第20話 水槽の少女
「人体実験は違法……お前を逮捕するッ!」
私は震える手でサブマシンガンを握り、銃口をティワードに向ける。狂気的な組織のリーダーを前に体の震えは止まらなかった。腕は震え、狙いが定まらない。
「わたしを捕まえる気かな? 残念だが、わたしには勝てない」
ティワードは漆黒の刃をした剣を振る。すると彼の周りに複数の魔法ベールがかかる。物理と魔法の防御力と攻撃力を向上させるベールだ。一度に4つのベールを纏うなんて……!
私は彼に向かって発砲した。引き金を引き、鳴り響く乾いた音と共に、連続して小さな銃弾が飛んでいく。飛んでいく先は言うまでもなくティワード。彼を目がけて銃弾は進む。
驚くことに彼は回避せずにそれを体に受ける。剣で顔を隠しながら、銃弾を体に受けながら私の方に歩み寄ってきた。たぶん、物理シールドと着ている装甲服のせいで攻撃がほぼ無効化されているんだ……!
「遊ぶ気はない」
「クッ……!」
ティワードが剣を振る。その瞬間、白い弾が飛んできた。それは私に当たると爆発する。私の体は僅かに吹き飛ばされ、倒される。魔法の衝撃弾か!
倒された私を目がけてティワードは剣を振り上げる。斬り殺そうとしているのは一目瞭然だった。イヤだ、まだ死にたくない! こんな所でッ!
私は振り下ろされる剣を剣で防ぐ! 部屋に金属同士が触れ合った音が鳴り響く。私はとっさにサブマシンガンから自分の剣に持ち替え、間一髪で彼の攻撃を防いだのだ。
「どうだッ……!」
「ほぉ……」
ティワードは素早く私から離れ、後退する。彼の後ろにあるのは円柱の水槽。その中には裸の人間の後ろ姿だけが見えた。あの中に入れられた人はどんな思いをしているだろうか。助けられるものなら助けたい。彼女たちを解放したい。
私は素早く魔法シールドをかけ、続けて物理シールドをかける。かけ終わった同時にティワードは剣を振りながら叫んだ!
「科学魔法よ! 彼女を仕留、わたしに勝利をもたらせ!!」
彼が剣を振り下ろした瞬間、数種類の魔法弾が飛んでくる。氷撃弾、ファイア弾、衝撃弾、ウォーター弾、電撃弾の5つ。それらは私に着弾すると、一斉に牙を剥いた!
尖った角を持つ氷の塊。爆発し、赤と黄色の火柱を立てるファイア弾。さっきと同じように爆発する衝撃弾。大量の水が破裂したかのように襲い掛かるウォーター弾。全身に走る電撃……!
5つの魔法攻撃。もし私が魔法シールドを張っていなかったら死んでいたかも知れない。それほどにまでに凄まじい魔法攻撃の連続だった。
「喰らえッ!」
私は魔法発生装置を振る。雷がティワードを貫き、追い撃ちをかけるようにファイア弾が彼の顔面を直撃する。火柱と煙。その2つによって彼は視界を奪われる。
彼が視界を奪われている隙をつき、私は素早く動く。ここは場所が悪い。後ろには水槽と壁しかない。退路を断たれた状態じゃ不利だ。水槽と水槽の間をすり抜け、私は移動していく。
「逃がさん!」
ティワードの声と共に大きな空気を切り裂く様な音。すぐ側を強烈な斬撃が走る。それと共に建物全体が揺れた。いや、それだけじゃなく、近くの水槽もスッパリと斬れ、緑に近い水色の液体が一気に流れ出した。
「う、うわッ!」
当然の事ながら液体は自分自身の体にもかかる。また、液体の流れ出る勢いで私の体はその場に倒される。そして、その体に覆い被さるように中に入っていた人が流され、出てきた。
中から出て来た人を確認する前に私の視界にはティワードの姿が映る。表情を変えずにゆっくりと歩いてくる。そして、一定の距離を保って話し出す。
「どうやら君は分かっていないようだな。この“被験体たち”もまたお前の知る人物。しかも、ハンター=ベータとは違い、まだ人間だということを」
私は激しく咳き込む被験体の子を抱き締めながら、ゆっくりと立ち上がる。離せばこの子が殺される。あの斬撃によって。でも、私といれば物理シールドの中。たぶん、耐えられると思う。……たぶん。
「私の知る……? どういうこと?」
私はティワードの動きを凝視しながらゆっくりと水槽の並んでない、広い場所まで後退していく。周りの水槽にはまだ被験体たちが入っている。彼が万が一、さっきの攻撃に出たら周りの水槽を巻き込むかも知れない。水槽が巻き込まれたら中の被験体も危険だし、それにこれ以上は守れない。
「ケホッ……! こ、こは? わた、し……?」
「だ、大丈夫。大人しくしてね」
被験体となっていた人が僅かに喋る。 ……アレ? この声どこかで聞いたような気がする。
私と同じくらいの背をし、赤茶色の髪の毛に白い肌をした子。微妙に胸をふくらみを感じる。この子、女の子……?
ティワードは剣を片手に一定の距離を保ったまま、歩いてくる。その姿はどこか不気味だった。
「“彼女たち”は皆、同じ姿。ハンター=ベータに使われたヤツも同じ。お前の知る“オリジナル”と違うのは能力だけだ。」
な、何の話!? 私の頭では彼の言っている事が全くと言っていいほど理解できなかった。
「わたしの言っている事の意味が分からないだろう? ならば、その子の顔を見てみるがいい」
そう言うと彼は剣を白い床に突き刺す。その周辺には黒いひび割れが入った。しばらく攻撃する気はない、という事か。
「ここはどこ……?」
「こ、ここは連合軍のクロント――! …………ッ!?」
私は彼女の顔を見た瞬間、凍りついたように動けなくなる。彼女は私のよく知っている人だった。長い間、一緒に苦楽を共にしてきた人。私の敬愛する人。そして、ティワードから貰った紙に書かれていたハンターB型の素体にされたハズの人……!
「もう分かっただろう? 彼女が誰なのか」
「……“フィルド”、さん?」
私が助けた人は間違いなくフィルドさんだった!
ただ、私の知るフィルドさんよりも身長が低く、顔にはまだ幼さが残っていた。どうなっているの……?




