第41話 黒い夢の襲撃
【オーロラ支部 地下エリア 廊下】
私たちはあの部屋を出て、地下エリアの廊下を歩いていた。報告によればコマンドとネストールはグルー准将らによって逮捕され、すでに大型飛空艇プローフィビに乗せられたらしい。これで財閥連合は終わり、だ。
「……誰だ、お前?」
突然ピューリタンが歩みを止める。その目線の先には黒いフードを被り、黒の装甲服を着た男が立っていた。……アイツ、連合軍の黒幕であるパトフォーじゃないか!
「パトフォー!」
「え?」
私はデュランダルとハンター=ガンマから奪い取った電磁ソードを起動させ、二刀流でパトフォーを目がけて走り出す。アイツだ! アイツを殺せば完全に終わりなんだ! ここまで来て見逃すかッ!!
パトフォーは両手を前に突き出す。そこから青色の電撃が放たれる! それは私の体をいともたやすく吹き飛ばす。私はパトラーとピューリタンの前まで無理やり戻される。
「あっぐっ……」
「パトラーさん!」
「フィルド閣下!」
クソッ、なんて力だ……! 電撃だけで弾き飛ばすなんて……!
「ククク、フィルド=ネストさすがだな……。ハンター=ガンマとの戦い見事だったぞ」
「何者だ!」
ピューリタンがアサルトライフルの銃口を向け、パトフォーに怒鳴る。だが、彼は全く動じず、口元を歪めながら近づいてくる。
「政府特殊軍准将ピューリタン……! お前などに用はないッ!」
そう言うとパトフォーは目にも止まらぬ速度で動き、ピューリタンのアサルトライフルを蹴り落とす。そのまま彼女の髪の毛を掴むと、その顔を拳で何度も繰り返し殴りつける。
「あぐッ、ぐぁッ、あがッ、がはッ――!」
「ピューリタン准将っ!」
その光景を見かねたのか、パトラーが飛び出す。その手にはさっきまで私が握っていた電磁ソードが握られていた。
パトラーは電磁ソードでパトフォーを斬りつけようと後ろから素早く近づく。だが、パトフォーはそれに気がついていた。
突然、ピューリタンを蹴り下がらせると、素早くパトラーの方を向き、手をかざす。そこから放たれる青い電撃。パトラーの電磁ソードを一瞬にして弾く。そして、彼女に近づくと、拳で殴り飛ばす。彼女は私の近くまで飛ばされる。
「うぐッ……」
「パトラー!」
一方、パトフォーは向きを変え、鼻や口から大量の血を流がし、激痛に顔を歪め、足下のふら付くピューリタンの腹部を一蹴りし、遠くに吹き飛ばす。彼女は背中を壁にぶつけ、そのまま倒れる。
パトフォーは今度はこっちを向く。彼の後ろで床に倒れ込んだピューリタンはもう動かなかった。生きているのか……?
「ククク、残り2人」
「貴様ッ!」
私は衝撃弾と破壊弾を乱射する。パトラーはピューリタンのアサルトライフルを手に、彼を射撃する。そこにあるのは純粋な恐怖だった。人殺しを恐れるいつもの彼女ではなかった。
だが、パトフォーは手をかざし、黒い煙の壁を作り出す。魔法弾や銃弾は全てその中に消えていく。まるで吸収されていくようだった。
「そんなっ……!」
「ど、どうなってる!?」
「ククク、ハッハッハッ!」
パトフォーは黒色の煙を渦状にして手の中に戻す。そういえば、なんでコイツは魔法を使えるんだ? まさか、パーフェクターか!?
