第82話 あなたの呼び名は……? これですわ!
無事に前菜を食べ終え、スープが運ばれてくる。
「で、ジュティ、次は君の番だね」
「ええー、またー?……さっき、食べさせてあげたじゃない」
ジュスティーヌは照れながらも口をとがらせて抗議する。
「さっきは食べさせてもらうのをおねだりしたわけじゃなかったんだけど」
「えっ、そうなの!?」
くーー!! なに、なに、それじゃ、あーん損じゃない! 違うなら違うってもっと早く言ってよ!
「君のパーティの今後についてね、一つ提案があるんだけど」
「え、何?」
「次はセドリックに頼らずにパーティを組んでみたらどうだろう?」
えっ、俺、クビ……。さっき姫様が俺の隣に座ったから、引き離したくなるぐらい恨んでいるってことですか……。
「君には、仲間がたくさんできたんだろ? 次は他のクラスメイトとパーティを組んでみてよ」
その場にいたクラスメイトたちは歓喜に沸き上がった。「アルフォンス殿下、神!!」と。
「それで、皇子の剣同盟と再戦すると?」
「いや、次はセドリックのパーティと対戦だ」
「えっ!? 俺のパーティですか!?」
「君たちはお互い旧知の間柄だろ? それで対戦したら面白そうじゃないか。ただし、双方、パーティにAランク以上のメンバーを入れるのは禁止だ。実力者に頼ってばかりだと勉強にならないからね」
「ちょっと待て! お前、ちゃっかりしっかり、俺とマイスイートハートとの間を引き裂こうとしているな!」
空になりかけたカイトのスープ皿と手を付けていない自分のスープ皿を巧みにすり替えながら必死にスープをすすっていたレナードが反論する。
「君もトップランカーとして、少しは後輩のことを考えろ。ジュティ、君が次にどんなパーティを組むのか、どんな戦術を考えるのか、楽しみにしているよ」
「ふっ、この世界が平伏す天才軍略家ジュスティーヌ様にとっては、誰が相手だろうと朝飯前だわ! 見ていなさい、アル、セディ、わたしがあなたたちに引導を渡してあげるわ!」
「望むところです、姫様。例え姫様だとしてもこちらも容赦はしませんからね」
そうだ。姫様に勝って、あの海坊主の衣装ともおさらばするのだ! レナード殿下がいないのであれば、この戦いはさすがに俺の方が有利だろう!
「あの、アルフォンス殿下。僕にも何か一言いただけないでしょうか?」
ずっと大人しくしていたカイトが口を開いた。
「カイト殿下、君は少しそこのどうしようもない兄上の世話をしすぎだ。兄弟とはいえ、別人格なのだから、君はもう少し自分のことを考えて、自分のために行動してもいいんじゃないか。とはいえ、どうしようもない人間の相手をすることに長けているのも事実だ。どうだろう、しばらくジュティと二人で君たちのパーティの在り方を模索してみては? ジュティは他人だからね。君が責任を負おうと思う必要がない分、少しは気楽に接することができるだろう?」
カイトは少し安心していた。自分のジュスティーヌ姫とはもうパーティを組むなと言われるのではないかと思っていたからだ。それが逆に、しばらく一緒にパーティを組むように言われるとは。ジュスティーヌの側にいて、常人とは異なる人間――それを別名で変人という――の思考回路を学べということなのだろうと理解する。
「その言い方だと、レナード殿下とわたしが、カイトにお世話してもらわないといけないどうしようもない人物みたいじゃない!?」
「うん、あいつはどうしようもないダメ男で、君はどうしようもなくかわいい人じゃないか!」
「ご、誤魔化したわねっ」
「誤魔化してなんかないよ。本当のことだろ? ジュティ、そのスープ飲み終わらなさそうだね。そろそろ俺が引き受けようか?」
さりげなく、今度こそ”あーん”を要求される。そして、「敵に塩を送っているようで屈辱だわ」といいつつも、素直に応じるジュスティーヌ。
それをみて、今度は目の前に座っているうーたんの空き皿とまだ手を付けていないスープをすり替えようとするレナード。
「レナード殿下、バレていますぞ」
うーたんに完全に見抜かれるレナード。そりゃそうだ。うーたんの皿は空だったはずなのだから。
「うーたん、せこいこといわずにレナード殿下を手伝ってあげてよ。うーたんなら大丈夫! うーたんならばもう1皿いける!」
これ以上、うーたんと連呼されたくなかったうーたんは大人しくすり替えられたスープを飲みだした。
「待て! 俺は納得していない!」
すると今度はレナードが声をあげる。
「何がですの?」
「アル、セディ、カイト、うーたん、レナード殿下……。おかしいだろう! 愛する妻よ!」
「何がですの?」
「アル、セディ、カイト、うーたん、レナード殿下……!」
「?」
「姫様、レナード殿下は、名前の呼び方のことを言われているのではないかと」
セディが、レナードの言わんとすることを教えてくれる。
「それの何がおかしいの?」
「お、夫である俺だけまるで他人のような呼び方ではないか、ラブリーな妻よぉぉ」
「はあ。カイトとアルはそう呼んでほしいと言われたから。セディは昔からそう呼んでいたし。うーたんは、ソフィーがそう呼んでいたのを聞いたからってだけですわ」
「お、俺も妻に愛称で呼んでもらいたい」
「レナード殿下の愛称ねぇ……」
レナレナ……は、さすがにひどいわよね。退治しちゃったモンスターにつけた名前だもの。そういえば、ソフィーはレナード殿下のこと、肉男って呼んでたわね。じゃあ。
「肉男、でいいかしら?」
その場にいた全員が大爆笑する。
「愛しの妻よぉぉぉ!! それはあのラッキー女の呼び方ではないか! 妻と俺だけの呼び方がいいなぁ」
「はあ、ではなんとお呼びすれば?」
「そうだな。通りすがりのスーパーヒーローにして輝けるスターレナードはどうだろうか?」
「ながっ! 殿下、さすがにそれは長すぎますわ。戦闘中に殿下に呼び掛けようとして、言い終わる前に命を落とすレベルに長いですわっ」
いや、つっこむとこ、そこだけじゃないでしょ!
「そうねぇ……では、スターレナードはどうかしら?」
「おお! それにしよう! スターレナードで!」
アルフォンスはぷっと噴き出すと「ジュティ、君は本当にどうしようもなくかわいい人だよ」と言って声を出して笑った。




