第8話 パーフェクター
【氷覇支部 屋上ヘリポート】
私は施設内を走る。私を部屋に案内した後、ケイレイトはすぐにどこかへ行ってしまった。だから、私はすぐに動き始める事が出来た。幸いな事に施設内には誰もいなかった。簡単に屋上ヘリポートにまで来ることが出来た。
私が屋上ヘリポートに来た時、1機の小型飛空艇が出発しそうになっていた。小型飛空艇の周りには数体のバトル=アルファ。クロント支部周辺にいたヤツらと同じタイプだ。
「メタルメカ! アイツが!」
飛空艇に乗り込もうとしていたケイレイトが叫ぶ。呼び捨てになっているところを見ると、同一の階級だったのか。長官と案内役というのはカモフラージュだったんだな。飛空艇から離れた所にいたメタルメカとサレファトも、ケイレイトの声に私の方を振り向く。
「クソッ、もう来たか! ケイレイト、出発の準備を急げ!!」
「了解ッ!」
そう言うなりケイレイトは飛空艇の中に入って行く。メタルメカやサレファト、他のバトル=アルファはアサルトライフルを持って私の前に立ちはだかる。邪魔立てする気か!
私は物理シールドを素早く纏うと、剣を鞘から引き抜き、バトル=アルファ軍団に突っ込んでいく。なんてことはない相手だ。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
バトル=アルファたちは一斉に射撃を開始する。銃口が火を噴き、弾丸が回転しながら私に突っ込んでくる。だが、それらは物理シールドで防がれる。ほとんどの銃弾が無力化されていく。
私は手を振りかざす。その途端、数本の雷がバトル=アルファの軍団に降り注ぐ。激しい閃光。空気を切り裂くような音。屋上のヘリポートが僅かに揺れる。
この攻撃で30体近くいたバトル=アルファは多くが倒れる。アサルトライフルをコンクリートの地面に落とし、膝をついて倒れていく。
「あの女、パーフェクター(特殊能力者)か!」
「僕に任せて下さい! “サンダー”!!」
白銀の髪の毛をした少年、サレファトが私と同じように手を振りかざす。その瞬間、私の胸を一本の小さな雷が貫いた!
物理シールドしか張っていなかった私はその場で胸を抑え、倒れ込む。恐らく殺傷能力を抑えた攻撃だろうが、それでも下手すれば死んでしまうだろう。
「クッ……! あのガキ、パーフェクターか……!」
“魔法発生装置”に頼らず電気攻撃をしたところを見ると、恐らく電気のパーフェクター。電気使いだ!
この世界には極稀に魔法を使える人間が存在する。魔法発生装置と呼ばれる機械に頼らず、魔法を使える人間。それがパーフェクターだった。
「喰らえッ!」
背中に背負った魔法ジェット機を使い、空中を飛ぶメタルメカが手首部分の装甲からロープを飛ばす。それは私の左腕に巻き付く。このロープ、魔法強化されている。簡単には切れないな……!
「フィルドさん! 降参した方がいいですよ!!」
ニヤリと笑ったサレファトが、黄色く光る剣を片手に私に走り寄ってくる。アレはただの剣じゃない。電気のパーフェクターであるサレファトが電気を物理化して作り出した剣だ。
左腕にロープを巻き付けたまま、私は右手に自分の剣を握る。
「“エレキソード”!」
サレファトが私の近くで技名を叫びながら、剣を振り下ろす(どうでもいいが、技名叫ぶ必要あるのか?)。だが、その程度で私を倒すことはできない。
私は左腕の自由を奪われた状態で、右手に握った剣だけで、サレファトの攻撃を防ぐ。金属特有の高い音が辺りに鳴り響く。
「…………!」
サレファトの剣が私の剣を離れた瞬間を狙い、私はその剣を剣ではたき落す。それとほぼ同時にメタルメカの方から白い弾が飛んでくる。衝撃弾!
衝撃弾は私に着弾すると爆発する。強い衝撃で私はその場に倒される。左腕にはまだロープが巻き付いていた。コイツを何とかしないと。
「フィルドさん、左腕が使えない状態でどうやって戦うんでしょうかね!」
再びサレファトの攻撃。横倒しにされた私に人差し指を向けていた。その先端が黄色く光り、弾が飛ぶ。電気の弾だろう。肩を撃ち抜かれた瞬間、そこを中心に激しい痺れが起こる。
普通の市民ならそこで気を失うだろう。だが、私は違う。ノーダメージというワケじゃないが、少し怯んだ程度。それだけだった。
私は彼を睨みつけながら、右手に魔力を溜めていく。左腕が使えないからって勝てるとは限らないだろ、サレファト。
「…………!」
私は素早く右腕に魔力を溜めると、彼に向けて強力な衝撃弾を撃ち込んだ。大型の白い弾が飛び、大きな爆発を起こす。小さな体をした彼は吹き飛ばされ、ヘリポートのフェンスに背中を叩きつける。
その瞬間、私の左腕が自由になる。メタルメカがいた方向を見てみれば、いつの間にか彼はそこにいなくなっていた。
「アイツ、どこ行った……!?」
私が雪の降る暗い夜空を見回す。が、彼の姿はどこにもない。
突然、飛空艇が動き出す。私はそっちの方を見る。閉じられる飛空艇の扉。閉じられる前、僅かに見えたのは紫のラインが入った黒の装甲を着た人間の背中。メタルメカだ!
メタルメカとケイレイトを乗せた飛空艇は飛び上がる。もう間に合わない……! 私は懐から小型の機械を取り出し、飛空艇に向かって投げる。それは飛空艇の外面に付く。これは発信機だ。これがあれば飛空艇がどこへ行くのか分かる。
発信機を付けた飛空艇はサレファトを見捨て、あっという間に暗い夜空の彼方へと消えていった。
「どこへ行くかは知らないが、少し準備が必要だな」
私はチラリとヘリポートの端に倒れ込んでいるサレファトを見る。ニヤリと笑みを浮かべる。コイツが役に立ちそうだ。
この時、私の心にてどす黒い感情がうずいた。おぞましい復讐の心が、財閥連合に対する憎悪が放たれようとしていた……。
◆魔法発生装置
◇魔法が使用できる充電式の機械。
◇基本的にスタンロッド型をしたものが多い。
◇一般市民は原則使用禁止。
◆サレファト
◇13歳の少年。
◇電気のパーフェクター。
◆メタルメカ
◇24歳男性。
◇全身を装甲で覆っている人物。
◇身体能力がきわめて高い。
◇普通の人間なので魔法発生装置を使う。
◆ケイレイト
◇24歳女性。
◇メタルメカとは7年前に出会った。
◇元々は国際政府の中将だった。
◇実は風のパーフェクター。
◆パーフェクター
◇ある特定の魔法を使う特殊能力者のこと。
◇1000万人に1人の割合で存在する。
◇能力は基本的に1つしか持てない。




