第27話 パトラー=オイジュス准将
――EF2010.12.05 【政府首都グリードシティ】
クロント支部で発見された大量の軍用兵器はウワサでしかなかった財閥連合の軍事問題を社会の目の下に晒すこととなった。
EF2010年10月には1つの支部を除いて全支部の強制捜査が行われ、僅かではあったが、新たに開発・製造中の軍用兵器が発見されてしまった。
これで、残りは生物兵器の証拠が見つかれば、財閥連合という企業そのものを崩壊に導けるのだが……。
残り1支部、コスーム大陸の北西部に位置する“オーロラ支部”。彼らはここだけは絶対に捜査させなかった。私は確信している。この施設に何かが隠されているのは間違いない。
私は軍を率いてこの施設の強襲を提案したが、反対に合い、断念した。その反対者は――……。
「パトラー=オイジュス“准将”は出撃したのかね……?」
「はい、先ほど……」
私は椅子に座ったマグフェルト代表に向かって言う。政府代表オフィス。外は暗い夜空の下、雪が吹き荒れていた。
思い返せば今から約1年前、ここでパトラーと2人で政府代表から連合軍の事を聞かされた。あれからもう、1年。1年前は財閥連合は強大な力を持っていた。だが、今は全くない。オーロラ支部1つを残し、全てを失った。
「もし、パトラー准将が生物兵器開発につながるデータを取って来てくれればよいのだがな……」
「ええ、もし彼女の作戦が成功すれば財閥連合はもう完全に崩壊します。言い逃れは絶対に出来ません」
パトラーは政府軍のオーロラ支部強襲作戦を反対した。そして、軍認可の元、単独でオーロラ支部へと旅立ってしまった。
反対したのはこれ以上、死者を出さない為だった。確かに彼女は仲間が傷ついたり、死ぬのを嫌がる。でも、だからって1人で……!
「今は成功を祈るしかないな」
「……はい、閣下」
私は政府代表に一礼すると、さっと背を向け、エレベーターの方へと向かった。私はパトラーとずっと一緒だった。だから、彼女の能力も性格も分かる。
エレベーターに乗り込み、ボタンを押す。扉が閉まり、エレベーターは下へと降りてゆく。1年前は2人だった。今は1人。
「…………」
無言でグリードシティの街並みを眺める。下の見えないあまりに高いビル群。明かりが灯り、美しい人工の夜景をかもし出す。
私は本当は一緒に行きたかった。だが、私は今や“特殊軍副長官”の地位に就いてしまった。これで将軍の時のように自由に行動する事が出来なくなった。
「人を殺せない軍人……優しい軍人、か」
今までは私が彼女を守ってきた。だが、単独でオーロラ支部に向かった彼女を守る事はもう出来ない。
彼女は人を殺さない、と言っていた。昔からずっと。オーロラ支部には財閥連合の兵士がいるだろう。彼らは殺す気でかかってくる。その時、パトラーは殺せるだろうか……?
私は16の時、あのテトラルシティの時、財閥連合の傭兵を容赦なく殺した。この手で剣を握り、群がる兵士たちを殺していった。パトラーは17。私と同じように兵士を殺せるだろうか?
「殺さなければこっちがやられるんだ……」
私は拳を握る。殺されるならまだいいかも知れない。もし、私と同じように実験体にされたら? あの苦しみを彼女も味わい、望みもしない力を手に入れてしまうのだろうか……? あの日、1年前、やはり私が完全に引き離していたらこんなことにはならなかったのだろうか?
――パトラー、お前を失ったら、私は……。
◆◇◆
――EF2012.12.08 【オーロラ支部 外部エリア】
私は誰も死なせたくなかった。フィルドさんもそうだけど、味方の兵士や将校もみんな死なせたくはなかった。だから、1人でオーロラ支部に向かった。1年間、必死に努力したのだから出来ると、思った。
「う、くッ……」
「……大丈夫ですか?」
「クッ……!」
私はフラフラする体で目の前の小柄な少年を睨めつけていた。白銀の髪の毛にキレイな蒼色の瞳。優しそうな表情をしている子だった。私はこの子とこの子の姉に敗れた。
「すみません、少し痛い事して……」
「ふざける、なぁっ……!」
私の手が後ろにやられ、何か冷たい金属質なものをハメられる。手錠……? ハメてるのは財閥連合の兵士……。
「立て!」
「…………ッ!」
財閥連合兵に私は無理やり立たされる。周囲にも大勢の財閥連合の兵士がいた。黒い装甲をきた大勢の兵士たちがアサルトライフルを手に私の周りに集まっていた。
「ハハッ、政府は女を送り込んでくるとは!」
「俺らへのプレゼントか? ハハハ……」
彼らの卑劣な笑い声が響く。私は捕まってしまった。作戦に失敗し、捕まってしまった。
「さっさと歩けクソ女!」
「あぅッ!」
後ろの兵士が私の背中を思いっきり蹴る。その衝撃で、私は正面から雪に向かって倒れ込んでしまう。地面が雪で覆われていたからよかったけど、もしコンクリートだったら……。
「ぼ、僕が連れて行きます!」
あの少年の声が恐怖と絶望に覆われた頭に響く。それと同時に少年に対する怒声や罵声も一緒に……。彼は私を助け起こすと、服や頭についた雪を払う。
「さ、行きましょう」
彼は後ろから私の手首を握り、斜め前には彼の姉がやって来る。――着いて来い、という事か。
雪の降り続けるオーロラ支部。私は捕まってしまった。出来ると思った。生物兵器開発の証拠を掴んで帰還できると思った。
でも、現実は厳しかった。シリオードから来た2人のパーフェクター。後ろの少年――サレファトと先導する少女――サルリファス。たかが、准将の私が、パーフェクター2人を相手に勝てるワケなかった。
「その女、拷問所にでも連れて行ってぶっ殺しちまえ!」
「バカ、勿体ねぇわ、ハハハ」
彼らの言葉に私は体をビクつかせる。そういえば敵に捕まったスパイってどうなるんだろう……?
「だ、大丈夫ですよ。僕はそんなことしませんから……」
サレファトが心配そうな表情を浮かべながら言う。怖いけど、敵に弱みを見せたらダメだ! きっと、その内フィルドさんが助けてくれるから、それまで頑張るんだッ!
「こちら、サルリファス。ターゲットを確保。開門せよ」
[了解]
オーロラ支部の正門が開かれる。私は本当は怖くて逃げ出したかった。泣きたかった。でも、いつかフィルドさんが助けてくれると信じて……!




