第二章 墜落
声をかけたのは史郎という名の男です。これから二人の物語が始まります。
振り返ると、小さな焚火の傍らに三十くらいの男が座っている。ミユキは、そこへ走ってゆくなり矢を射るような質問を彼に浴びせた。
「あなたはいったい誰なの?ここは何処なの?どうして私はここにいるの?何が起こったの?どうしてこんな服を着ているの?飛行機はどうしたの?・・・・」
彼は少し驚いた様子ではあったが、落ち着いて順に彼女の質問に答えた。
「僕は三村史郎。東都大学で生体学を研究している。国際会議がミラノであり、研究発表をするためにあの飛行機に乗っていたのだが・・・・・」
「というとあれは夢じゃないの?」
「ああ、ついておいで。」
かれは、彼女を連れて先ほどの岩壁を登っていった。その岩壁の先の光景を見て、ミユキは心臓が止まる思いになった。そこはまさに地獄ヶ原だった。
岩壁の向うは広い雪原で、所々に岩があったり草が生えたりして斑になっていた。その向うには大きな岩山があり、岩山のふもとにミユキの乗っていた旅客機が前部を岩山にぶつけて大破した姿で横たわっていた。主翼の一つはかなり離れたところに突き刺さっており、ほぼ完全な形で残っている垂直尾翼の赤いツルのマークがやけに生々しく眼に焼き付いてきた。飛行機の手前には、一筋のえぐれた跡が残っており、ミユキの混乱した頭の中でさえ胴体着陸を試みた結果、岩山に激突したことが想像できた。それは悲惨な光景だった。
「助かったのは私たちだけなの?他の人たちはどうだったの?」
ミユキはそれだけ聞くのが精一杯だった。聞くまでもなく答えは想像できていた。でも、聞かずにはいられなかった。
「今生きているのは二人だけだ。四人生きていたけれど、二人は助からなかった。二人とも昨日死んだよ。」
と言って、少し離れたところにある小さな塚のようなものを指した。
「なぜ、私たちだけが助かったの?それも無傷で・・・」
「僕は君の前の座席に座っていた。ちょうど墜落のショックで、機体に裂け目ができ、そこから何人かが最初に投げ出された。その中に僕たちがいたんだ。僕と君だけが、運良く柔らかい雪の上に落ちたから無事だったんだろうね。」
「このテントは?この服は?」
「残っている荷物を探しに行ったら登山隊の荷物が見つかって、そこから拝借してきたんだ。君の服は同じように荷物の中から使えそうなものを選んできたんだ。何しろ雪の中だったからすっかり濡れていたからね。適当に選んで着せ替えたけど、ぴったりだったね。」
「着せ替えたって、あなたが?」
「ああ、そうだよ。」
と、史郎は無表情に答えた。
ビシッ!!
彼女の手が彼の頬を打った。彼女は手で顔を覆ったままテントに走り込んだ。
次章の展開をお楽しみください。




