プロローグ①
かなり昔のことなのに、ふとした瞬間に、あなたのことを思い出してしまう。
今になって考えれば、あれが――私にとって、はじめての「執着」だったのかもしれない。
奈那は、小学校の同級生だった。
……いや、正確に言えば、入学する前から名前だけは知っていた。
幼稚園の頃からの幼なじみ、友菜と奈那は家が近くて仲が良かったから。
だから入学当初から、「ああ、あの子が奈那なんだ」って、なんとなく認識はしていた。
でも、それだけだった。
正直に言うと、小学四年生のころまで、私は奈那のことが嫌いだった。
頭はあまり良くないし、いつも眠たそうな顔で、どこか遠くをぼんやり眺めている。
まるでこの世界じゃないどこかの国を見ているみたいで、何を考えているのか全然わからなかった。
それに、クラスのイケイケな女子グループにくっついているだけの、不思議ちゃん。
——そんな印象しかなかった。
でも、小学五年生のクラス替えで、全部が変わった。
同じグループだった子たちの中で、同じクラスになったのは奈那だけ。
仕方なく、ほんとに仕方なく、私は奈那に話しかけた。
「……あのさ、同じクラスだね」
我ながら、びっくりするくらい愛想のない声だったと思う。
でも奈那は、少しだけ目を細めて、
「うん、そうだね」
って、ゆるく笑った。
それだけだったのに、気づけば私たちは、驚くほどの速さで仲良くなっていた。
奈那は毒舌だった。
でも、他の女子みたいなただの悪口じゃなくて、ちゃんと笑える毒舌で。
変なところでツボを突いてくるから、気づけばいつも笑わされていた。
「それさ、普通にダサいよ」
「は?うるさ、でもちょっとわかる」
そんなくだらないやり取りが、やけに楽しかった。
それに奈那は、絵が上手だった。
授業中のノートの端に描かれた落書きでさえ、完成されているみたいで。
「見て、これ描いた」
「え、なにこれ、うますぎじゃん」
そう言うと、奈那は少し得意げに笑った。
そして私たちは、少し似ていた。
いわゆる“オタクっぽい”ってやつで、好きなものにだけやたら詳しくて、どうでもいいことには驚くほど無関心で。
「それ知ってる?あのキャラさ——」
「待って、それ語り始めると長いやつでしょ」
そんな会話を、飽きもせず繰り返していた。
とにかく、一緒にいて飽きなかった。
やがて、私たちは中学生になった。
クラスは離れてしまったけれど、それでも関係は変わらなかった。
昼休みになると、自然と廊下で合流して、どうでもいい話をしたり。
奈那が描いた新しい絵を見せてくれたり。
「今回ちょっと自信あるんだけど」
「毎回言ってない?」
「今回はほんとに」
「じゃあ期待しとくわ」
そんな会話をしながら笑って。
部活もお互い入っていなかったから、帰り道もいつも一緒だった。
「今日どっちの道で帰る?」
「遠回りしよ、なんか帰りたくないし」
「わかる」
理由なんてなかったけど、ただ、少しでも長く一緒にいたかった。




