表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の果ての終焉と始動  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1-2章 交差する絆 ――コスーム大陸――
7/45

第6話 復讐騎“フィルド”

 【クロント州 財閥連合・クロント支部 周辺】


 クロント地方はコスーム大陸の南東に存在する広大な草原地方だった。あまりに広い草原。そこは人の手が入らぬ自然地帯でもあった。

 小型の魔物から大型の魔物まで多くの魔物が生存競争を繰り広げる草原。あるのは力だけだった。まさに弱肉強食の世界。

 しかし、そんな草原に明らかに人が造った人工物があった。それはクロント地方の南部、クロント山に存在した。


「アレが、か」


 私はクロント山の崖から基地と思われる建物を見下ろしていた。地形の関係で人に見つかりにくい場所。周辺を山に囲まれた場所にあった。

 ドーム状の建物。その周辺にはアサルトライフルを持った機械の兵士が数体立っていた。“財閥連合”のバトル=アルファか。数年ぶりに見たな。叩き斬ってもいいのだが……。


「正面からは、無理だな」


 私は双眼鏡をしまうとその場から離れ、近くの岩陰に移動する。さて、どうしたものかな。どうにかして入り込めればいいんだが、警備のバトル=アルファに見つかるとやっかいだ。

 しばらく考えるがいい策は浮かばない。そんな事を考えている内に日が暮れてきた。日は傾き、西の空がオレンジ色に染まる。


「……出直すか」


 口からポロリと出た答え。それが長い時間考えた結果だった。今のままじゃ入れそうにない。一度、出直して別の方法で侵入するしかなさそうだった。

 私は飛空艇に戻ると、出発させようとした。その時、クロント支部の方から1機の小型の飛空艇が飛んでいく。それを見た瞬間、私は慌てて飛空艇を浮上させた。

 過ぎ去った飛空艇はすでに遠くに行っていたが、まだ見えていた。夜空の果て、小さな点になってた。私は全速力でそれを追う。アレが侵入のカギになりそうだ!



◆◇◆



 【政府首都グリードシティ 東部市内 カフェ・グリード】


 数日ぶりの外。久しぶりに出た外は気持ちよかった。私は数日間、風邪を引いていたから外に出られなかった。まぁ、どしゃ降りの日に傘も差さずに街をほっつき歩いてたらそうなるよね。

 あの日以来、フィルドさんは家に戻っていない。怒ってどこかに行ってしまったというのは考えられない。たぶん、政府代表の任務を遂行しに行ったんだと思う。


「私も何かしないとなぁ」


 ポツリと口から出る。許してもらえるワケじゃないケド、何か出来ることはないだろうか? フィルドさんの為に何か出来ないだろうか?

 風邪で寝込んだときも、治ってからも、毎日そう思っていた。でも、時間ばかりが無駄に過ぎていくだけだった。


「元気ないですね。大丈夫でしょうか?」


 静かで尚且つ落ち着いた声でカフェのマスターが声をかけてくる。彼は私の知り合いだった。もう40過ぎの男性なんだけど、年齢の近い友達のように何でも話せた。

 私はこれまでの事を彼に話した。政府代表の命令、それに関わるなと言われた事、それが原因でフィルドさんを怒らせたこと……。

 言ってから気づいた。そういえばこれは公に出来ない密命だった。幸いこのカフェにいたのは私と信頼できるマスターだけだったけど。


「フム、連合軍ですか……」

「何か知っているんですか?」


 マスターはグラスを拭きながら少し深刻そうな顔をして言った。


「財閥連合は勿論知っていますよね?」

「…………? それは勿論……」


 財閥連合ってあの世界最大の民間企業だよね? 医療・ロボット・金融・IT分野で最先端の技術と圧倒的なシェアを誇る民間企業。それが財閥連合だ。規模が大きすぎて政府元老院議会に公認・推薦を貰い、手先となっている議員さえもいる。


「この会社の黒い話はご存じですかな?」

「黒い話? 業績が悪化しているんですか?」


 私の答えにマスターはゆっくりと首を横に振る。そして、ゆっくりと、いつもの口調で話し始めた。


「あくまでウワサですが、財閥連合は裏で生物兵器を開発しているらしいです……」

「せ、生物兵器ですか?」

「それも人間をベースにしたものです」

「ひ、人を!?」

「ええ。無論、法律的にも、人道的にもハズれた行為ですよ……。その悪魔的な行為を煽り、黒幕として鎮座するのが連合軍……」

「ええっ!?」


 つまり連合軍が、一般の民間企業である財閥連合に生物兵器開発をやらせているって事だよね!? 連合軍は財閥連合の上部組織に当たるんだろうか?


