第81話 腹黒皇子の黒すぎる罠ですわ。
予告した通り、レナードはコース料理を5人前頼んだ。当然、ジュスティーヌも2人前頼む。
どこの世界に、敵――それも、自分の恋人っぽい男性――を困らせるという目的のためだけに、コース料理を2人前頼むお姫様がいるのだろうか。
給仕も、皇子の剣同盟のメンバーも、ジュスティーヌのことを割とわかっているはずのクラスメイトでさえも驚愕の表情を浮かべていたが、アルフォンスだけはなぜか楽しそうだった。
「ジュティ、本当にそんなに食べられるの? そうだな、食べきれなかった分は俺が食べるよ。その代わり、君が俺に食べさせるんだよ?」
「はっ!」
しまった! またしても、この腹黒皇子の罠にはまってしまった……! こんな公衆の面前でこの男にあーんをしてあげないといけないなんて!
「なんだとおお! マイプリティハニーにあーんしてもらうだとおおお!! ラブリーな妻よ。俺も、あーんしてくれたら代わりに食べるぞ!」
「何を言ってるんだ。君はすでに5人前も頼んでいるじゃないか。それで手一杯だろう? つまり、ジュティが食べきれなかった分は、全部俺のものだ」
「く、くそっ! カイト、お前も2人前ぐらいがんばれ!」
「無理ですよ。僕に押し付けないでくださいよ……」
カイトは愚かすぎる兄の行動に対して盛大にため息をついた。
「さ、ジュティ、席が離れていたら食べさせにくいだろ? こっちにおいで」
「うっ……」
こうしてジュスティーヌは、カイトとは反対側のアルフォンスの隣に大人しく座った。アルフォンスにしてみると、最初の席よりもこのほうがずっといい。なぜならば、ジュスティーヌはテーブルの隅に座る形になったので、彼女の隣を完全に独占できているからだ。
アカネは思った。よく姫様がアルフォンス殿下を腹黒というか、確かにその通りだと。隣の席であーんをしてもらうために、姫様が食べきれないことまで見越して――しかも、レナード殿下が手助けできない状況まで織り込み済みで――2人前の注文を許すとは。
こういう人物が率いている国には絶対に逆らってはいけない。知らぬ間に権謀術数の限りを尽くされ、気が付いたときには、国の主が変わってしまっているだろうから。アカネは何気ない一場面に、この世界の縮図を見たような気がした。
ジュスティーヌは、重度の中二病ではあるが、決して愚か者ではない。むしろ頭の回転は速い方だ。だが、アルフォンスとの関係を見ている限りでは、ほぼ一方的にやられっぱなしである。これは二つの可能性を意味している。
一つは、アルフォンスがあまりにも切れ者であること。もう一つは、なんだかんだ言いつつも、ジュスティーヌもアルフォンスのことを憎からず想っていること。気になる存在なのにそれを認めずに意地を張る。だが、結局は彼の手のひらの上で転がされてしまっているのだ。
今まで食べたことがないようなおいしい前菜に舌鼓を打ちながらも、アカネは二人のことを、一人であれこれ考察していた。
「姫様と殿下って本当に絵になるよね。いやー、眼福だわぁ」
隣にいたビビアンはアカネよりもずっと気軽に二人を見つめていた。なにはともあれ、PJL35の一員としては、姫様の幸せを一番に願うだけだ。
「さてと、そろそろ本題に入ろうか」
みんなが前菜を食べ終わったころにアルフォンスは声をかけた。
「デューク、今回の敗因を、君はどう分析する?」
「それは……」
皇子の剣同盟のリーダー、デュークは口をつぐんだ。
実力では確実にこちらのほうが格上だった。それなのに負けたのだ。敵を多少は侮っていたが、きちんと警戒もしていた。だから、それに対して備えたつもりだった。
レナード対策にタンク役のゲイジも入れたし、ジュスティーヌのスピードに対応可能なオニキスも入れた。バフの重要性を理解したので、最後のメンバーはルカにした。そして、ジュスティーヌに直接実力を測られていないメンバーでパーティを固めた。
これで負けたのだから、これ以上何をすればよかったというのか。それがデュークの率直な感想だった。
「……殿下が姫君にアドバイスをされたのでしょうか?」
「君たちの得手不得手が何かに関する情報は与えた。だが、それだけだ」
「我々としては、これ以上どうすることもできず……」
「本当にそうだろうか? ジュティ、もし君がデュークの立場だったら、どうする?」
一生懸命二皿目の前菜を食べていたジュスティーヌは、急に話を振られて手を止めた。
「そうね……魔法使いを一人、スカウトするかな。なんせこちらには伝説の大魔女マジョリーヌ様がいるのだから!」
あれ? 姫様、あなたは魔法少女マジカールじゃなかったでしたっけ?
「だ、そうだよ、デューク。そもそもパーティは何のために組む? 互いの短所を埋めあい、総合力を高めるためだろ? ということで、君たちの次の試合に期待しているよ」
皆がまともな話をしている間に、レナードはこっそりカイトの皿に食べきれなさそうな料理を移していた。
「ジュティ、次は君の番だ」
「わ、わかったわ……」
アルフォンスに視線を向けられて、ジュスティーヌは不機嫌そうに、でも少し頬を赤らめながら、お皿の上のテリーヌを一口大に切った。
「……はい、あーん」
フォークを右手に持ち替えて、テリーヌを乗せるとアルフォンスの口元に差し出す。アルフォンスは一瞬、驚いた表情をしたが、すぐにいつもの笑みを浮かべるとそれをパクッと食べた。
「やっぱり、ジュティに食べさせてもらうと格別においしいな」
「も、もう、仕方がないんだから」
ジュスティーヌは照れながらも何度もアルフォンスにあーんをしてあげていた。
我々は一体何を見せられているんだ……! と思う面々。
「うおーーー! うおおおおおお!!」
レナードは猛烈な勢いで前菜を食べるのだった。




