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復讐の果ての終焉と始動  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1-1章 裂かれる絆 ――政府首都グリードシティ――
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第5話 とあるどしゃ降りの日

※前半はフィルド視点、中盤はパトラー視点、後半はフィルド視点です。

 私は口を噛み締める。頭に後悔の念が渦巻いていた。私はなんてバカなんだっ……! 私がパトラーにちゃんと言っておけば、関わってほしくないワケを言っておけばこんなことにはならなかっただろう。


「クッ……」


 真っ暗の部屋。その中で布団にくるまり、枕を強く抱きしめる。

 あの時、怒りで我を忘れ、パトラーを……。考えないようにしてもあの時の記憶が頭の中を巡る。私は魔法と自分の手で彼女を殴り倒してしまった。


「なんで、自分を抑えられなかった……」


 後悔ばかりが頭を渦巻く。自分を責めずにはいられなかった。部屋を出る時のパトラーの姿はハッキリと覚えている。心を抉られるかのような感覚を覚えた。

 最後の一発。彼女はバランスを崩し倒れた。倒れる時、彼女は顔を机の角の顔を強くぶつけていた。かなり痛いハズだ。

 その後はうずくまっていた。お腹を押さえて、彼女は泣いていた。そんなに痛かったのか……。


「パトラー……すまないっ」


 自分手の手を見る。震えが止まらなかった。この手でアイツを殴り、吹き飛ばし、胸倉を掴んだ。些細なことで殴ってしまった。

 謝っても許してもらえるハズがない。全て、私のせいだ。突き放す様な態度がこのことを生んでしまった。あの時、あのエレベーターで説明していればこんなことにはならなかっただろう。


「私は……どうすれば……」


 時間は戻せない。今更、どうする事も出来ない。謝ってもきっと許してはくれないハズだ。もう、こうなったらどうにもならないんだッ!

 私は頭から布団をかぶる。そして、そのまま寝てしまった。意識がぼんやりとしている時、外から雨の降る音が聞こえてきた。今の私の心にピッタリ、かもな……。



◆◇◆



 【グリードシティ 中央市内】


 薄暗いグリードシティ。今は朝の9時だけど、とても薄暗かった。厚い雲、少し濃い灰色の雲から雨がたくさん降っていた。今日の天気予告は雨だったっけ?


[グリードシティ、本日の天候は雨。降水確率は……]


 雨水の流れるスロープに乗る。この街では坂はほとんど階段や普通のアスファルトの黒い坂道ではなく、自動で動く緩やかな広いスロープになっている。

 傘もささずに、ずぶ濡れになりながら、どこへ向かおうとしているのかは分からない。特に目的も何もなかった。あるとしたら、フィルドさんへの申しワケなさ……だけ。


 自動で動くスロープの坂道を登りきると、私は歩いて近くのベンチに座る。風が吹き荒れ、私の黄色い髪の毛をなびかせる。エメラルドグリーンの瞳からは雨水じゃない透明の水が溢れ出てくる。……私、泣いてるんだ。

 人をあんなに怒らせるなんて……私ってホントにバカなんだな。何度も迷惑かけてきた。一緒に魔物討伐に行けば殺されそうになるし、よく作戦も間違える。


「ごめん……なさいっ」


 フィルドさんの足手まといにしかなってない。迷惑しかかけていない。何の役にも立っていない。期待を裏切り……期待されてもないか。

 私って、フィルドさんの重荷でしかない。疫病神ってヤツでしかない。……私、いる価値あるのかなぁ? いない方がいいのかも知れない……。


「あの、大丈夫ですか?」


 首都を警備する兵士が声をかけてくる。私は顔を伏せながら無言で何度も頷いた。


「は、はぁ……」


 その警備兵はそれだけ言うとそのまま立ち去って行った。

 雨が容赦なく私の体に打ちつけられていく。涙が止まらない。手で顔を覆い隠す。雨水よりずっと温かい水が手の平に伝わる。


「フィル、ド……さん」


 後悔しかない。なんでもっと落ち着いて考えれないんだろう? フィルドさんが連合軍という組織の仲間なハズがない。今までずっと一緒にいた。その間、怪しい行動をしていたことはなかった。なのに……!

 どしゃ降りのグリードシティ。フィルドさんと私の温かい思い出が冷たい後悔の記憶に流されていく。そんな感じがした。



◆◇◆



 【グリードシティ 軍事総本部】


 巨大な飛空艇離着陸棟。この巨大な建物にはたくさんの飛空艇があった。自分の専用戦闘機もあった。縦に長い二等辺三角形をした白色の、小さな戦闘機が。

 私はそれに乗り込む。どしゃ降りの中で出発とは、な。まぁ、仕方ないだろう。環境省天候管理庁によればグリードシティ南部は快晴らしいし。……っていうか、グリードシティ南部が快晴でこの中部が一日中雨って、改めてこの街の広さを感じさせられる。


「事前に連絡を入れた特殊軍将軍のフィルドだ。出撃の許可を」

[……はい、了解です。お気をつけて]


 受付を行う担当官の声と共に、私はシステムを稼働させ、一気に高い棟の中腹から飛び出す。私の専用戦闘機も一般の飛空艇も全て魔法エンジン故、音は特にしない。

 30年くらい前までは水素などといったエネルギーを使っていたが、魔法科学の発達に伴って政府の使用する飛空艇には従来の物は使われなくなった。

 まだ、魔法科学の使用は一般市民は原則禁止だが、10年後にはどうなっている事やら……。


「確かクロント地方だったかな。連合軍の基地があるのは」


 私は操作パネルをスクロールさせ、登録リストからクロント地方を選び、タッチする。行き先を設定した。これで後はオートパイロットとなる。楽なもんだ。


「いよいよ、シッポを出したな。連合軍」


 私はグリードシティに雨を降らす厚い雲を見上げながら呟いた。

 連合軍という組織が存在しているのは前々から知っていた。あの7年前、私が実験体にされた日。あの時に知った。彼らが国際政府と戦争をする気があるとは知らなかったが。

 彼らの目的は知らない。が、何らかの理由で生物兵器を開発しようとしている。それも“史上最強の生物兵器”を……。その第1号こそ――
























 ――私、だった。

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