第10話 パトフォーの計画
後ろから唐突にかけられた声に驚き、私は振り返る。そこに立っていたのは特殊軍の将軍クォットさんだった。
「えっと、私になんの用でしょうか……?」
「……いや、特に用はない」
それだけ言うとクォットさんは去って行く。何しに来たんだろ? っていうか“街を占拠したのは本当”……?
っていう事はフィルドさんの主張こそが真実!? もしそうなら今出回っている情報の方こそ虚偽の情報になる。
「も、もしかして……」
フィルドさんが真実を伝える。それを都合悪く感じた国際政府と財閥連合が協力してフィルドさんを捕まえて実験体に……!
真実を世界から否定された恨み。実験体にされた恨み。この2つがフィルドさんの性格を変えてしまったのだろか? 復讐騎になってしまったのはこの2つが原因……。
私は最後に発端となったテトラルシティの位置を調べる。この街で何があったのか知りたかった。でも、あるのは消滅以前のデータ。そして、魔物に占領され、消されたというデータだけだった。こうなったら直接行くしかない。
コスーム大陸中西部、氷覇山の南。今は封鎖区域となっている盆地。私はテトラルシティの位置をメモすると、席を立ち、情報室を後にした。
この時、情報室の監視カメラが私の姿を捉えている事に、私は気づかなかった――……。
【グリードシティ 離着陸棟】
離着陸棟に向かい、自分専用(元々はフィルドさんのだけど)の小型飛空艇に乗り込む。二等辺三角形の形をした小さな飛空艇だ。それに乗り込むと、私は出発させる。
行き先は封鎖区域テトラル。広大な山々に囲まれた盆地に存在した街。今はなき街。そこで調べるしかない。
「封鎖区域、か。入れるといいけどな……」
政府関係者でも入れないかも知れない。私はフィルドさんの推薦で特殊軍精鋭部隊に所属している。とはいっても一般の兵士。一兵が入れるなんて不可能に近いかも……。
それでも行かないと。情報の葬られたグリードシティからじゃこれ以上調べるのは無理かも知れない。だから、葬られた街へ行くしかないんだ!
◆◇◆
【グリードシティ セントラルタワー】
俺は大型のコンピュータを使い、オーロラ支部にある人工知能オーロラと連絡を取る。俺が望んだワケじゃない。人工知能の方から緊急事態と連絡があったのだ。
[パトラー=オイジュス及びサレファト=シリオードを抹殺せよ。財閥連合に悪影響を及ぼす可能性が極めて高い]
パトラー……。フィルド=ネストに付き従う特種軍精鋭兵だったな。まぁ、フィルドの唯一の仲間となれば危険度は高いだろう。財閥連合にとっては。
サレファトは最近、シリオード帝国から“購入”した子供だったな。確か、元々は帝族だったららしいが……。大方シリオード帝国内でゴタゴタが起きているのだろう。俺には関係ないが。
[メタルメカ=パラドル及びケイレイト=スカイには仲間を見捨てた罪を問うべし。また2人には“裏切りの兆し”あり]
「全て必要ないさ。オーロラ」
パトラーもサレファトも殺しはしない。コイツ(=人工知能オーロラ)の知らぬ俺の計画に必要だからな。無論、メタルメカとケイレイトも。
[なぜ? ワタクシの計算では4人は確実に財閥連合に甚大な被害を与えます。最悪“財閥連合崩壊”を 招く事も考えられます。崩壊の可能性を消し、財閥連合を安泰にするべきです]
オーロラは財閥連合の為の人工知能。財閥連合という組織だけを考えるコンピューターだ。財閥連合だけを考えればそれが最もよいだろう。財閥連合だけを考えるなら……。
[それとここ数年、製造した軍用兵器の所在が不明です。直ちに部隊を捜索に回してください]
「……考えておく。回線を切断しろ、オーロラ」
[はい “パトフォー閣下”]
俺は大型コンピューターの回線が切れた事を確認すると席を立つ。席を立ち、電気的なものが張り巡らされた薄暗い蒼色の多い部屋を出る。
反乱の兆しに、消えた兵器の所在……。全て俺の計画通りに事は運んでいる。メタルメカ、ケイレイトの反乱は存在しない。消えた兵器は全て俺の傘下にある。
オーロラ、財閥連合。もうお前たちは必要ないのさ。裏切られるんじゃない。切り捨てられるのだ。無用のモノとして、な。
そして、必要あるモノだけが俺の支配する組織――“連合政府”へ入れられる。開発した兵器とメタルメカ、ケイレイトは必要。だが、オーロラ、お前は不必要だ。
俺は大きな窓から広大な世界首都グリードシティを見下ろす。今日も世界は“偽りの平和――架空の楽園”を謳歌している。
誰も疑わない。誰も知らない。今、世界を壊し、狂気の渦に叩き落す程の軍事力が出来つつあるのを。戦争という狂雲が世界を覆いつつあるのを。
「残り3年……いや、もう2年半か」
今はEF2009年12月29日。やがて年が明け、2010年となる。この年は記念すべき年になるだろう。“大いなる生贄”が奉げられる。生贄が奉げられ、世界は崩壊への一途をたどり始める。
フィルド、お前もまた俺の駒に過ぎない。お前が復讐に動けば動くほど俺の計画は快調になるのだ。最も憎む相手にいいように使われるってのはどんな気分だ……?
「俺の計画が終わった時、お前は絶望に取り込まれ、自らの死を願う“絶望騎”となるだろう……」
口の端が吊り上る。どす黒い心が蠢く。
大いなる生贄が“世界大戦”を引き起こす。世界大戦は殺戮騎を生む。そして、世界大戦でパトラーを殺し、殺戮騎は絶望騎となり、俺の計画は成功する。
さて、まずは“財閥連合”という生贄を奉げようじゃないか――……。




