第39話 8年前の真実と人工知能オーロラ
「油断大敵って言葉知ってるか?」
「も、申し訳ありません……」
そんな事を言いながら私はピューリタンの手を取り、立たせる。ハンター=ガンマは撃破したが、コイツが死ぬところだった。装甲を破壊し、油断した彼女はハンター=ガンマに急接近。電磁ソードで刺し殺される一歩手前だった。
「本当に申し訳ありませんでした……」
「今度からは気をつけろ。軍を率いていたら逆転敗北になりかねんぞ」
「はい……」
……コイツ、いつか自分の油断で敗北を招きそうだ。なんとなくそんな気がした。
私は落ちていた電磁ソードを手に取り、再び歩き出す。これで残すは人工知能オーロラだけだ。部屋の奥まで進むと、自動的に扉は開かれる。
そこから細長い廊下を進み、また扉に突き当たる。私がパネルに触れると、扉は左右にスライドして開かれる。
「ここが“オーロラ御座”、ですか……」
「……らしいな」
部屋は円柱状になっていた。その壁は不気味な赤の蛍光を放ち、大量の謎の計算式やら記号、何かが書かれたリスト・ファイルが表示されては消えていくを繰り返していた。
床は黒のパネルで、何もなかった。いや、それが普通なのだが……。むしろ壁に何か表示されているのがおかしいのだが……。
部屋の中心にある円柱。この円柱は青く不気味な蛍光を放っていた。そして、その下部分には円柱を囲うように操作パネルが並ぶ。あの円柱の物体こそが人工知能オーロラか……!
[ようこそ 人工知能中枢へ]
「お前が財閥連合の支配者オーロラか」
[ええ、そうですよ。ワタクシこそが財閥連合の全権を統べる世界最大のコンピューター]
「……テトラルシティを覚えているか?」
8年前、平和の生贄にされた街。悲劇と狂乱の都市。財閥連合に占領された街。私は何も出来なかった。そこで無残に仲間を殺された。
1人は女性軍人のアリナス准将。テトラルシティの警備軍であるテトラル保安連隊に勤めていた。街を救いたい一心で私を逃がそうとした。戦争を防ぎたかったのだろう……。
もう1人は彼女と同じテトラル保安連隊の軍人でヒューズという男。彼とは市内で戦争が起きてから出会った。崩壊した街でも希望を失っていなかった。
[ええ、もちろん。データは全てワタクシが収集しました。ハンター=アルファやバトル=アルファの戦闘データも、アナタの戦闘データも全て……]
ハンター=アルファ……。市内に投入された生物兵器。私の目の前で多くの女性や少女を殴り殺していった。ほとんど助けれなかった。みんな、罪もないのに殴り殺されていった。悲鳴や泣き声、光景は今も鮮明に蘇る。きっと忘れる事はないだろう。
もし、あの時今のように魔法が使えたら、力が強かったら彼女たちを助けられただろうか……?
「アリナスとヒューズ。私の仲間を殺したのは……お前か?」
脱出まであと一歩だった。だが、2人はどこからもなく飛んできた魔法によって殺された。助けようとした私もシールドで妨害され、出来なかった。
[ええ、そうですよ]
「…………ッ!」
[……おかしいと思いませんか?]
こ、コイツ……! 私は怒りで拳を握り締める。今すぐにでも殴りかかりたい。その衝動を必死に抑える。我慢しろ。今は、まだだ……!
[なぜ、あの場所にバトル=アルファでなく、人間の兵士を配置したのか?]
知るか! バトル=アルファが役に立たない鉄クズだからだろうが!
[なぜ、あの場所に侵入したアナタ方3名に気がつかなかったのか? 普通はセンサーでバレますよ]
うるさい、うるさい、うるさい! 次、何か喋ってみろ、叩き壊すぞ……!
[その答えは……ワタクシの命令であのエリア一体にワタクシの“結界”を張らせたからですよ。部下には言いませんでしたが、あの結界内は強力な妨害電波を放っています。当然、あの妨害電波ではバトル=アルファやセンサーは機能しません。アナタ方の成功はワタクシの手助けあってのものです]
…………ッ! 上手く侵入したと思ったのに、事実は人工知能の手助けだったというのか……!
[ワタクシはアナタを実験体にしたかった。その為にテトラルシティからの脱出を手伝った。アナタの仲間は後々邪魔になりそうだった。だから、脱出直前に殺した。アナタの脱出の邪魔になりそうなワタクシの部下も……]
「クッ、ぐッ……!」
[結界内ではワタクシは自由に攻撃が出来ます。あの攻撃魔法・妨害魔法は全てワタクシの力。アナタだけを乗せた脱出用のヘリを操り、勝手に飛ばしたのもワタクシの遠隔操作によるもの]
「クッ……! アリナス、ヒューズ……!」
私はその場に膝を着く。涙を、抑えられなかった! あのテトラルの成功はコイツの仕組んだ罠でしかなかったんだ……!
「あの、私からも一言――」
[なんです? ピューリタン准将]
「お前、自分のやってる事、最低だと思わないか? フィルド閣下を実験体にするためにお前はテトラルを、閣下の仲間を殺した。そうだろ?」
[ええ、そうですよ。偉大な科学の発展には犠牲も仕方ないでしょう?]
「ハ、ハハハッ!」
私はデュランダルを握り締め、円柱に向かって走り出す。溢れ出る涙を拭う事も忘れ、怒りのままに人工知能に向かって走り出した。もう、ガマン出来なかった。
「偉大なる科学の集大成が!」
オーロラを大きく斬りつける。火花が散る。警報がなる。周囲の壁に警告を表すマークが表示される。
「ヒューズとアリナスと、テトラルの犠牲で生まれたモノが!」
私は勢いをつけ、オーロラに無数の破壊弾を飛ばし、デュランダルをぶん回しながら何度も斬りつける。金属音が何度も鳴り響き、火花や破片が飛び散る。
「ハンター=ガンマかッ!!」
爆音。オーロラは炎を上げ、爆発した。熱風が私の顔に吹き付ける。
[――い、…え。ハンタ、ガン――では、なく、もっ…素晴らしき――“アナタ”という――…生物兵器を―創り…――。ワタクシ……これで死ぬが――時代はもう――…―]
もう一度爆発が起こる。それを最後に警報音は鳴りやみ、周りの表示も全て消える。また今まで通ってきた廊下の光も消え、薄暗い緑色の光だけとなる。
人工知能オーロラは消滅した。これで全てのエリアの機能はストップし、全軍用兵器も止まったハズだ。あとはパトラーを助ける、だけ……
私はその場に座り込む。なぜか立てなかった。……オーロラを破壊し、復讐を果たし、私は脱力したように座り込んだ。
「フィルド閣下、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……。パトラーを助けないと、な……」
ピューリタンに助けられて私は立ち上る。幸いにも部屋の奥にエレベーターがある。恐らく中央エレベーターだろう。これですぐに地下フロアまでいけそうだ。
…………。敵はもういない。ハンター=ガンマを倒し、人工知能オーロラも破壊した。コマンドらも今頃は捕まっているハズだろう。なのに、なんだか……
「そういえば、クロント支部からここに輸送された“X生体”ってどうなったんでしょうね?」




