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これは娘ではなく息子の仕業かもしれないな。
息子は東京でゲーム会社に勤めている…昔からの趣味だったがまさか仕事にまでしてしまうとは。
仕事が忙しく毎日泊り込みも当たり前で彼女所か実家に帰って来る暇も無いらしい…
我が息子ながら一生結婚は無理じゃないだろうか、と正直心配もしている。
ともかくこれは新作のゲームだと思えばテレビよりも無理は無い。
そうか、ゲームか!
「さぁ王の所へ!」
佐藤は私の腕を掴むと何処か目指してグイグイと引っ張る。
そんなに引っ張ったら卵が落ちてしまうじゃないか!
「早く早く!」
勝手な奴だ。
だがコレがゲームだというなら佐藤の言う事を聞いて置いた方が良いだろう。
何せ何をすれば良いのかサッパリわからない。
「このお城に王様が居られます!さぁ参りましょう」
連れてこられた城は中世ヨーロッパ風の宮殿だった。
ルネサンス様式か…
周囲をぐるりと池で囲み幻想的な雰囲気をかもし出している。
入り口の正面だけ跳ね橋が下ろされておりコレを渡って中に入るようだ。
昔妻とフランスに旅行した時にこんな雰囲気の城を見たな…
私が懐かしい思い出に浸っているのに佐藤はそれもお構いなしに勝手に城の中へ引きずり込んだ。
まったく感傷に浸らせてくれる気は無いらしい。
ずんずん進みあっという間に王座の前で連れて来られた。
「おお勇者殿遠い所をはるばるよく来て下さりました」
いかにも王様という風貌の服を着た男が王座から私を見下ろしている。
歳は…私よりも10は下だろうか。
「今、この世界は魔王によって滅ぼされようとしているのです…どうか勇者様この世界を救ってください」
人にモノを頼むわりには頭も下げず上から目線だ。
大体私はこの世界が滅びようがどうなろうが関係ない。
「そこのマルガリータを供としてつけましょう、それからこの3万円を旅費としてお渡しします」
3万円だと!?
私の国民年金ですら6万円あるというのに…たった3万円で魔王を倒せだと。
馬鹿馬鹿しい。
いくらゲームとは言え馬鹿にし過ぎにも程がある。
「断る、私が魔王と戦う理由は無い」
沸々とわいた怒りをハッキリと口にする。
黙りこくった王に佐藤は目を丸くして驚いていたが…
「勇者様が魔王を倒さない限り元の世界に戻る事はできませんよ」
佐藤の言葉に今度は私が目を剥く番だ。
何だって!?このゲームは途中でやめる事すら出来ないというのか。
私はあまりゲームをやった事は無いが昔喫茶店でやったインベーダはゲームオーバーになるまで辞める事は出来なかった。
名古屋打ちまでマスターした私だが…いやそんな事はどうでも良い。
「そういう訳です、ではよろしくお願いします」
王様はそういうとズタ袋一杯分位ある布袋を投げて寄越した。
慌てて佐藤が受け取る。
ズシャっと大きな音が響いた。
その中を覗くと大量の1円玉が入っている。
なんだと!?
「確かに3万円は渡した、では健闘を祈る」
いや、コレが3万円あるのか数えられないのでわからない。
異議を唱えようとしたがあっという間に衛兵に追い出されてしまった。
私はこんな国を救わなければいけないのか…
絶望に打ちひしがられている訳にはいかない。
とりあえずは何か食べ物を入れる袋を買わなくては!
私はそう決心すると街中を歩き出した。
佐藤は3万円を大事そうに抱えながら私の後を付いてくる。
商店街を歩いていると外に並んでいるトートバックを見つけた。
特価のラベルに158円の値札だ。
中途半端な価格だがまぁ背に腹は変えられない。
すべて1円玉で精算した所店主に凄く嫌そうな顔をされた。
文句なら王様に言って欲しい。
後は…当面の食料はあるものの…水も欲しいな。
2本で150円。
やはり1円玉までの精算を面倒だ。
大体この世界の通貨は全て日本と同じなのだと佐藤は言う。
だったら王は何故札でくれないのか。
よりによって一円玉とは…
重い上に邪魔なのでとりあえずはこれから使う事にしているが。
それから竹刀と持ち歩きに便利な袋をセットで6800円。
コレを数えるだけで1時間近くかかった。
更に折り畳み寝袋を2つ2980円。
トートバックは佐藤に持たせるとして自分用にリュックを3000円。
マッチ50円。
ナイフ1000円、石鹸とタオルが580円で替えの洋服と下着で6980円だ。
とココで日が暮れてきた。
ここに着いた時はまだ朝だったが1円を1枚1枚数えるのでとても時間がかかる。
今夜はこの街で一泊する事にして一番安い部屋を5000円で取った。
佐藤にはこの町に家があるそうなので一時帰って貰う事にする。
私の家に泊まりませんかと誘いを受けたが聞けば一人暮らしだそうで流石にじじいとは言え親御さんに申し訳なくこうして宿にいる。
現在使った金額は26、698円だ。
そして残金は1,302円。
…さて、賢い方々は既にお気付きだろうが2000円足りない。
私達は買い物の際佐藤と2度読みしている為間違える筈が無い…
つまり王様にちょろまかされた…としか考えられない。
よく考えれば1円玉で寄越したのもすぐに確認させない為だったのだろう。
一国の王ともあろう者が情けない。
もう一度会う機会があれば一喝入れてやらねば気が済まん。
その日はモヤモヤしつつも色々あり過ぎて疲れていたのかベットに入ってから寝付くまでは直ぐだった。
朝日を感じて目が覚める。
腕の時計に目をやれば丁度5時半だ。
いつもの習慣でこの時間になると自然と目が覚める。
普段なら近くを散歩でもする所だが…今日は荷物の整理をしつつ昨日着ていた服を洗う。
干させて貰い…もう一度時計を見てもまだ6時にもなっていない。
朝ご飯は7時半からだと聞いているしやはり1時間は暇だ。
折角だこの町を少しぐるりと歩いて見るか。
私は散歩のつもりで宿を出たあとゆっくりと町を歩き出した。
平和な町だ、魔王に襲われているようには思えない。
だからこそあの王の態度なのだろうが。
町並みは中世ヨーロッパ風だが実際の売り物は日本で売っているモノと差異は無い。
まだ店が開くには少し早い時間の所為か人ともあまりすれ違わない。
ゆっくり歩いていると後ろから呼び止められた。
「北野さんですね?」
思わず振り返ってみるがソコには足元のふらついた少年が立っているだけだ。
何故私の名前を知っているのだろうか?
「僕はアシラ!魔王様の一番弟子だ」
な…なんだって!?
こんな街中に現われるとは。
竹刀は宿に置きっぱなしだ。




