第16話 フィルド=ネスト
※前半はパトラー視点、後半はフィルド視点です。
【軍事総本部 フィルド邸】
私とフィルドさんはやっと2人揃ってここに戻ってきた。1ヶ月間、ずっとすれ違ってばかりだったけど、やっと戻ってこれたんだ。
私は戻ってくる間に連合軍の幹部と疑った事を謝り、これまでのことを話した。葬られた情報を知った事、封鎖区域テトラルでのことを。
フィルドさんは言った。封鎖区域テトラルで出会った人型の強大な魔物は、間違いなく財閥連合が生み出した生物兵器だと。そして、7年前、テトラルシティは財閥連合に占領され、リセット・ミサイルで消された。今ある情報はウソ、だと。
「私は7年前あの街にいた。あの街で財閥連合と戦った」
フィルドさんによると、街を占領した財閥連合軍は市民に対して略奪、暴行、強姦を始めた。市民の反乱が勃発すると殺戮の限りを尽くした。大量のバトル=アルファと傭兵、そして生物兵器ハンター=アルファを投入して。
国際政府も最初は戦った。特殊軍を派遣し、現地の警備軍であるテトラル保安連隊と協力して戦った。だが、運命は残酷な方向へと流れたらしい。
◆◇◆
――EF2002年【テトラルシティ テトラル保安連隊本部】
「まぁ、やむ得ないでしょうな」
「これ以上の特殊軍の人間が殉職するのはマズイでしょう」
「今はテトラル地方全域を封鎖し、立ち入り禁止にしているが、その封鎖ラインに集まってくる他地方の一般市民が日に日に増えている」
「……“テトラル除去計画”も仕方ないな」
アイツらはテトラルシティを見捨てた。大勢の市民がまだ生き残っているのにも拘わらず、街を消すと言い出して。
手に負えなくなったんだ。日増しに増える軍人の死者数。封鎖ラインに集まり出す他地方の市民。早期解決の為に無茶無茶な作戦に出た。政府上層部もそれに賛成し、財閥連合と密約を結んだ。
昔の私はバカだった。政府軍の“テトラル除去計画”がどのようなものか分からなかった。しかも、調べもしなかった。その作戦について初めて知ったのは計画実行の深夜だった。
「テトラル除去計画とはこの街を消す計画だ。地図上から、テトラルを完全に抹消する計画。それがテトラル除去計画だ」
仲間の1人に教えられ、初めて知った。この時、既に街は完全に封鎖され、グリードシティから派遣された特殊軍は全軍撤退した後だった。
私が残っていたのは撤退に反発したから。仲間を捨てて行けなかったからだ。その仲間はテトラル保安連隊の軍人。撤退を許されなかった軍人だった。もっといえば特殊軍の撤退の為の時間稼ぎとして使われた軍人だった。
「事件の長期化を恐れ、これ以上の被害を隠す為、この街は殺される……。この街が消えれば、世界は平和になる。……世界の平和の生贄にされたんだッ!」
世界の残酷さ。人間の愚かさを知った瞬間だった。私はバカだった。あの日まで人間と世界の残酷さを何も知らなかったんだ。でも、テトラル除去計画の内容を知り、作戦実行時刻が近づいて来ても諦めはしなかった。
「大型の飛空艇なら目立つし、撃ち落されるかもしれないけど、ヘリなら小さいし、大丈夫じゃないか? それに封鎖ラインには人が集まっているから小さなヘリなら見逃して貰えるかも」
私たちは地上からの脱出を諦め、空からの脱出を考えた。ヘリで脱出し、真実を伝えようとした。
「テトラルから脱出しよう!」
「3人揃ってな!」
「もちろん! 魔法サポートは任せろ!!」
出来ると思った。3人でなら脱出し、真実を伝えれると思った。3人でなら財閥連合を倒し、テトラルの仇を討つ事が出来たかも知れなかった。でも、それは淡い夢だった。夢は夢で終わった。
「やったぞ!」
「1人仕留めたぞ!」
あと少しだった。ヘリを奪った。あとは乗り込むだけだった。なのに、運命はあまりに残酷だった。仲間の1人が殺された。
物理シールドを張っていた。万全の態勢で挑んだ。でも、それは“謎の攻撃”で簡単に崩れ去ってしまった。どこから来たのか分からないが、物理シールドを打ち消す妨害魔法でシールドを消された。物理シールドを消されたその仲間は呆気なく射殺された。いや、彼だけじゃなかった。
「ぐぁぁぁッ!」
「アリナス! いますぐ乗れッ!!」
「えっ、えっ? ……がッ、……ッ!」
仲間の1人――アリナスも同じようにして殺された。物理シールドを打ち消され、後ろから射撃されて死んだ。私はヘリの運転先から飛び出し、2人を助けようとした。でも、ヘリから出ることすら出来なかった。謎の透明な壁に阻まれた。それを壊す前に私自身が妨害・弱体魔法を受けてしまった。
その後、ヘリは勝手に動き出し、私は2人を助け出せなかった。そして、テトラルシティはリセット・ミサイルで抹消された……。
*
脱出した私はテトラルの真実を伝えた。1人で。でも、誰も信じなかった。真実は否定され、虚偽が肯定された。ウソが世界を包み、私は連合軍に捕まった。
そして、いいように使われた。彼らの実験体とされた。実験で人間から生物兵器へと変えられた。私がパーフェクターでもないのに魔法を使えるのはそのせい。異常な治癒力や生命力も……。
私の心は壊れた。誰も信じれなくなった。近寄って来る者全てが敵に見えた。一時はもう死のうかとも思った。だが、あの街であまりに多くの死を見過ぎた私は死ねなかった。命の重みを知り過ぎた。それだけじゃない。仲間を殺した財閥連合・連合軍に何も復讐せずに死ぬのが辛く、悔しかった。
死んだ仲間。あの2人のような仲間が本当は欲しかった。苦楽を共に出来る仲間が。でも、信じられなかった。裏切られた時が怖いから。そして、あの日のように失いたくなかったから。
でも、それでも仲間が出来た。あの戦いから、私が狂ってから5年後のEF2007年。パトラーと出会った。本当に偶然の出会いだった。
「危険な事は……なるべく避けてくれ」
家に戻ってから私はパトラーに向かってそう言った。
「でも、私、フィルドさんの役に立ちたくて……」
「分かっている。分かっている! でも、頼むから死なないようにしてくれッ!」
「フィルド、さん……!」
「……すまない。いきなり悪かった」
私はパトラーを離し、近くの椅子に座る。
パトラーという仲間が出来て私は強くなったのか、それとも弱くなったのか……。
彼女がいれば自らの感情を抑えれる。だが、彼女を失えば、心の闇が全てを呑み込む。それは私を暴走させ、たやすく殺戮騎に変えるだろう……。