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「ねえ、君は降りないの?」
誰かがそう言ったのが聞こえた。
少し間が空いてからその言葉の意味を理解したルークは慌てて目を開き、辺りを見渡した。
目の前には少年が一人。
漆黒の髪に同じ色をした瞳をした彼は、ルークをじっと見ている。
少年はルークと同様の濃紺色をしたローブを纏っている。
――同じ一年生なのだろう。
そこまで考えたルークは立ち上がった。
列車を降りると、少年はこっちだよと言って手招きをした。
どうやらルークとは違い、学校までの方向を知っているようだ。
「ありがとう、ええと…」
「フィルだよ。フィリップ・メイヤール」
よろしく、とフィルは手を出した。
「うん、僕はルーク・フォーブスだよ。よろしく」
フィルに案内され、ようやく学校の入り口へと辿り着く。
思っていたよりも駅から距離があり、もうクタクタだった。
フィルはといえば、ルークよりも細身でひょろっとしているのに涼しい顔をしている。
「ほんとなら駅からここまで迎えがあったみたいなんだけど、ボンヤリしててさ」
大きな古い扉を目の前にして、フィルは言った。
しかし眠っていて到着したのにすら気付かなかったルークからすれば、フィルのお陰でここまで来れたのだ。
重そうな扉を開こうと二人は一緒に手を伸ばす。
「――あなたたち、三十七分と三十五秒の遅刻ですよ」
二人の手が触れた瞬間、扉が開いて誰かが歩いてくる。
コツコツという靴音が近付き、目の前で止まった。
「すみません」
「とにかく大広間へ向かいなさい。他の生徒もそこに集まっています」
厳しい口調で、しかし美しく微笑みながらその人は言った。
慌てて頭を下げた二人はその示された方向へと駆ける。
「――無事に辿り着けたようで何よりですわ」
大広間に辿り着いた二人はその声にビクリと体が跳ねた。
座りなさいと静かに言われ、周りの生徒が見ている中、側の空いている席に座った。
ルーク達と同じ一年生はどうやら前の方に座っているらしい。
近くにはえんじや深緑などの上級生と思われる色のローブを纏った人ばかりである。
「…さて、先程の続きなのですけれど」
生徒達が少しざわつき始めた頃、女性の声がそう言った。
ルークとフィルから遠くて顔は見えないが、どうやら間違いではないらしい。
お互いそう思ったのか、ルークとフィルは顔を見合わせた。
あの声は先程、入り口で出会った美しい女性のもので間違いない。
「皆さんがこのウェストバリーで多くの物事を学び、素晴らしい魔法使いとなれるようにと今年もわたくしヘレナ・メリリース・オルグレンは祈っていますわ」
女性がそう言い終えると、辺りからは大きな拍手があがる。
オルグレンといえばこの学校の校長の名前だ。
校長というくらいなのだから、きっともっと年であると思っていたのだ。
ルークとフィルは再び顔を見合わせた。