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27日(5日目)

先に言っておきます。今回の話、色々とスミマセン。


 サル調査もついに五日目である。

 朝起きると、トヨも小鈴木もビッグボイスもいなくなっており、何だか急に人数が減ってしまったかのように感じた。


「……まあ、実際人数減ってるんだけどな……」


 朝食当番が作った味噌汁を啜りながら、そんなことを考える。

 まあでも、減っても今夜また増えるわけだけど。


「ヨネ、今日はY川さん来るんだっけ」

「そうだよー。何だか懐かしいねー」

「どうでも良いけど僕、Y川さんのことを去年、タメだと勘違いしてた」

「何で!?」

「いや、あの人自己紹介で『サル調査一年目です』って言ったべ?」

「そうだっけ? あんまり覚えてないけど」

「で、僕はそれを『一年生です』と聞き違えた」

「難聴かあんたは」


 対してヨネのことは年上だと思ってた。

 だって貫禄あるもんこいつ。


「他誰来るっけ?」

「H大の一年生二人。二年生勢が来ないから、結果H大組はこの子らだけ」

「ふーん……」


 でもやっぱり、去年と比べると人数が少ないなー。


「ご馳走さん」

「さて、さっさと片付けて、準備しますかー」


 今日はイガラシさんとコンビを組む。

 場所は、昨日まで行っていた川の南東側の沢だ。



       *  *  *



 イガラシさんの車で移動中。


「H浦さんからなんか聞いてっか?」

「えっと……そう言えば、一昨日T中さんたちがった群れがUターンしてきてないかを確認せよとのことです」

「テレメは?」

「なしです」

「……………………」

「……………………」

「それ、どうやって確認すんだべ……」

「……さあ? 足跡とかじゃないですかね?」

「そいしがねぇべなぁ」


 という、ある種の難題を押し付けられていた僕ら。

 まあつまりは「いないことの確認」って奴で、サルはおろかその痕跡すら見れないこと前提の調査だ。

 正直つまらん。

 こういう時ってむやみやたらに雪を漕がなきゃいけないし、見れないこと前提だからテンション下がるしー。


 というわけで、超テキトーに。


① 目的地の沢の入り口まで車で行きました。

② 道幅が広かったので途中まで車で進もうとしたら雪が深くて諦めました。

③ 人が歩いていけるところまで一時間かけて登りました。

④ 案の定痕跡はなかったです。

⑤ 四十分かけて下山しました。

⑥ 帰り道も何もなかったです。

⑦ このまま帰っても良かったのですが何かアレなのでイガラシさんに村役場に連れて行ってもらいました。

⑧ イガラシさんが役場の人と情報交換をしていました。

⑨ 訛りがすごくて文字に表せません。

⑩ コーヒーが美味しかったです。



       *  *  *



「ねえ、ふざけてんの?」

「ふざけてない! 本当に何もなかったんだって!」


 帰って報告書を書いてたらヨネに怒られた。

 曰く、とんでもねえ雪道をひたすらラッセルしてきたそうな。


「ドンマイ」

「山大ほとんど車で移動でしょ!? 何この差!」


 ちなみに僕は今日ヨネが言ったエリアには絶対行かない。

 去年T田さんと行って酷い目に遭ったから。

 詳しくは昨年度版の四日目を見てね。


「さーて夕食なんにしようか……」


 厨房に入って材料を物色。

 するとベーコンが丸々一本とジャガイモがゴロゴロ出てきた。


「……………………」


 その時。


「どうもー、H大クマ研です」

「O塚とシンって言います。よろしくお願いします」


 お、新入りだ。


「おー、ちょっと一年目共―。報告書を書いたら厨房来い。あと新入り共も荷物置いたら来い」

「? あ、はい」

「ちょっと待ってくださーい」


 M生とヨッシー、そしてO塚とシンを厨房に呼び寄せる。

 全員が揃うまでに、僕はジャガイモとベーコンを炒めてジャーマンポテトを作りビールを用意していた。


「今日ここに来た面々に、佐井でのルールを教えてやる」

「は、はい!」

「何、気張ることはない。簡単なことだ」

「は、はあ……」


 どうにも今日来たH大クマ研は緊張気味だなあ……。

 まあ、知り合いもほとんどいないところに一年生で放り込まれたんだしな。


「佐井のルール。夕食は、作りたい奴が作れ」

「え? でもそれだと作る人がいないんじゃあ……?」

「なあ……。正直、面倒臭いし……」

「そうだ。けどな……夕食を作る奴は、ここでは一番偉い奴だ。何をしてもいい」

「何を……」

「しても……」

「そう。例えば……」


 僕は缶ビールのプルタブを開け、二人に渡す。


「いくら飲んでもいい」

「「……!」」


 目が輝く。

 やはりH大クマ研……酒好きか。


「そして、酒を飲むにはツマミが必要……」


 僕はジャーマンポテトを差し出す。


「自分で作る分には、ツマミはいくら食ってもいい」

「了解です!」

「ありがとうございます!」


 目を輝かせる二人。

 よし、これでこいつらもここで生きていける。


「あのー……」

「ん? どうしたM生」

「ボクとヨッシー、ここに呼ばれた意味って……?」

「え? そんなの、ツマミ食わせてやるから夕食作るの手伝えってことだろ。JK(常識的に考えて)

「「ですよねー」」


 H浦さんの奥さんが持って来てくれたお総菜各種と豚汁が、その夜の夕食を彩りましたとさ。


もう一度言います。今回のお話、本当にスミマセン。だってマジで何もなかったんだもん……!

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