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「あら、二人とも。やっぱりここに居たのね」
さくさくと草を踏む音が聞こえたと思えば、聞き覚えのある声がする。
首からかけた金の鎖に繋がれた、懐中時計のような物を手にしたアイリスだった。
「やあ、アイリス。それは何?」
フィルが尋ねると、アイリスはその懐中時計のような物を開いて二人に見せる。
中には短い針が一つと長い針が二つ。
短針はぐるぐると回っているが、長針は両方とも止まったままだった。
「ん?簡単に言うとあなたたちを見つけてくれる道具ってとこかしら。持ち主の望むものや人、進むべき道を示してくれるのよ」
やがて動いていた短針は二つの長針の間で止まる。
そしてアイリスはにこりと微笑んだ。
「今はまだ試作段階なんだけれど、うまくいったみたい」
そういうと金色の蓋を閉じ、アイリスは真剣な面持ちで二人に言った。
「二人とも、今からわたしのアトリエまで行くわよ。――ここには『聞き耳』が落ちてるみたい」
「『聞き耳』って?」
「それも後で話すわ。とにかく…行くわよ」
アイリスのアトリエは前とは違う匂いがした。
まるで菓子でも焼いたような甘い香りだった。
「――それで、まずは『聞き耳』って何?」
初めて入るアトリエの中をキョロキョロしながらフィルは尋ねた。
アイリスはカップに茶を注ぎながらそれに答える。
「一種のイタズラよ。属性試験の日、ルークだけ自分の属性を誰にも言わなかったでしょう?それに、わたしたちって目を付けられてるみたいなのよ」
「…なるほどね」
アイリスの言葉にフィルは頷く。
しかしルークは納得がいかなかった。
「目を付けられてる、ってどういうこと?だからって、どうして盗み聞きなんて…」
「変人にハーフ、出来の悪い名家の子…そんな三人が仲良くしてるんだもの。それに世の中あなたみたいな善人ばかりじゃないのよ。他人のことを嗅ぎ回って、難癖付けるのが生きがいみたいな連中だっているの」
アイリスはルークと対面の椅子に座り、相変わらずな調子で続ける。
「言い方は悪いかもしれないけど、アイリスの言ってるのは正しいかもね」
カップの中身が熱いのか、フーフーと息を吹きかけながらフィルがアイリスの言葉に同意する。
そしてしばらくの沈黙が三人に訪れた。