そんな事を考えている間にもパトフォーは次の行動に出る。右手を上げる。すると、床に倒れていたピューリタンの体が浮き上がる。そして、そのまま彼女の体をパトラーの方を目がけて投げ飛ばしてきた! その速さにパトラーは避けれず、正面からピューリタンと衝突する。
「うぁッ!」
「パトラー!」
パトラーはそのまま壁に背中をぶつけ、ピューリタンと共に床へ倒れ込む。
「クッ……! 何がしたい! 私たちを殺しにきたのかッ!」
「ククク、最初にかかって来たのはお前だろう?」
パトフォーが目の前に現れ、私の頬を殴りつける。一瞬目の前が真っ白になり、私の体は床を転がる。口の中を切ったのか血の味がする……。
「うッぐッ…… フィルド、さん……」
「……パトラーっ……!」
パトラーの微かな声に私は彼女の方を向く。口の端から一筋の赤い血を流し、私の名を呼ぶ彼女がそこにいた。
「クッ……!」
私は再び立ち上がると、デュランダルを手に取り、パトフォーに向かって走り出す。走る間に素早く物理シールドと魔法シールドを張る。
だが、それらのシールドは突然周囲に出現した黒い球体によって打ち消される。そんな、シールド破壊魔法まで……!
パトフォーが衝撃弾を飛ばす。だが、その進路方向はパトラーとピューリタンが倒れている方向だった!
「えッ!?」
爆音。私は一瞬だけ目をつむる。パトラーが攻撃に晒されているのを見たくなかった。でも、彼女の悲鳴は耳に入る。その瞬間、胸が締め付けられるような感覚になる。クソッ……!
私はデュランダルを振り上げ、パトフォーを斬り殺そうとする。だが、それは後方に向かって瞬間移動ともいえる回避行動をした彼にはいとも簡単に避けられる。
「諦めるんだな、フィルド=ネスト」
「黙れ!」
誰がお前なんかに! パトフォーの言葉を蹴り、私がもう一度デュランダルを振り上げようとした時だった。
「では、あの女は死ぬことになるがいいんだな?」
「…………!?」
パトフォーの言葉に私はそこで止まる。彼の両手には黒い影と共に青い電撃が見え隠れしていた。私が彼を攻撃すれば、パトラーが殺される……!
「片手でお前を弾き、もう片方でパトラーを殺す。それだけの話さ、フィルド=ネスト」
「…………ッ! な、何が目的だっ!」
こうなるともはや身動きが取れない。もし動けばパトラーが殺される……!
「……俺の目的は1つだけだ。フィルド、お前を捕えに来た」
「なんだと……!?」
「“サイエンネット計画”にはお前が必要なのだ」
サイエンネット計画……。そういえば私のクローンを作って実験体にしたのもその計画の為だったな。あの男の野望を達成させる為の計画。究極の生物兵器を生み出す為の計画……。
「ハンター=ガンマをも超える生物兵器の開発か!」
「生物兵器開発? いや、違うな。サイエンネット計画は“不老”と“驚異的な生命力”、“全ての魔法を操る”事を実現する計画さ」
「……究極の生物兵器開発じゃないのか?」
「ククク、それは違う。そして、サイエンネット計画の最後の完成体は――俺自身だ」
「…………!!?」
ま、まさか、コイツ自身が“不老”・“驚異的な生命力”・“全ての魔法を操れる存在”になる気か……!
そこで、ふと自分自身を思い返す。自分は異常な生命力を持ち、全てではないが魔法を操れる存在。そうか、8年前の実験で私は……。
「今回は発展途上にあるお前という実験体の回収に来たのさ。……お前も俺もまだ完成体ではない」
パトフォーは後ろを向くと、空中に手をかざす。その途端、空中に空間の歪みが発生し、電磁波を伴った黒い穴が開かれる。
「さぁ、来てもらうか。断れば……分かるな?」
パトフォーはパトラーの方に向かって手を向ける。断れば電撃でパトラーを殺す、という事か……。
「……少しだけ待ってくれ」
私はそう言うとパトラーの元に行く。彼女は既に気を失っていた。でも、死んではいなかった。私は持っていたデュランダルと電磁ソードを彼女の手に握らせた。
「……さようなら、だ」
私はパトフォーの元に歩み寄る。そして彼に進められるままに黒い空間の裂け目に入った。
結局、私はまた仲間と別れ、彼に捕まった。8年前と何も変わらなかった。唯一幸いした事はパトラーが死ななかった事だった。
私はまた実験体にされる。8年前と同じように――。




