25日(3日目)
「今日は小鈴木とか」
「よろー」
「そう言えばお前、明後日で帰るんだっけ」
「ああ。大間の一年共が明後日までで、青春きっぷで帰んなきゃいけないから」
「そうかい。つまり二回しか風呂に行く機会がないのにジャンケンで負けたと」
「余計なお世話だ!」
エリアは昨日と同じく近くの川。
しかし昨日は左岸だったが今回は右岸を歩く。
「で、今日はどうするリーダー」
「H浦さんが昨日この辺で見つかった足跡を追いかけろって言ってたから、とりあえずその足跡を探す」
「了解だリーダー」
「……どうでもいいけど山大。その呼び方やめろ」
「嫌か?」
「嫌だ」
イガラシさんに車で運んでもらい、早々に歩き出す。
昨日のうちに二人で考えていたルートだと、結構歩くことになりそうなのだ。
一時間ほど歩いて尾根まで登り詰め、見晴らしが良くなったところで周囲を確認。
「昨日見つかった足跡ってこの辺?」
「らしいけど……あー、昨日夜雪降ったから消えたな、こりゃ」
「どうりで道中何の動物の足跡も見つからないわけだ」
「どうすっか」
「とりあえず予定通りのルーと行くべ」
「そうだな」
「で、ルートってどっち?」
「……………………」
「……………………」
「あっち?」
「そっち逆じゃね?」
一時間ほど突然吹雪かれたりしながらその辺を右往左往。
一回ずっと尾根沿いに向かって歩き、途中で「こっちじゃなくね?」と元の場所に戻る。
で、改めて二人で地図とコンパスとにらめっこした結果、さっきの方であっていたということが判明。
「でもなんか、やたらと倒木あったしヤブヤブしてたし崖あったし」
「ゴリゴリと進むべ」
「マジか」
「下北なんてそんなもんだろ」
「……そうだな」
その後、二人で二回崖から落ちた。
尻が痛かった。
「で」
「ここどこ」
再び地図と睨めっこする。
尾根を下りて沢に出てきていたのだが、どうにも予定していたルートとは違うところに出てきてしまったらしい。
今いる沢と地図上の予想地点の周囲の地形が微妙に違うのだ。
「というか、ここは見覚えがある……」
「何だよ」
「ここ、昨日俺が来たところじゃん」
「はあ?」
ザクザクとラッセルしながら進む小鈴木。
その後を追うと、小鈴木はさらに小さな沢に入っていった。
「あー、やっぱりそうだ」
「昨日来たとこ?」
「うん。確かここでも足跡見たんだけど」
「じゃあそれ追うべ」
「無理。消えてる」
「よし帰るか」
無駄なことはしない。
うん、これ大事。
そして場所が割れれば戻るのは簡単。
沢に沿って歩き、僕らは林道に出た。
「どうする? イガラシさんが迎えに来るまで時間はあるけど」
「焚火すっか」
「どこで?」
「昨日ビッグボイスとしたところが近くにあるからそこで」
「りょーかい」
河原みたいになっている地点に下り、荷物を下ろす。
そして各々薪になりそうな枝を拾ってくる。
「やっぱスギっしょ」
「んだな。一気に燃える分長続きしないけど」
「そこはほら、太いの持ってきた」
「さすが」
雪を掘って地面を露出させ、スギの枝を敷く。
その上に太めの枝を組み、さらにその上からスギの葉を被せる。
「小鈴木、ライター」
「あいよ」
おにぎりを包んであった新聞紙を着火剤にし、スギの葉に点火。
そして見る見る間にスギは燃え上がり――
「おいもっとスギ持って来い!」
「ちくしょう! やっぱり湿気ってて太い枝に点かない!」
スギだけが燃え上がるという、去年もどっかで見たような光景が広がる。
ま、恒例だね。
* * *
結局その後、太い枝に火が点くことはなく、終始ひたすらにスギの枝を投入し続けると言う何とも慌ただしい焚火だった。
いや暖は取れたからいいんだけどね。
「ただいまーっと」
「おお、おおかえり」
ダラダラと焚火にあたりイガラシさんと合流。
そのまま拠点に帰ったわけだけが、その日僕にはやることがあった。
「……やるか」
報告書を小鈴木に任せ、僕は厨房に向かった。
冷蔵庫から取り出したのは、昨日の風呂帰りにヨネが買い出しで買って来た生クリームとスポンジケーキ。
……そう。
今年もやってきましたホワイトアウトクリスマスin佐井村!
