第92話 腹黒皇子のご友人の魔術師登場ですわ。
「ジュティ、こっちも大変だったみたいだね」
魔物討伐の遠征から戻ってきたアルフォンスが、学園の卒業生にして、現在、魔術師ギルドの副ギルド長を務めているユリシーズと共に学園を訪問した帰り、ジュスティーヌを見かけ、声をかけてきたのだ。
「大変だったなんてもんじゃなかったんだから! もう、一体どこに行ってたの!」
そう言ってアルフォンスにしがみつきたかった。そして、ぎゅっと抱きしめてもらいたかった。あれから3日経ち、体力はほぼ回復したものの、なんとなくまだ目に見えない疲労感が残っているようだった。
だけど、ここは学園でほかの生徒の目もある。アルフォンスの隣にも見知らぬ魔法使い風の男もいる。あのソフィーがフレデリクにしていたように、無条件に甘えるわけにはいかない。
だって、わたしはエリート悪役令嬢なんだから!
「余裕よ、余裕! この偉大なる悪の大魔女ジュスティーヌ様をみて、魔物たちは恐れおののいていたわ」
他人の目を意識して、思わず強気な発言をしてしまう。
「へえ」
彼女の言葉に反応したのは、意外にも隣にいた男だった。小奇麗なローブを身にまとった長身の男は、夜の帳を思わせる腰まで伸びた濃紺の髪を風になびかせていた。彼の金色に輝くどこか危うげな瞳は、得体のしれない光を湛えていた。それでいて柔和な顔つきで、優男という言葉がよく似合いそうな風貌の男は、同族ともいえる、「(偉大なる悪の大)魔女」を名乗ったジュスティーヌに興味を持ったようだった。
この男性、そういえば数年前のイケメン名鑑で目にしたことがある。そう、アルフォンスの次に登場していた男性だ。
「よかったジュティ、無事で」
そう言うとアルフォンスはジュスティーヌをぎゅっと抱きしめ、陽の光を受けて煌めく金色の髪を愛しそうに撫でた。
アルフォンスの腕の中は安心する。髪を撫でる大きな手も、まるで自分を守ってくれているみたいだ。悪役令嬢としては、「放して!」と突き放したいところだが、今はもう少し彼の体温を感じていたいと思ってしまった。
「見せつけてくれますねぇ。愛する彼女と再会した歓びに浸るのもいいですが、大親友を放置とは酷いです。早く紹介してください」
そう言われ、アルフォンスはジュスティーヌを抱き寄せたまま隣にいた男を紹介した。
「ジュティ、こいつはここで俺の同期だった男で、今は魔術師ギルドの副ギルド長のユリシーズだ。今回、学園のダンジョンの魔結界が破られて、ダンジョン内からモンスターが大量発生した事態を受けて、収拾と調査に来たんだ」
「初めまして、ユリシーズと申します。偉大なる悪の大魔女さんにお目にかかれて光栄です」
紹介されたユリシーズは胸に右手を当てて、少し腰を折ると随分と丁寧に挨拶をした。
「こちらこそ、お初にお目にかかりますわ。ユリシーズ様」
相手が握手を求めているようだったので、ジュスティーヌは抱きしめられたまま手だけ差し出そうとしたが、それもアルフォンスに制される。
「ダメだ、ジュティ。こいつは女ったらしだから、気を付けて」
それをどエロ皇子のあなたが言いますか?
「大親友に対してひどい言い様ですねぇ」
「本当のことだろ?」
「ま、否定はしないでおきます。だからってちょっと囲いすぎでは? そのかわいい魔女ちゃんを」
「ユリシーズ対策だから仕方がない」
とかなんとか言っちゃって、今も昔もあなたのほうがよほどエッチなことしていますケド?
ジュスティーヌはうげーと言わんばかりの顔をした。アルフォンスに抱きしめられるのは別に全然嫌ではなかったのだけど。
ジュスティーヌはずっとアルフォンスに抱きしめられたままだった。近くにいたPJL40のメンバーたちは、推しカプが仲睦まじくしている姿を見られて、幸せいっぱいだった。
「でも、そろそろ離してほしいんだけど……」
悪役令嬢だから、一応そう言ってみる。まぁ、しばらくこのままでも構わないのだけれども。
「ダメ、今日はずっとこうしている。しばらく会えなかったんだ。まだ全然ジュティが足りない」
アルフォンスはジュスティーヌの額に口づけをした。外野は、「次は唇にお願いします!」と願った。
「ところで、ジュティ、この後時間はある? 久しぶりに食事にでも行かないかい? いい土産話もあるんだ。まぁ、こいつもついてきてしまうけど」
PDFメンバーで集まって街マップを作製していたところだが、PJL40の会員たちは「ここは、私たちに任せて、ぜひともそちらを優先してください!」というので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
3人は、貴族御用達の高級レストラン「シェ・グルニエ」に来ていた。このレストランの2階は、すべて防音のしっかりした個室になっていて、密談をするにはもってこいなのだ。もちろん、料理も絶品ではある。
アルフォンスとユリシーズの話によると、ここのところ、国や地域を問わずモンスターの様子がおかしいとのことだった。大型で強力な魔獣が発生する割合も、ここ1年ほどでぐっと上昇しているし、今回のようなスタンピードも各地で頻発しているとのこと。
しかも、それが完全な自然現象ではなく、人為的に操作された結果である可能性が高いとのことだった。
学園も同様、誰かが封印を解除し、ダンジョンの中に魔物を呼び込み、それを学園に向けて放ったのだ。
だが、誰が何のためにそのようなことを行ったのかは、まだ全く見当がついていないらしい。
「ソフィー先輩が、自分が狙われたみたいなことを言っていたけれども、聖女候補が狙われたという可能性は?」
「確かにその可能性もゼロではないが、かなり低いだろうな。あの通り、彼女はああいう場ではほとんど表に出てこないだろ? 彼女一人を始末する目的で今回のような騒ぎを起こすのは、効率の良いやり方ではないな」
「そうですね。いくら聖女候補とはいっても、ある日突然、大魔法が使えるようになるわけではないですからね。現時点ではあくまで素質があるというだけの話ですから。あとは本人次第なんですよ」
ソフィーとも面識のある二人の見解は、ソフィーには厳しいものだった。




