第91話 モンスターを殲滅せよ、ですわ!
平和防衛隊ことPDFとPJLの隊服とエンブレムが完成した。彼らの世のため人のために平和を希求する活動と、その首領でもあり、自らの推しである姫様を世に知らしめるのに、この学園祭は絶好の機会だった。
ということで、PDFは、学園祭の出し物として、子どもたちと本気の鬼ごっこを計画していた。また、それに間に合わせるように、PDFの指令室チームは、街マップの作製を急ピッチで進めていた。この街マップは、編集・印刷のノウハウを有しているジャーナリズムクラブと共同作成することになった。放課後は、街を巡回がてら、街マップ作成のための情報収集をすることがPDFの日課となっていた。
学園の授業では、各々剣術や魔術の腕を磨く。セドリックのパーティと対戦するという目標があったので、ジュスティーヌのクラスメイトはパーティメンバーに選出してもらうべく、いつも以上に気合を入れて鍛錬に取り組んでいた。
学園では、そんな平和な日々が続いていた。
ちょっとした異変が起きたのは、週末のことだった。
いつものように、しつこくデートに誘いに来るアルフォンスが来ないと思ったら、彼の侍従が伝言を伝えに来た。遠国で、モンスターの大群によるスタンピードが発生し、アルフォンスはその討伐に赴いているため、しばらくは帰国できないとのことだった。
学園祭の準備をしないといけないから、忙しいし、ちょうどよかったわ。別にぜーんぜん淋しくなんてないもん。まぁ、強いて言うならば、あの男を利用して、ツンデレの練習をしようと思っていただけだし!
学園祭のクラスの催し物であるコスプレカフェで、ジュスティーヌはツンデレなメイドさんになることになっている。”ツンデレ”とは何かとクラスメイトに聞いたところ、「アルフォンス殿下と一緒にいるときの姫様の状態ですよ」と返された。つまりは、意地悪皇子を誘惑する悪女ってことかしら? と思うものの、本人がいないといまいち調子がでないのである。
ジュスティーヌはベッドに横たわると、まだアルフォンスに渡せていないドラゴンの刺繍入りハンカチをぎゅっと握りしめた。
◇ ◇ ◇
週明け、いつものように学園生たちは授業を受けていた。そんな折、モンスターの襲撃を知らせる鐘が鳴り響く。平和を象徴する街であるパックスウルブスの、しかも学園にモンスターが押し寄せるなど、いまだかつてないことだった。
戦闘能力がない生徒たちは、強力な結界が張られている講堂へと避難した。戦う能力とその気、両方がある生徒は、教員や街の冒険者ギルドから駆けつけてきた冒険者たちとモンスター討伐に当たった。
もちろん、ジュスティーヌはレナードやクラスメイト、PDFの戦闘部員たちと協力しあいながら、モンスター討伐を行った。
「プロテクション! アタックアップ! リジェネラティブ!」
持久戦になることを見越して、ジュスティーヌは戦闘員たちにバフをかけることを優先した。
「受けてみよ! ゴールデンファイヤーラブアタック! くらえ! ライジングサンダーエンジェルクラッシュ!」
特にレナードは、ジュスティーヌから贈られたオリジナル武器・名付けて「愛の結晶ミラクルボンバーネイル」の初陣だったこともあり、獅子奮迅の活躍だった。ちなみに、彼の武器には属性魔法付与がなされているわけではないので、彼が口にしているようなファイヤーやサンダーといった効果は特にない。技名は、単に気持ちの問題である。
モンスターは、学園にある武術訓練所の奥にある裏山の方から突如として現れた。
裏山には、今は学園生の演習施設として使われている小規模なダンジョンがある。ダンジョンは、演習で使われないとき以外は魔結界によって封印されていて、外から入ることも、内から出ることもできなくなっているのだが、どうやらモンスターはそのダンジョンから出てきたようだった。
不幸中の幸いというべきか、1体1体のモンスターは思ったほど強くはない。だが、量が凄まじかったのだ。ここまで長時間に渡って、戦闘をし続けることなど稀である。すべて倒し終わるころには、生徒も教師も冒険者たちも、皆ヘトヘトになっていた。ジュスティーヌでさえも、魔力切れになる寸前だった。
疲れ果てたジュスティーヌは、お姫様であることも、悪役令嬢であることも忘れて、今すぐにその場でごろんと横になりたいと思った。こんなときにアルフォンスがいたら、「疲れただろ」とサッと抱きかかえてベッドまで連れて行ってくれるのに。そんなことを無意識のうちに考えている自分がいた。
疲労困憊とは、まさにこのことね。あの腹黒エロ皇子に抱っこされたくなるなんて、どうかしてるわ、わたし。
こんな学園の、そして街全体の危機ともいえる事態に、戦闘技術科に籍を置きながらも、のほほんと講堂にいたのが、生徒会長のフレデリクとソフィーと彼女の公式ファンクラブ会員・幹部たちだった。
フレデリクの言い分はこうだった。
「僕が講堂にいることで、戦闘要員ではない生徒たちの動揺を落ち着かせることができる。生徒会からはエルドリックたちが戦闘に参加しているじゃないか。それに、僕には将来の聖女、いわば世界の希望の光となるソフィーを守る義務があるんだ。こんなところで彼女を傷つけるわけにはいかない」
ソフィーのファンクラブ会員たちも似たような弁明を行った。
「仮に逃げてきた魔物が講堂に侵入でもしたら大変だ。その時は俺らが排除しようと思って、ここを守っていたんだ。決して魔物に怖気づいて外に出なかったわけではない」
当のソフィーはというと、魔物の襲撃の間、ずっとフレデリクに抱き着いて、「こわいー。たすけてー。きっと魔物はあたしを退治しにきたの、あたしが聖女になったら困るから」と甘えていただけだった。彼女は、その後、特に言い訳さえもしなかった。
「みんなー、あたしを守ってくれてありがとー! あたしからのラブラブパワーで、みんな早く元気にな~れだよぉ」
その一言で、ソフィーラブでない者たちは、わずかに残った最後の力も抜けていくようだった。




