第88話 お泊り会といったら、恋バナですわ!
必要なものを採集し終わり、パラヴェント大森林を出たジュスティーヌたち一行。それはいいのだが、数メートル後をついてくるレナードをなんとかしないといけない。
「俺を食わないでくれーー! やめろーー! ぎゃははははっ。うはははははっ!」
臭い上に転げまわっては大爆笑し続けているので、うるさいのだ。
「そこの集落に解毒剤を作れそうな素材がないか聞いてみるか」
ありそうでないのが不幸のグミや大爆笑ダケの解毒剤である。地元の人間はまずそれを口にしないから、需要がないのだ。手分けしていくつかの店に当たってみたが、これといって効果がありそうなものは何も見つからず、とにかく時間が経って効果が切れるのを待つしかないということになった。
最初に効果が切れたのは、同行していた皆にとって一番どうでもいい、幻覚作用だったようだ。レナードはただ大爆笑だけするようになった。
「うはははははっ、ぎゃははははっ、ひひひひひーー!」
「臭いのとうるさいのとどっちが嫌かな?」
「やっぱり臭い方が嫌でしょ?」
「ですわね。臭いのは耐えられませんわ」
「ぎゃははははっ、うひょひょひょーー! ひゃははははー!」
だいたいこの手の発言はフラグとなる。次に効果が切れたのが大爆笑ダケだった。レナードは急に大爆笑をやめるとパタンと倒れこんだ。
「あっ、止まったわ。だ、誰かちょっと様子を見てきてよ」
「では、僕が……臭くても兄なので…………臭っ! ダメだ、まだこれ以上は到底近づけない! 恐ろしいなあ……不幸のグミは……」
「はぁ、どうしましょう、これ……」
「ジュティ、とりあえずリジェネラティブをかけてやってくれないかな。臭いはともかく、笑いすぎて体力が尽きたのだろうから」
「わかったわ」
こうしてしばらくその場にとどまり、レナードの体力が回復するのを待った。
そうしている間に、すっかり日が暮れてしまった。それほど危険な道ではないが、さすがに女性3人をこの暗闇の中、街まで歩かせるわけにはいかない。
ということで、一行は大森林近くの集落まで引き返し、そこに宿をとることにした。この頃には、レナードの臭いもだいぶ落ち着いてきた。
「これは、憧れのお泊り会というやつですわね!」
わーいわーいとクルクル回りながらはしゃぐジュスティーヌ。この前アルフォンスの屋敷に泊まりはしたが、友達同士で夜を過ごすのは初めてである。
「ジュティは俺と一緒に寝ようか?」
「はぁ?」
「さすがに冗談だよ」
「……アルのいじわる」
バンザイの体制のまま一瞬固まったジュスティーヌだったが、からかわれていたと分かり、アルフォンスを睨んだ。
「お客様たち、夕食がまだでしたら、食堂までどうぞ。そちらの方だけは他のお客様もいるので、別室でお願いしてもよろしいでしょうかねぇ」
宿の主人はタオルで口元を押さえながら、申し訳なさそうにレナードを別の部屋に案内した。
大森林では誰ともすれ違わなかったが、食堂には何組か冒険者らしきグループがいて食事をしていた。
「ア、アルフォンス殿下!」
アルフォンスの姿に気が付いた数名はわざわざ立ち上がって挨拶をしてきいた。
「皆、挨拶は不要だ。食事中だろ? 気楽にしてくれ」
冒険者たちはペコペコしながら腰をかけた。
この人ってば、やっぱり冒険者としては本当に有名人なのね。強くて、いろいろ知っているし。でも、変態で意地悪だけど。
「ジュティがかわいいから、ちょっと意地悪したくなっただけだよ」
こうして、心読んでくるし。
「はあ、今日は思った以上に疲れたわ~」
「ですね。レナード殿下、凄かったですね……」
食事を終えて、女同士でおしゃべりしながら部屋に戻る。この後は、パジャマパーティで枕投げをして、恋バナをするのだっ。そんなことを思っていると、アルフォンスが後ろから話しかけてくる。
「ジュティ、お休みのキスをしようか?」
「はぁ? って、さすがに冗談ですわよね。もうだまされませんからねぇ」
「いや。本気だよ」
アルフォンスはさっとジュスティーヌを抱き寄せ、軽く口づけをした。
「おやすみ、ジュティ」
アルフォンス以外の4人は完全に固まっていた。
至近距離で皇子様のお休みキスをみちゃった! キャーと思う、ビビアンとアカネ。またしても見せつけられてしまったカイト。安定の放心状態のジュスティーヌ。
「皆もおやすみ。カイト殿下はこっちだ」
カイトは複雑だった。男子3人部屋だが、兄はあの状態だ。ということは、一応、カイトにとって恋敵であるアルフォンスと一晩同じ空間に、ほぼ二人きりでいないといけないのだ。気まずい。とにかく、ものすごく気まずかった。
部屋に入ると、アルフォンスは剣を外し、上着とブーツを脱ぎ、ベッドにごろっと横たわった。
「……殿下は、本当にジュスティーヌ姫がお好きなのですね」
ただでさえ気まずいのに、さらに気まずさが増す。なんて話題を振ってしまったんだと口にした後で後悔する。
「そうだね。君たちには悪いが、それでも誰にも譲る気はないよ」
君たちって、まさか気がついていたのか、アルフォンス殿下は。一体、いつからだろう。
「疲れたので、僕も、もう休みますね」
カイトは本当に、心底疲れたと感じていた。
一方、女子たちの部屋も恋バナで盛り上がっていた。
「わたしの話はいいから、二人とも白状なさい! まずはビビアン」
「えーっ! えっと、あたしは、ちょっとセドリック先輩がかっこいいなぁって、キャーー、言っちゃった」
「ええー!? まさかのセディ!? あの普通を詰め込んだような男のどこがいいの?」
「そりゃー、姫様のアルフォンス殿下にはいろいろ及ばないと思いますケド、お貴族様なのにぜーんぜん気取ってなくて、普通な感じのところがちょーかわいいですっ」
「次はアカネよ。どーなの、どーなの!」
「私は、強いて言うならば、うーたん先輩ですかね」
「えーっ、うそー! ちょっと意外!」
「アカネっち、おぬし、うーたん先輩のどこに惚れたん?」
「惚れたっていうか、なんて言うか、サムライっぽいところが、お、男らしくて、ちょっといいなぁと」
「なぬ、アカネっちはああいうごっつい男が好きなんかー! とりま、好みが全然被ってなくてよかったぁ」
「わたし、二人のこと全力で応援するわ!」
「うれしいです! 姫様ー! でも、セドリック先輩とあたしじゃ身分が……」
「愛があれば、身分なんて関係ないわ!」
女子たちの恋バナは続き、こうして夜が更けていった。




