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オリオン座

作者: りの。

オリオン座が沈む瞬間を見たことがあるだろうか。

あいつは、とてもきれいだ。巨大な幾何学が、誰が造ったのか計り知れない巨大なものが大きくゆっくりと沈んでいく様は、言葉を失う。


いつものようにタイマーをセットして、明け方の少し前に起き出す。震える体を緊張させながら、軽い外出用のジャージに着替える。

ランニングシューズをはいて、親を起こさないように静かに玄関の鍵を回し、そっと扉を開ける。


僕がオリオン座が沈むのを見続ける事にはまったのはおよそ二ケ月ほど前の事だった。そのころも僕は悶々と小さな事や大きなこと、目先、少し遠い未来、そして自分自身の心の不安定さに焦点を当て続けていて、おまけに昼夜逆転していた時期だった。

夜中の三時ごろにおもむろに家を出て軽く散歩しようと思って、そしてそれを見たんだ。


いつものようにオリオン座はそこに横たわっていた。よくわからないが、オリオン座は遥か地平線に沈むときは横たわって沈むんだな。つまり、あの真ん中の三つの点々が立ち上がり、それを取り巻く四方の星が地平線近くに横長の台形を模るわけだ。

そいつは、もう、言葉にできないくらい、荘厳なものだ。なにがって、それは、もうそいつと呼んでしまうような、存在に変わるからだ。天中だとオリオン座は他の様々な星々と相まって、それなりの大きさと格好を保つことになる。けれど、地平線へ沈む時、それは僕らの住む地球上の物々と比較され、明らかな常識をぱぁんと打ち砕いてしまう。変な言い方だけどね。でもそんな感じなんだ。ぱぁん。僕は最初にそれを見た時そんな感じがした。

それを見れば全ての悩みがふっとんで、心全体の浄化を感じるなんて言うつもりははなはだない。だけどそれを知ったっていうのが、大事だと思うんだ。自分の住む世界、というか、自分がいま見る事の出来る世界のメタ、つまり今いたところに立つ自分を見れるような、もう一枚膜を破った場所でいろいろなものを見れる気がするんだ。まぁそれを破ったところで、何層にも、何重層にもの膜に覆われているんだけど、この話は終わりがないからやめとこう。僕が言いたいのは、その膜を上を向いて絶えず破り続けろ、なんていう最近の自己啓発的な人のエネルギーを無意識レベルにまで入ってって吸い取る資本主義的な洗脳の空気じゃなく、膜を破るというその行為はそれを大切に見てやるっていうくらいの価値はあるんじゃないのかってことなんだ。微妙な帯域なんだけどさ。見過ぎても答えはないし、かといって全くもってメタに飛んで行かないってのも悲しい話だとも思う。

僕は長々と横たわって沈みゆくオリオン座にそう叫んでみた。状況は何も変わらない。


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