第14話 逮捕されし少女
【封鎖区域テトラル 南部】
物理シールドを張った私の体は大きく吹き飛ばされる。そして、瓦礫に背中をぶつけた。ダメージは少ないが、衝撃が体を走る。
太陽が昇って明るくなった。空は白い雲で覆われているのが一目で分かる。封鎖区域テトラルは今日は曇りらしい。その内、雨でも降って来そうな天候だ。
そんな天候で私は武器を振るって戦う。相手は強力な魔物だった。少しだけ灰色をした白い肌。姿形は人間と全く変わらない。ガルーダじゃない。コイツ、見た事のない魔物だ……! ……もしかして新種!?
「グォォォッ!」
魔物は雄叫びを上げると、私に向かって走って来る。右手は握られている。鋭い拳! それで私の腹部を下から上に殴る! 私の体は空中に高く打ち上げられる。
魔物もジャンプする。そして、さっきの拳で私の腹部を殴って地面に叩き落とす。背中から全身に伝わる衝撃。物理シールドを張っているからダメージは少ない。もし、物理シールドがなかったら……。
「クッ、何なんだコイツッ……」
私はハンドガンを取り出す。サブマシンガンの弾は切れてしまった。ア武器はもうこれしかない。魔法発生装置も残りエネルギーは少ない。
コイツと出会う前、ガルーダなどの魔物に魔法発生装置を使い過ぎた。だから、コイツを魔法で攻撃するだけのエネルギーはなかった。
っていうか、攻撃にエネルギーを費やしていたら防御が出来なくなる。物理シールドは常に張ってかないとやられる。たぶん、アイツの攻撃力だったら一度殴られただけで死ぬかも。
「グォォォォ――!」
空気をビリビリと振動させる雄叫び。決して低い雄叫びとはいえないものだった。何というか……よく通るスラリとした雄叫び。そんな感じだった。
……今思ったケド、アイツ、本当に魔物? あんな魔物、見た事ない。それにフィルドさんの言っていた生物兵器“ハンター=アルファ”に似ている。
財閥連合が裏で作り出した人間ベースの生物兵器。強烈な物理攻撃を行い、人を打ち上げ、突き飛ばし、殺戮の限りを繰り返す生物兵器。
「喰らえッ!」
ハンドガンの弾が魔物の肩を直撃する。緑色の血が飛ぶ。でも、出血量は思ったより少ない。どうなってるんだ……!
「グォォォォ!」
再び魔物(ハンター=アルファのような気がしてならない)が突進して来る。私は素早く横に飛んで彼の攻撃を避ける。そして、彼の足元から魔法発生装置を使って攻撃する。白い弾、衝撃弾が飛び、彼を軽く吹き飛ばす。
私は彼が倒れ込んでいる隙を突いて立ち上がり、距離を取る。距離を取り終えた時だった。私の視界に小型の飛空艇が入る。
「アレは政府軍の……!」
魔物の後ろ、私の正面から1機の小型飛空艇がやってくる。茶色の装甲で覆われた機体。そこには政府軍の紋章があった。間違いなく政府軍の小型飛空艇だ。左右に取り付けられた砲身……迫撃砲が魔物に向けられる。
[魔物を発見! ただちに撃退せよ!]
鳴り響くサイレンと共に両方の迫撃砲から砲弾が飛ぶ。爆発と共に爆炎・爆風が起こり、地面を激しく震わせる。何度も爆発が起こる。激しい爆音。目の前が見えなくなるほどの煙。
私はシールドを張っているにも関わらず目をつむり、顔を手で覆う。でも、助かった。このままだと負けていたかも知れない。
爆発が収まり、煙が晴れてくると、すぐ近くまでやってきた飛空艇の方に向かって手を振る。その飛空艇のすぐ下ではあの魔物が炎に包まれ、倒れていた。たぶん死んでいるだろう。さすがに。
私はハンドガンを下ろし、飛空艇に近づこうとした時だった。
[侵入者を発見! 直ちに投降せよ!!]
……え? 左右の迫撃砲、更には上部のマシンガンも私に向けられる。
そうだ、忘れていた。私は立ち入りを禁じされている封鎖区域に勝手に入った不法侵入者だった。私からすれば、この装甲飛空艇とその兵士たちは敵だった。
私は一瞬ためらったけど、ハンドガンを魔法発生装置を地面に落とし、両手を上げた。戦って勝てるワケないし、逃げてもたぶん、即殺されるから、ね。
*
【封鎖区域テトラル 封鎖ライン 本部】
手を後ろにやられ、手錠を嵌められる。その状態で飛空艇から降ろされる。周りには強化プラスチック製の装甲服を着た兵士達。服装からして特殊軍の駆逐部隊員だ。
私は飛空艇から降ろされ、建物の内部に連行される。連れて行かれた先は取調室だった。手錠を嵌められたまま、椅子に無理やり座らされる。正面には軍の将官。
「見た感じ政府軍人だが何者だ?」
「特殊軍精鋭部隊に所属するパトラー=オイジュス……です」
力なく答える。私、このまま逮捕されちゃうのかな……?
「で、なぜ勝手に封鎖区域に入った?」
「……7年前、テトラルシティで起きた事を知りたくて……」
「7年前? それならわざわざ入る必要ないだろうが!」
尋問をする将官がキレ気味に言い、机をたたく。“操作された情報”を知るんなら、ね。でも、私が本当に知りたいのは真実。“葬られた情報”。きっとこの人も操作された情報を信じているんだろう。
「まぁいい。正式な尋問はグリードシティで行われる。“痛い尋問”を覚悟しておけ!」
強い口調でそう言われると私はまた連行される。無理やり立たされ、独房へと連れて行かれた。乱暴な扱いだった。
私、どうなるんだろう? 世界の秘密を探っていた者として消されるのだろうか? どうやって? やっぱり密かに処刑される? それともフィルドさんのように実験体にされる……?
暗い独房。私は座り込む。もう、どうにもならない。フィルドさんの為に何か出来ないかと思って色々やってきたけど、結局何も出来なかった。私のやってきたことは無意味だった。世界を相手に私は無力すぎた。
ごめんなさい、フィルドさん。私、何か役に立ちたかったけど、何も出来なかったです。迷惑かけただけでした。ごめんなさい。そして、会うことはもうないかも知れません――。
◆ハンター=アルファ・P型
◇財閥連合の生物兵器。
◇EF2002年におきた「テトラル事件」でも投入された。
◇現在は作られていない。
◆ハンター=アルファ・F型
◇財閥連合の生物兵器。
◇ハンター=アルファ・P型とは素体が異なる。
◇EF2008年から製造が開始された。
◆ハンター=アルファ・試作F型
◇財閥連合の試作型生物兵器。
◇ハンター=アルファ・F型の試作タイプ。
◇今回登場したのは、このタイプ。
◇現在は作られていない。
◆封鎖区域テトラル
◇かつて自然都市テトラルシティがあった。
◇一般人は立ち入り禁止となっている。
◇実は財閥連合の「テトラル支部」が存在するが、パトラーは見つけられなかった。