第三章 史郎とミユキ
史郎とミユキは最悪の出会いをしましたが、どうなっていくのでしょうか?
女性の扱いを知らない史郎にとってミユキは困った相手になりそうです。
史郎にしてみればあっという間の出来事だった。彼は学問一筋の人間であり、女性の体に対し、男性的興味は欠けらも持ちあわせていなかったし、過去に女性と親しくした経験も無いため、若い女の子の気持ちを汲み取ってやれるだけの裁量も持っていなかった。彼は単に親切心から濡れた服を替えてやっただけのことであった。だから、彼女のそういった行動を目の当たりにしてもただポカンとしているだけで何がなんだかさっぱり見当が付かないでいた。
しばらくして、史郎は傍らにおいてあった食事の用意を持ってミユキのいるテントへ歩いていった。
「おなかが空いているだろう?食事の用意ができている。食べなさい。」
だが、テントの中から返事はなかった。
「ところで、君の名前をまだ聞いていなかったね。」
史郎は、何も無かったかのようにミユキに質問をあびせた。
ミユキは、ただ恥ずかしがっているだけだった。もちろん史郎が親切で服を替えてくれたことぐらいは解っていた。そのまま濡れた服を着ていたらどうなっていたかは想像できた。しかし、見ず知らずの人に、それも若い男性に体を見られたことがショックだった。しかも、史郎は別に何事も無かったような態度で、ミユキの気持ちなんかお構いなしにテントにやってきて話しかけているではないか。ミユキは別に史郎が許せなかったわけではない。恨んでもいない。そういうことではなかった。ただ、出ていって顔を会わすことができなかっただけだった。無意識のうちに彼の頬をたたいてしまったことがなお一層出づらくさせていたのだった。ミユキは後悔していたが、どうにかなるものではなかった。彼の質問に対してもテントの中から小さな声で、
「・・・ミユキ・・・中園ミユキ・・・」
と答えるだけが精一杯だった。
ミユキは最初のうちは史郎の持ってきた食事などとる気にはならなかったが、最後に食事をしてから丸二日たっていることから、やはり最後には空腹に耐え切れず手を付けることにした。それは、飛行機から持ってきたであろうと思われるものであった。食事が済むと気持ちも落ち着いたのか頭の中からさっきの史郎の出来事は消え去った。それと同時に急に悲しくなり涙が出てきた。これからどうなるのか。生きて再び日本に帰れるのか。そう考えると後から後から涙があふれてきた。そうしているうちにミユキは知らず知らずまた眠りに就いた。
翌朝、ミユキは目を覚ますとテントから出た。昨日と同じように史郎は焚火の傍に座っていた。
「おはよう。」
史郎は何も無かったように笑って挨拶をした。
「おはよう。」
ミユキも何も無かったように振る舞った。そうしなければしょうがないと思ったからだ。
「朝食ができているよ。」
差し出された食事は昨日のものとまったく同じだった。
「あなたは?」
「僕はもうさっき食べてしまったから」と史郎は答えただけだった。ミユキが食事をしている間、史郎はいろいろとミユキに話した。史郎が言うには、ここは中央アジアからチベットあたりの高山地帯だろうと想像できる。地形的に見ても救助隊がすぐに駆けつけてくるとは思えないからしばらくここで待つしかない。幸いにも食料は飛行機の中にかなり残っているから、二人が食べるだけならかなり耐えられそうだということだった。
「食事は心配ないから。後は何もしないで待っていることだね。」
ミユキは史郎のそういった楽天的な態度が少し気に入らなかったが、また喧嘩するのもいけないと思い黙って聞いていた。
次章の展開にご期待ください。