「その非道な連合軍の実験に使われ、つまり実験体とされた人の内、たった1人だけ、今も生きている人がいます……」

「だ、誰ですか!?」


 私はつい、カウンターに身を乗り出してしまう。それをマスターが手で制止する。っと、落ち着け、落ち着け、私!


「あくまでウワサでしかないのですが、今も生きているその実験体の名前は……」

「名前は!?」

「パトラーさんの師――フィルドさんです」


 ……え? 私は凍りついた。フィルド、さんが……?


「あ、あのっ……?」

「信じられないでしょうが、あの方が“復讐騎”と呼ばれるのはそう言った経緯があるんです……」


 フィルドさんの異名。それこそ“復讐騎”だった。誰が言い出したのかは知らないけど、確かにそう呼ばれていた。今まで特に気にはしなかったけど。


「今から7年前、つまりフィルドさんが16歳の時です。あの方は財閥連合の手にかかり、捕まったんです。フィルドさんは当時も注目されていた軍人ですからね、失踪時にはそりゃ大騒ぎになりましたよ……」


 し、信じられない。でも、フィルドさんの謎の失踪事件は聞いた事がある。マスターの言うように今から7年前、フィルドさんは何前触れもなしに、グリードの街から消えた。そして、半月後に戻ってきたらしい。


「失踪中の記憶を彼女は覚えていませんでした。つまり、攫った者たちに消されたのでしょう……」

「そ、そんな、記憶を消すなんて……」

「不思議なのはここからです」


 マスターは拭き終ったグラスを元の場所に戻す。そして、マスター自身も椅子に座る。


「戻ってきた彼女は以前とは少し違っていました。そう、あの方から笑顔が消えた。知り合いや友人との交流を絶ち、誰とも関わらなくなってしまいました……。そして、自分にも他人にも厳しくなりました。つまり、今のフィルドさんです」


 笑顔を見せない。他人にも自分にも厳しい。まさに今のフィルドさんだ。フィルドさんが笑う事はない、っていうのは違うと思う。でも、心の底から笑った事は確かにない。少なくとも今まで見た事なかった。


「じゃ、攫われる前は、その、言い方悪すぎますが、普通だったんですか?」

「今のパトラーさん程ではないですが、普通の少女でした。……あの事件を境に彼女は変わってしまった」


 そう語るマスターはため息をついた。彼、どこか寂しそうだった。


「話が少しズレましたね。戻しましょう。攫われている間、恐らく彼女は連合軍の基地に監禁されていたのでしょう。そこで彼女は実験体にされてしまった……」

「なんで分かるんですか?」

「これは私の知り合いの軍医療関係者から聞いた話ですが、攫われる前と後で彼女の右腕に傷がいくつか出来ていたらしいです。それに戻ってきた当初は右腕の痛みを気にしていたそうな……」


 右腕の傷。私も見た事がある。無数にあるあの傷だ。あの傷について聞いた事があるけど、フィルドさんは何も言わなかった。


「きっと、あの方は実験体にされた時の記憶を僅かに覚えていて、復讐に囚われているのでしょう。財閥連合、そして黒幕の連合軍へ復讐を……」


 実験体にされた時の記憶……。それがフィルドさんの心を駆り立ててるんだ。復讐する為に、自らを鍛え上げて、力を蓄えて……。

 もしかしたら“復讐騎”って称したのもフィルドさん自身かも知れない。憎悪と怨念を忘れないように、そして財閥連合や連合軍に対して復讐の意思があることを伝える為に……。


「フィルドさんがそこまで怒ったのは、自らが怨念を向ける連合軍と一緒にされたからでしょう。でも、きっとあの方は後悔しているハズです。唯一の仲間であるパトラーさんを失いたくないハズです」


 そう言われ、私はまた泣きそうになった。そんなことがあったなんて知らなかった。知らないで勝手な憶測だけで話を進めてフィルドさんを……。

 私は殴られて体が痛かったケド、フィルドさんは心を痛めたんだ。もし、私がフィルドさんの立場だったら、って考えたら……。





 カフェを出る時、マスターが言った。


――あの方を絶対に1人にさせないで下さい。あの方には信頼できる仲間が必要です。仲間がいなくなれば、きっと暴走してしまう。過剰に動き、全てを破壊し尽くしてしまいます。そうなれば、彼女はただの殺戮騎になってしまいます……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