第94話 次はわたしたちがしごかれる番ですわ……。
3時間目、ジュスティーヌたちは第一武術訓練所に向かっていた。向こうから、死んだ目で、憔悴しきった一行が、まるでゾンビのように列をなしてズラズラとこちらに戻ってくる。
レッツゴーエンジョイなソフィーでさえも、目の焦点があっておらず、真顔で無口だった。
セドリックが涙目で、こちらを見ている気がする。
「姫様、姫様の言う通り、あの方は真の大魔王でした!」
セドリックは今まで見たことのないような笑顔でそう告げると、再び目に涙をにじませて去っていった。
「お、俺らこれからなんだから、あんまり怯えさせないでほしいよなぁ……」
フルード公爵令息が露骨に怖気づいていた。
「だ、大丈夫ですよ! 愛する姫様がいる前で、そんな鬼にはならないでしょう!」
「いや、むしろ、逆じゃないか? 愛する姫様にいい所見せようともっと燃えるかもしれない……」
クラスメイト達は、これから訪れるであろう地獄に備え、お互いに励ましあっていた。
第一武術訓練所には、いつものジョンソン先生と助手のオズワルド先生と、爽やかすぎるイケメンのアルフォンスが待っていた。アルフォンスはジュスティーヌの姿を見ると、にこっと笑い手をあげて合図をした。ゾンビの大群を生みだした男とは思えないような笑顔で。
「さっき2年生とすれ違ったけど、一体どんな訓練をしたの?」
「普通の訓練だよ」
この人の普通とか、ほどほどとか、全く信用できないわ! 基準が大魔王すぎるのよ!
今日の訓練は実戦形式で行うと告げられる。先ほど、2年生との対戦ではアルフォンスに傷を一つつけることがクラスの勝利条件とされたが、今度は、誰か一人でもアルフォンスと2合以上打ち合えたら勝利だという。
「えっ、それならばわたしたちが勝てそうじゃない?」
ジュスティーヌは一度アルフォンスと戦ったことがある。といってもあの時の彼は全然本気ではなかったのだろうけれども。だとしても、剣を2回ちょんちょんとすればクリアなのだ。これならば確かにいける気がする。
「じゃあ、ジュティ。俺が勝ったら君は俺にキスすること、いいね」
「はあー!? じゃあ、わたしが勝ったら、あなたはわたしとこの先一週間キス禁止ね」
一週間だけなんだ、禁止するの……。案外、姫様もキスされたいってことじゃないか……。というクラスメイトたちの心の声が聞こえてくる。
「もちろん、その条件で構わないよ。万が一にも俺が負けることはないからね」
「ふっ、そんなことを言ってもいいのかしら? わたしには対アルフォンス戦に備えたスペシャルな必殺技があるのよ!」
「へぇ、必殺技か」
アルフォンスは顎に手を当てて、ジュスティーヌの必殺技がどんなものなのか考えているようなそぶりをみせた。そして、ジュスティーヌに近づくと、周りに聞こえないように耳打ちした。
「それってピンクのパンチラキックのことかい?」
「な、な、なっ!」
なぜそれを! と言いたいのだが、次の言葉が出てこない。
「でも、今はそれを使っちゃだめだよ。ほかのやつにも見えてしまうからね」
アルフォンスは、必殺技を見抜かれてしまい動揺しまくっているジュスティーヌに、とろけてしまいそうな甘々な笑顔を向けた。
最後の砦となる必殺技が封印されてしまった。それは、ジュスティーヌたち1年ルビークラスの敗北が決まった瞬間でもあった。
アルフォンスの強さは圧倒的だった。剣技だけでもすごいのだが、彼は魔法剣の使い手なのだ。風の力をまとわせた彼の剣と自分の剣を合わせようとしても、刃が触れ合う前に凄まじい剣圧と風圧とで、なすすべなく吹き飛ばされてしまうのだ。
絶対に勝つと宣言したからだろうか。その辺はジュスティーヌに対してもまるで容赦がなく、あっという間に場外に飛ばされてしまった。
次のエメラルドクラスもサファイヤクラスも、全く歯が立たず、コテンパンにやられてしまった。
それを実習の時間内に5回、回した。
みんなヘトヘトのドロドロだったが、アルフォンスだけは何事もなかったかのように、さわやかな笑顔を最後まで絶やさなかった。
「どうしよう、ジュティ。君から5回もキスしてもらえるなんて。嬉しすぎておかしくなりそうだ」
「はあー!? なんで5回も!」
「だって、君は5回負けただろ?」
「うっ……この腹黒! 鬼! バケモノ! 悪魔! 大魔王! 大大大魔王!」
「夜まで待ちきれないよ」
アルフォンスはジュスティーヌを抱き寄せてこめかみの辺りに口づけをした。
「もう! ぜんぜん、ほどほどじゃないじゃない! 嘘つきー!」
こうして、アルフォンス最強伝説は真実だった事が無事に証明された。
そして、彼にけちょんけちょんにされることで、学園生は着実にパワーアップしていくのだった。
次は魔法の特訓の番である。魔法の先生はアルフォンスのような大魔王でないことを祈る学園生たちであった。




