第六章 研究の秘密
物語は佳境に入ります。史郎は言いたいどうなっているのか?
ミユキが驚いたのは他でもなかった。半身を起こした史郎の胸から腹にかけては、まるで刺青でもしたかのような薄暗い緑色が広がっていたのだった。
史郎の方も、ミユキの大きな悲鳴にビックリしたがすぐに平静を取り戻した。
「ビックリしたかい?驚かしてすまなかった。」
と、ミユキの顔色を見ながらゆっくりと話した。ミユキも少し落ち着きを取り戻し、
「どうして?どうしてそんな色をしているの?」
「実はね、これが僕の研究成果なんだ。前も話したように僕は東都大学の人体化学研究室にいるんだ。そこで、僕は炭酸同化作用の動物への応用を研究していたんだ。」
「炭酸同化作用って?」
「簡単に言えば光合成さ、君も知っているだろう。植物が日光と二酸化炭素から糖を作り出すことだよ。これが人間に適用できれば、食糧問題なんかすぐに解決できるようになるんだ。なにしろ5時間日光に当たるだけ普通の活動なら1日活動できるのだからね」
「原理は簡単だ。クロロフィルを主剤とする成分と、そこで生産される糖を分解して血中に供給する酵素を組み合わせて皮下に注射するだけでいいんだ。あとは、酵素を活性化する薬品を注射すれば光合成が始まる。不要になれば酵素を抑制する薬品を注射すればいつでも止められる。この二つの薬品を選択するだけで、必用な時だけ光合成が可能になるんだ。研究発表用にサンプルを持ってきたのがよかった。それを使ったんだ。」
史郎は地面に図を書きながら、まるで大学で講義をしているかのように説明した。そこまで説明されても、ミユキは、元々化学系に弱かったので、光合成と言う言葉しか理解できなかった。
史郎は突然声のトーンを下げて言った。
「ここまでの研究は成功だった。しかしこれには重大な問題があった。」
「なに?それは・・」
「色だよ。この色だよ。見ての通りのこの色だ。動物実験を繰り返してもこの色は消せなかった。まだまだ研究が足りないんだ。光合成をつかさどるクロロフィルはもともと色素なんだ。色があって当たり前なんだ。でも、こんな状態では人間に使うことはできない・・。」
ミユキはこの時テントの中で見たレポートの写真を思い出した。あの写真の中のブタの色と史郎の背中の色は全く同じ物だった。
「もう色は消せないの?」
ミユキは恐る恐る聞いてみた。
「できないわけじゃないけど・・・・」
史郎は言葉を濁した。しばらく沈黙が続いた後、ミユキは思い出したように聞いた。
「ということは、史郎さんはずっと食事をしていなかったの?いつも私の食事はあったけど、あなたが食べているのは数回しか見てないわ。」
「ああ、そういう事になるな。」
史郎は、少し照れたようにいった。
「どうして、何も言ってくれなかったの。あなただけが犠牲になることじゃないわ・・・」
ミユキは少し涙声になってきた。
「そんな事を言っても、食糧事情は決して楽観できるものではなかったんだ。君が不安にならないようにうそをついたけど・・救助が来る可能性も少ないし仕方の無かったことだよ。それのこれは僕の研究成果だから、自分で試すのも悪くはないさ。」
「そんな事を言っても、もう元に戻らないんでしょう。それなのに・・・」
ミユキはその場に泣き崩れた。
「そんな事とは知らずに私はあなたのことを疑っていたわ。だから今日もここまで来たの。ごめんなさい・・・」
「いいよ、そんな事は。気にしてない。それよりも食料のことだ。ここまで話したからすべて話すけど君の食料はもう少ししかない。そこで、飛行機の底の荷物室を調べてみたいんだが、多分そこには食料になるものぐらい積まれているだろう。でも、中に入ることができない。客室の床に穴でもあけられれば。」
「もうこれ以上危険なことはしないで、その光合成のクスリはもうないの?私も光合成できるようになれば・・」
史郎はミユキの言葉を遮った。
「サンプルはもう無いんだ。例え残っていても君に使うことはできない。この色を消すことはできないんだよ」
本当はサンプルは残っていた。でも史郎は隠しておいた方がよいと思ったためミユキにうそをついた。
気がつくとあたりはかなり暗くなり、既に陽は山影に隠れ始めていた。
「今日はもう帰ろう。急がないと真っ暗になり帰れなくなる。」
史郎は泣き崩れているミユキを起こし帰路についた。
帰り道にミユキは、
(私はこの人に助けてもらっている。この人のためなら何でもしなくてはいけない)と思った。
史郎の研究が明らかになりました。
次回は最終章です。ミユキはどう生還するのか?




