第36話 軍人としての覚悟
【オーロラ支部 データセンター】
無人のデータセンターに入った私たちはコンピューターを操作し、オーロラ支部内のデータを収集する。幹部や兵士は逃げたのか中には誰もいなかった。
「フィルド閣下、データ収集の方、完了しました」
そう言いながらグルー准将は私にデータを入れた小型の携帯端末を渡してきた。私はそれを受け取ると、さっそく確認する。
データによると、オーロラ支部内には“ハンター=ガンマ”と“X生体”と呼ばれる2体の生物兵器が存在するらしい。その内、ハンター=ガンマは上層エリアに存在する。
「この施設を管理するのは人工知能のようですな」
「ああ、“オーロラ”と呼ばれる人工知能だ。そして、そのオーロラがバトル=アルファやその他の軍用兵器全てを操っているらしい」
という事は人工知能のオーロラさえ破壊すれば全軍用兵器は機能停止になる。そうすれば余計な死者も出さないで済む。
私はオーロラの位置を検索する。……オーロラもハンター=ガンマと同じく施設の上層エリアにいるらしいな。それに、この施設にいる人間は総督のコマンドと施設長官のネストールだけらしい。他の兵士や幹部は政府軍の攻撃が始まるずっと前に逃げ失せたか。
「……パトラーはどこに捕まっている?」
「パトラー准将のことですか? あんなのはほっときましょう」
なんだと……!? 私はグルー准将の言葉に怒りの様な感情を抱く。つい拳を握りしめ、ワナワナと震わせていた。
「フィルド閣下、パトラー准将は地下エリアに収監されているようです」
ピューリタン准将の言葉でハッと我に返る。落ち着け、落ち着くんだ……。こんな小さな事で怒るな。冷静に、冷静になるんだ……。
「そうか。まずは彼女を救出してから……」
「冗談でしょう? フィルド閣下」
またグルー准将が口を出してくる。なんだコイツ、私に喧嘩売ってるのか? それともパトラーの事が気に喰わないのか? どっちにしろ不愉快極まりないな。
「どういう意味だ? グルー准将」
「我々はこのまま施設上層に向かい、人工知能オーロラを破壊するべきです。オーロラが破壊されれば全ての軍用兵器・施設のロックも解除されるんですぞ?」
グルー准将の言ってることは分かる。私たちが今いるのは施設中層エリアだ。各所から軍が侵入していっているがまだどの部隊もこの中層エリアには辿りついていない。
恐らく外部エリアや下層エリアにて大量のバトル=アルファやバトル=ベータに邪魔されているのだろう。ここに到着するにはまだまだ時間がかかる。
「じゃ、パトラーを助けるのは後回しにするのか?」
「ええ、そうです。我々はこのまま上層に向かい、一気にオーロラを破壊するべきです。パトラー准将のことはその後でもいいじゃないですか」
私はついカッとなり、グルー准将の胸倉を掴むと、そのまま彼を壁に押し付ける。
「パトラーがどんな思いで私たちの救助を待ってるかお前には分からないのかッ!」
「わ、分かりますとも。あなたこそ分からないのですか?」
「なんだと、貴様ッ……!」
「パトラー准将は仲間の死を嫌う人だという事を。ここは早急にオーロラを破壊して全軍用兵器を機能停止にし、兵の死者を減らすべきです!」
「…………ッ!」
私はしばらくグルー准将の胸倉を掴み彼を睨めつけていたが、やがてその手を離した。確かにそうだ。パトラーは人が死ぬのを嫌がる。それが敵の人間であっても、だ。だから、1人でこの施設に乗り込み、そして捕まった。
「……上層部へ行く。この手でオーロラとハンター=ガンマを破壊し、財閥連合コマンド代表を逮捕する」
私は心の中にわだかまりを残しつつも、データセンターの扉を開ける。白色の扉は左右にスライドして開かれる。
オーロラを素早く破壊し、その後すぐに地下に向かう。バトル=アルファやバトル=ベータは機能停止し、全エリアのロックも解除されてるハズだから楽に行けるだろう。
「グルー准将」
「なんです?」
「兵士9名を率いてコマンドとネストールを逮捕しろ。私と兵士2名、ピューリタン准将でハンター=ガンマとオーロラを破壊する。オーロラが破壊されて逃げられても困るからな」
「了解。9名続け」
グルー准将は近くにいた9人の精鋭兵を率いてさっさと灰色の廊下を進んで行った。残ったのは2人の兵士とピューリタン准将だけだった。
上層エリアにはハンター=ガンマが配置されている広い部屋がある。オーロラがあるのはその先のエリアであった。
コマンドらがいるのはハンター=ガンマが配置されている丁度真上の最高司令室。オーロラが破壊されたと知ったら真っ先に逃げ出すだろう。そうなると、2人を逃がす事になってしまう。だから、先にグルー准将を行かせたのだ。
グルー准将は決して無能な将官ではない。戦闘能力は低いが、指揮官としての彼は凄い。判断力も高く、また指揮官としての“覚悟”も備わっている。……戦争で大きな勝利を掴むためならば仲間をも捨てるという覚悟が彼にはあった。
「行くぞ。コマンドらを警護する兵器がいるかも知れないからグルー准将らが最高司令室に付く前にオーロラを破壊するんだ」
私はピューリタン准将と2人の精鋭兵を引き連れて廊下を進む。敵の軍用兵器は下層エリアと外部エリアに集結しているのか辺りは静まり返っていた。
グルー准将は“戦争に心はいらない”がモットーだった。軍人として、指揮官として有能で、その覚悟もあるのだが……。




