第30話 脅威フェーズ5
僕と姉さんはメインストリートを走る。遥か遠くにある巨大な塔。あれがセントラルタワーか。あそこで全ての政治が行われているんだな。
メインストリートを走っていると、途中、大型の防御シールドで道が塞がれていた。その前には巨大なサソリ型の軍用兵器も。……明らかにアイツを倒さないと進めない感じだ。
「いくよ、サレファト!」
「一気に倒しましょう!」
[フォーメーション:アルファ。“フォボス”戦闘開始]
サソリ型軍用兵器のフォボス。黄色のボディをしたその腕は巨大なチェーンソーになっていた。また後ろの方にあるのはジェット機。コイツも飛んでくるのか……?
「“電気シールド” 喰らえッ! “雷撃”!」
僕は姉さんと自分に物理シールドを張ると、フォボスに強烈な雷を何本も落とす。雷を落とされたフォボスは怯みながらも、ジェット機を稼働させ、僕らに迫ってきた。そして、チェーンソーを振り上げ、一気に僕の体を斬りつけた!
「あうッ!」
「サレファト!」
思ったよりも強力だった。僕は後方に飛ばされ、また大きなダメージを負った。忍ばせておいたスタンロッド型の魔法発生装置で自分自身を回復させる。
「“ブラックホー……”!」
姉さんがブラックホール・ボムを使おうとした時だった。突然、フォボスの頭が左右に開かれ、中から1つの丸い穴が姿を現す。その穴が白く光り始める。……まさか、レーザー光線でも撃つつもりか!?
「…………!」
「姉さん!」
[排除する!]
一筋の白い光が飛ぶ。それは姉さんの体を狙って一直線に飛ぶ。だが、姉さんの体が貫かれる事はなかった。姉さんは一瞬で姿を消す。レーザー光線は全然違う建物に直撃し、爆発する。
時間と空間のパーフェクター。それが姉さん。空間を飛ぶことができ、時間を僅かにだけど止める事が出来る。でも、それはほんの2、3秒。それだけで大量の魔力を消費してしまう。
「はぁ、はぁッ! クッ……!」
「姉さん……!」
一度、時間魔法を使っただけで姉さんの息は上がっていた。魔力を使い過ぎればその先にあるのは――死!
「喰らえッ! “雷撃”! “エレキロケットランチャー”!」
僕は強力な電気攻撃を2つも繰り出す。前者は純粋な魔法攻撃。後者は物理・魔法攻撃だった。それら2つは一気にフォボスの頭を直撃した。
大技を喰らったフォボスは炎を上げて炎上する。そして、激しい光を放ったかと思うと、強烈な爆発を起こし、自爆した。煙と熱風が顔に当たる。僕は思わず目を閉じる……!
[防御シールド、解除]
フォボスの後ろで道を塞いでいた防御シールドが消滅する。だが、その後ろには大勢の兵士が待ち構えていた。ほとんどが警備軍精鋭部隊の兵士。グリードシティの警備軍兵士だ。そこに混ざって特殊軍の強襲部隊の兵士もいた。
「フォボスを撃破したのは誉めてやろう」
「だが、悪の進撃もここまでだ!」
「悪の栄える世などない!」
「かかれ!」
アサルトライフルを持った兵士たちが一斉に押し寄せてくる。僕と姉さんも迎撃する。こんな所で死にたくないっ! ここを突破するんだ!
「撃てぇッ!」
「“雷撃”!」
「ぐぁッ!」
「ぎゃぁッ!」
激しい雷鳴と共に、地面が振動し、光と共に大勢の兵士が倒れ込む。まさか、死んではないよ、ね……? 一応、軍用兵器じゃないから手は抜いてる。気絶させる程度に抑えてる。
でも、姉さんは違った。容赦なく彼らを殺していっていた。魔法や拾ったアサルトライフルで次々と殺していた。
「姉さん……」
「死にたいヤツからかかってこいッ!」
「喰らえッ!」
「死ね!」
次々と群がってくる兵士に容赦ない攻撃。殺されていく兵士を目に入れつつも、僕も攻撃する。威力を抑えた電気魔法で……。
[敵生体を排除します!]
上空からまたフェンサーが現れた。僕はエレキロケットランチャーを撃つ。フェンサーの胴体を貫き、爆発する。眩しい光と共に熱風が吹きつける。
フェンサーを破壊し、僕は他の兵士を気絶させてようと放電し、周りの兵士を倒す。でも、次々と兵士たちが集まってくる。これじゃキリがない。
「サレファト!」
突然姉さんが僕の手を引いて走り出す。赤く光る近くの動く坂道をかけのぼる。軍事総本部の下層部から中層部にかけのぼる。姉さんは素早く坂道の先の中層部にいた警備軍兵士を射殺する。そして、僕の手を引いたまま、狭い路地に入り込んだ。
「はぁはぁ……! やはり下層部から行くのはマズイね。軍用兵器が多すぎる……」
「……やっぱり、無理ですよっ」
敵も多すぎる。これまでに倒した兵士の数は分からないけど、たぶん、もっと強い兵士や将官だっている。そんなのが出てきたらもう戦えない。殺されちゃう。
それに軍用兵器だってまだまだ強いのだっている。フェンサーやフォボスよりも最新鋭の軍用兵器がこの先にはたくさん……。
[緊急情報をお知らせします。グリードシティ中央エリア全域に脅威フェーズ5を発令。中央エリア全域を封鎖します。一般市民はただちに自宅内・避難エリアに避難し、外出を一切禁止します]
脅威フェーズ5。確かフェーズ1からフェーズ7まであった。その内、フェーズ5って……。そして、中央エリア……つまり、軍事総本部を含む政府専用エリアだ。
政府専用エリアには軍人や役人とその家族が住む居住エリアもある。ここでいう一般市民はその家族を指しているのだろう。
[不審な少女と少年を発見した場合、ただちにお近くの政府軍人にお知らせください。みなさんの安心と安全の為、政府軍は総力を挙げて追撃を行います]
総力を挙げて……。守られるのは一般市民。戦うのは政府軍人。そして、追撃されるのが僕ら……。
「姉さんっ、死にたくないッ!」
「…………。私が守って上げるから、頑張ろ?」
そう言うと姉さんは僕を抱き締める。なんとなく、温もりを感じた。それだけで僕はどこか安心した。でも、この時、どこか姉さんは震えていた。それに僕は気がつかなかった。
◆大隊攻撃機フォボス
◇国際政府特殊軍が所有する攻撃型軍用兵器。
◇一度に一個大隊(960名)を相手にすることが出来る。
◆グリードシティ警備師団
◇首都グリードシティの警備を行う警備軍。
◇警備軍の中でも最上の実力を誇る。




