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復讐の果ての終焉と始動  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1-2章 交差する絆 ――コスーム大陸――
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第7話 財閥連合・氷覇支部

 【コスーム大陸中西部 氷覇山】


 冷たい風が吹き抜け、厚い雲が覆った薄暗い空から白い粒、雪が途切れる事無く降り続ける。降り積もった雪で辺り一面は銀世界と化していた。

 私はクロント支部から出た飛空艇を追ってこの地に辿り着いた。ここは……世界最大の民間企業、財閥連合の支部がある山だ。


「さて、っと」


 私は自分の飛空艇に乗り込むと、再び浮上させる。氷覇支部は財閥連合の施設。クロント支部は謎の組織――連合軍の施設だから潜入は不可能だが一般企業の施設なら入れる。安全調査という名目で……。

 財閥連合と国際政府の間には密約があった。財閥連合の起こした事件を国際政府は公表しないかわりに特殊軍の将軍のみが抜き打ちで施設を調査してもよい事になっているのだ。そして、私はその階級にいる。つまり、私には連中の施設に入れる権利があるのだ。


「こちら、特殊軍将軍のフィルド=ネスト。これより氷覇支部に入る」


 私は無線機で氷覇本部に通信を入れる。しばらくの間、沈黙が続いたが返答が来た。


[フィルド=ネスト将軍、確認しました。ようこそ、氷覇支部へ……]


 私はニヤリと笑う。特殊軍将軍の特権っていいな。連中の基地にもズカズカと乗り込んで行ける。もし、私が将軍じゃなかったら絶対に中には入れなかっただろう。連中は私を実験体にしたことがあるからな。

 飛空艇を外部ヘリポートに着陸させ、私は降りる。施設への出入り口付近には黒い装甲服を着た数人の兵士が立っていた。手にはアサルトライフル。警備兵か。


「どうぞ、お通り下さい」


 すでに連絡が入っているのか兵士たちは素直に通してくれた。私は彼らの横を通り、氷覇支部へと入って行った。

 入ってすぐのところに案内を命じられたと思われる1人の女性と少年が立っていた。女性の方はピンクの長い髪をし、緑の瞳をしていた。服装は黒のブーツに同色の服、白い手袋。少年は白銀の髪の毛に澄んだ蒼色の瞳。彼もまた黒いブーツと服を着ていた。


「お待ちしていました。私は財閥連合幹部のケイレイト。フィルド将軍の案内を致します。私の側にいる少年はサレファト、警護役に御座います」

「そうか、ご苦労。ここの長官に会いたい。案内してくれるか?」

「分かりました」


 ケイレイトはほぼ無表情で答えると、背を向けて歩きはじめる。私のすぐ横に警護役(という名の監視役の様な気もするが)のサレファトが付いて来る。

 ケイレイトは知っている。以前、国際政府の軍人だった女だ。階級は中将。EF2006年に退任して、財閥連合の幹部となったらしい。裏切者め。

 施設内は黒いコンクリートで出来た床に灰色の壁。所々に扉がある。扉の上にはランプ。緑のランプが灯る部屋もあれば赤のランプが灯る部屋もある。赤がロック中。緑がロック解除だ。


「……ここの長官はどんなヤツだ?」


 私は横のサレファトに聞く。彼は少しオドオドしながらも応える。


「ここの長官は“メタルメカ”さんです」


 メタルメカ? 誰だソイツは? 機械か何かか?


「メタルメカさんはケイレイトさんと一緒に財閥連合に入ったんです。僕はつい最近財閥連合に入ったんですが、2人は“3年前”に……」

「…………! サレファト」

「あっ……。ご、ごめんなさい」


 おや? 何か知られちゃマズイことでもあるのか? 私は慌てて止めたケイレイトに目を向ける。……なぜか、悲しそうな目をしていた。



「着きました。ここです」


 白銀の金属で出来た扉が左右にスライドして開く。部屋の中は広い指令室のような部屋だった。奥にはイスが1つ。そこに座るのは全身を強化プラスチック製の装甲で覆った人間だ。


「ねぇ、メタルメカ……じゃなくてメタルメカ閣下。フィルド将軍が閣下に会いたいとのことで、ご案内しました」

「そうか。ご苦労」


 全身を黒と紫で覆ったメタルメカが発したのは明らかに人間の声。中の人は人間だな。それも男性の。どうでもいいが、ケイレイトは一瞬親しい人間に声をかけるような口調だった。仲いいんだろうか。


「フィルド将軍、俺が財閥連合氷覇支部の長官のメタルメカだ」

「聞きたいことがある。ここにクロント地方から飛んできた飛空艇が来なかったか?」

「…………。……いや、知らないな」


 返答が遅かった。知っているんだろう。返答が遅かったのは私がクロント支部から出た飛空艇の存在を知っている事が想定外だったから、だな。


「……さっきまで何してたんだ?」

「…………。風呂に、入っていたが?」

「ほぉ、こんな時間に風呂とはな。綺麗好きなのか?」

「この装甲服の中は暑くてな」


 内部の温度は普通、自動で調整されるハズだろ。この男、ウソをついているな。私の予測だとコイツはさっきまでクロント支部から来た人間と話していたんだろう。

 なんとかしてクロント支部から来た人間と接触したいが飛空艇が来たこと自体を否定しているところを見ると難しそうだな。


「まぁ、私はこれで……。この後、施設内も見学させて頂く」

「……少し休まれてから施設内を見学なされるといい。ケイレイト、フィルド将軍を部屋に案内しろ」

「はい、閣下」


 チッ、徹底的に調べてやろうと思ったが、どう足掻いてもクロント支部からの飛空艇を何とかしたいらしいな。こうなったら自分で動くまでだ。

 私はケイレイトに誘導され、最高司令室を後にする。今度はサレファトはいなかった。少し楽になったかもな。



◆◇◆



 俺は部屋から去って行くフィルドを見送る。あの女、なぜクロント支部の飛空艇について知っているんだ……?


「サレファト」

「なんですか?」

「クロント支部から送られた“試作生物兵器エックス”をオーロラ支部に運搬する。お前は俺の護衛をしろ」

「分かりました」


 クロント支部から送り込まれた物は小さな試験管だった。その中には“試作型生物兵器エックス”の幼生が入っている。開発途中にある生物兵器だ。

 生物兵器開発は違法行為だった。見つかれば財閥連合と国際政府の関係は破綻する。密約も破棄だ。それが意味する事は財閥連合崩壊だった。

 あの女、必ず動き出す。期日より1日早いが、すぐにでもコスーム大陸北西のオーロラ支部に運搬しないと。あの支部なら安心だろう。

 俺とサレファトも最高指令室を後にする。行き先は最上階の屋上ヘリポートだった。

※7年前=EF2002年。この年はフィルドが実験体にされた年でもあります。

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