってきたことで破られたのだが。
「どうだった?」
次の者が呼ばれ、教室内ら一気にざわめき立つ。
ルークはアイリスに尋ねた。
アイリスはニッコリと笑って答える。
「光と時と幻よ」
その返事を聞いたと同時に、ルークの名が呼ばれた。
それに気付いたアイリスが頑張って、と小さく言った。
部屋は薄暗かった。
白いクロスが掛けられたテーブルの上には一枚の羊皮紙と羽ペンが置いてある。
『名前を』
誰かの声がそう言った。
まるで頭に直接響いてくるような声だった。
ルークはペンを取り、丁寧に自分の名前を綴った。
心臓の音がうるさい。
しかし紙に記名したものの、特に何も起こらない。
早く――。
ルークは必死に願った。
『無』
紙が宙に浮いたかと思うと、ゆっくりと光が文字を綴る。
ルークは目を見開いた。
思わず近付いてよく羊皮紙を確認するが、光は変わらずに『無』を示している。
何かの間違いじゃないのか。
ルークは放心したかのように羊皮紙を見つめていたが、コンコンと扉を叩く音で我に返る。
とにかく後で先生に相談しよう。
そう決めたルークは部屋を出た。
「どうだった?」
まるで先程の自分のように尋ねてくるアイリス。
そして入れ違いに部屋に入っていくフィル。
ルークは曖昧に笑うしか出来なかった。
属性が闇でなかったことは良かった。
しかし無となればこれはこれで問題なのである。
何しろ無属性の魔法使いなど、今まで誰一人としていないからだ。
しかも一人に複数あるはずが、たったの一つだけなのだ。
アイリスはルークの表情から何かを察したのか、それ以上は何も触れずにいた。
「僕、地と木だった!」
帰ってくるなりフィルが言った。
アイリスは良かったわねと微笑んでいる。
周りでも他の生徒達が口々に自分の属性について語り合っていた。
しかしその誰もが『無』だと口にすることはなく、ルークには自分の属性なんて到底言えないと思った。