第86話 ひ、人前でなんてことをするのですの!
プ、プロポーズ、やっぱり、プロポーズだったんだ……あれ。ふぅ、あっぶなー。っていうか、その後なんて言っていた? うん、とりあえず、鬼ごっこの歓声がうるさくて聞こえなかったことにしよう。
次のエリアは城の地下牢。牢獄ということで、子どもたちはケイドロを楽しんでいた。もはや、ジュスティーヌはここに何をしに来ているのかよくわからなくなっていた。壮大なる鬼ごっこで子どもたちを楽しませるために来たのか、アルフォンスとイチャイチャするために来たのか。
いつの間にか鬼ごっこは佳境に入り、子どもたちは玉座につづくカギを手に入れていた。
「小さな勇者たちよ、今回はこの私の負けだ。魔女姫は返そう! だが、怪盗である私の心は魔女姫に奪われてしまったようだ。いつか必ず、魔女姫を我がものとして見せよう!」
アルフォンスは怪盗プリンスとしてこの鬼ごっこを締めくくる台詞を口にすると、ジュスティーヌの両手首に巻き付けていた真っ赤なリボンをほどいた。
ここは子どもたちを立てて、「みんなー、助けてくれて感謝ですわー」ぐらい言わないとと思っていたら、突然、アルフォンスに腰を抱き寄せられ、顎クイされたかと思うと、唇を塞がれた。
「#+$*K?S!&%!!」
「キャーーーー!!」
イケメン皇子様の生キスに、失神しそうになった女性たちが多数。
「では、諸君、さらばだ!」
そう言い残すとアルフォンスは転移魔法を使ってどこかに消えた。
子どもたちが手にしたカギは、玉座の間におかれていた大きな宝箱のカギだった。
「うぉ、宝箱じゃん! 開けようぜ!」
「やっりぃ! お菓子がいっぱいあるぜ、みんなこいよー!」
「あ、マジョリーヌが石像になってる!」
「怪盗プリンスにちゅーされて固まった!」
「ちゅー! ちゅー!」
「マジョリーヌ、スカートめくりはされなくてよかったな! 俺たちに感謝しろよ!」
宝箱をあけると中からは大量のお菓子が出てきて、子どもたちはそれを嬉しそうに持ち帰った。
マジョリーヌことジュスティーヌは、一人玉座の間に立ち尽くしていた。
「姫様、そろそろ動いてください。下に降りますよ」
「うん」
セドリックに声をかけられても固まったまま「うん」と答えるだけのジュスティーヌ。まだ地平の彼方に意識が飛んだままのジュスティーヌを見て、セドリックは意地悪な質問を連発しておいた。
「殿下とのキスは楽しかったですか?」
「うん」
「殿下にスカートもめくってもらいたかったですか?」
「うん」
「このまま、殿下と婚約してもいいんじゃないですかね?」
「うん」
「セドリックは世界一イイ男ですよね?」
「うん」
「では、海坊主の衣装は今日限りで引退にしましょう!」
「えっ? それはダメでしょう!」
なぜ、そこで我に返るのですか、姫様!
ようやく鬼ごっこも幕を閉じた。慰労会を兼ねて、参加した生徒とアルフォンスの手伝いに来たスタッフたちは、公園内にあるバーベキュー場に集合していた。そして、ジュスティーヌが仕留めた大爪兎の肉や、アルフォンスがいつの間にか狩ってきた黒毛バッファローの肉を存分に堪能した。
「皆、協力ありがとう。時間がない中での準備は大変だったと思うが、皆も少しは楽しんでもらえたかな?」
アルフォンスの挨拶で、その場にいたものは「おおー!」と歓声をあげた。皆、それぞれの役割を果たしながらも、目の前のショーを存分に楽しんだからだ。
この中で唯一複雑な思いを抱いているのは、カイトだろう。アルフォンスとジュスティーヌがたわむれている様をこれでもかというぐらい見せつけられたのだから。今、自分の笑顔が引きつっていないか、上手に笑えているのか少し不安だった。だが、そんなことを気にするものは残念ながら誰もいなかった。
アルフォンスはいまだに顔を真っ赤にしているジュスティーヌを見つめた。彼の視線に気が付いたジュスティーヌはふいっと横を向くと頬を膨らませた。
「わ、わたしは座っていただけでなーんにもできなくて、全然楽しくなかったんだけどぉ」
「それは申し訳なかったね。じゃあ、お詫びに明日のデートはジュティの行きたいところに行って、やりたいことをしよう」
「わたしのやりたいこと? ま、まあ、それならば仕方がないわね」
そもそも、明日デートの約束なんてしていただろうかと言った後で気が付く。またしても、この腹黒皇子にしてやられた感じだ。と内心で思いつつも、「また、馬に乗って出かけたいな」とか「今度は違う魔物を狩りに行きたいな」などと考えてしまっているジュスティーヌだった。
気を失っていたレナードも目を覚まし、「俺は肉よりも魚の方が好きだ!」とわめいていたが、その肉がジュスティーヌが獲ったものだと分かると、「ほとばしる愛のスパイスが効いていて、今まで食べたものの中で一番うまい! 全部俺様のものだ!」と言って独り占めしようとしていた。
ジュスティーヌは、人知れず「共食いだわ……」と思いながら、その様子を生暖かい目で見守った。
こうして賑やかな宴はいつまでも続くのだった。