「去年はU坂さんとT田さんが悪乗りしてマショマロでサル作ったんだよな。でも今回はあの二人いないし、あんまり派手なのはできないかもな……」
そもそもポッキーないから立体にできない。
「まあいいや。とりあえずクリーム泡立てねば……」
ボールに生クリーム二箱と砂糖を入れ、泡だて器でひたすら混ぜる。
しかしどうにも泡立ちが悪い。
そこで一回り大きいボールに外の雪を詰め、冷やしながら混ぜることにした。
さあ作業開始。
「……………………」
シャカシャカ。
「…………………………………………」
シャカシャカシャカシャカ。
「……………………………………………………………………………………」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ。
「ただいまー……うおっ!?」
「……トヨ。パス」
「お、おお……」
腕痛い……!!
その後、報告書を書き終えた小鈴木とビッグボイス、帰ってきたヨネと交代しながらクリームを作っていった。
そして飾り付け。
「えー、去年と違って我々にはポッキーがありません」
「そーですね」
「ですので、立体的なものは諦めてください」
「りょーかいです」
二つ用意したスポンジを割り、中にスポンジを塗り、元に戻す。
そして表面にクリームを塗っていくのだが、我々に与えられたのは二振りの包丁のみ。
「どうでもいいけど、何で片方は肉切り包丁なんだよ……!」
「しかたないべ。刃が長いのそれしかないんだから」
「ギザギザしてて塗りにくい……」
だろうな。
ちょっとしたノコギリみたいだしな、それ。
「さてクリームは塗り終えたわけだが……」
「「「「山大頑張れ」」」」
「何で」
「適任だろ」
「任せた」
「絵上手いじゃん」
「俺こういうの苦手」
「絵とケーキの飾りつけ一緒にしないでくれるか!?」
全然違うだろうが!
書きました。
誤字ではありません。
書きました。
* * *
「そう言えばさ」
ケーキも食べ終え、調査報告も終わり酒を交えつつ雑談していた時。
N村さんが思い出したように部屋の隅に置いてあった段ボール箱を引き寄せた。
そこには木の枝がゴチャゴチャと入っていた。
「一年組、下北の樹種を教えてやろうか。いっぱい冬芽取ってきたから」
「え、いいんですか?」
「そのために取ってきたんだ。ほら、こっちこい」
「二年組も行っていいっすかー?」
「おう、もちろんだ」
ワラワラとN村さんの所に集まる面々。
結局、二年生以下は全員集合してしまった。
「さてまずはどれから説明しようか……」
ゴソゴソと段ボールを漁るN村さん。
そこから始まる植物講座。
樹皮や冬芽の特徴、どんな動物がエサにしているのかまで丁寧に教えていただきました。
……が。
ラストの一種のインパクトの強さに、聞いた内容が飛んでしまった。
「はいこれ最後。ご存知ハリギリ」
『『『ちょっと待ってください!』』』
二年組が総ツッコミ。
「なんですかそのすごいハリギリは!?」
「こんなの見たことねえ……」
ハリギリとはウコギ科の落葉広葉樹。
成長すると十~二十メートルの高木となる。
新芽は食べると美味しい。
そして幼木には鋭く硬い棘が生えているのだが……
……いやこれ立派過ぎでしょ。
棘の先が黒くて、何とも禍々しい……。
「いやあ、俺もこんなハリギリ初めて見たわ」
「N村さんが初めて見るほどなのか……」
「冬芽取る時、俺刃物なんか使わないでぽきっと折っちゃうんだけどさ、さすがに無理だったわ」
「ですよねー」
「というか、わざわざこんなえげつないの取って来なくても良かったんじゃ……?」
「まあそうなんだがな。でもほら、見せたいじゃん。それに……」
と、N村さんはチラッと後ろを向く。
視線の先には、呑気に大鈴木さんとH浦さんと酒を飲むT中さんが……。
「どっかの変なオッサンが寒いダジャレを言った時のお仕置き棒になるかなと」
『『『……………………』』』
いやそれ流血騒ぎですって。