第80話 勝利の宴の席はどうしますの?
今回のパーティでの決闘、大方の見立てでは、さすがに皇子の剣同盟の勝利と予想している者が多かった。しかし、終わってみたら、チーム『通りすがり……(中略)……とその他二名』の圧勝だった。
そして、この戦いの結果に対する評価は、後に学園内における議論を二分することになった。ある者たちはこの戦い方を「戦士にあるまじき戦い方であり、見苦しい」と酷評した。また別の者たちは、「斬新な戦術に度肝を抜かれた」と絶賛した。
ジュスティーヌ自身はどちらの評価にも大満足だった。
「なんとでも言うがいいわ。勝てば官軍なのが現実なのだから」
見苦しいですって。それってせこいってことよね? つまりは悪女らしい勝ち方だという誉め言葉じゃないの!
ジュスティーヌはポジティブな悪女なので、非常にお得だ。すべては自分にとって都合のいいように解釈ができるのだから。
それはさておき、とにかくチーム『通りすがり……(中略)……とその他二名』の大勝利である。4人は勝利したことを素直に喜んだ。
見学に来ていたクラスメイトたちと勝利の喜びを分かち合っていたら、アルフォンスと皇子の剣同盟の面々が近づいてきた。
「お前! またしても俺様のキュートハニーエンジェルをさらいに来たのか!」
いつものようにケンカ腰のレナードを無視して、アルフォンスはジュスティーヌに話しかける。
「やあ、ジュティ、勝利おめでとう。そろそろ君のかわいい顔をみせてほしいな」
アルフォンスはジュスティーヌと身体が触れ合いそうな距離まで近づくと海坊女のマスクを脱がせた。そして、その頬を指の背で軽く撫でた後、マスクの中から現れた少し乱れた輝く金髪を撫でるように優しく整えた。ジュスティーヌは背の高いアルフォンスの顔を見上げながら、特に抵抗することはなく、彼が為すままに任せていた。
親密そうな関係の男女が軽くじゃれあっているだけのどうということもない光景だが、それが美男美女だったからか、見ている者は二人の姿に思わず見惚れていた。
「おい、お前! 俺の麗しの女神である妻に気安く触れるな!」
レナードの怒鳴り声でその場にいたものは現実に引き戻される。
「君らしい、おもしろい試合だったよ。あれは君のアイディアだろ?」
「ふんっ、当然の結果だわ。この無敗の名参謀ジュスティーヌ様の手にかかれば、どんな強敵も瞬時に壊滅可能よ!」
アルフォンスはレナードには目もくれず、彼女らしい強気な台詞を言う姿を見て、「ははっ」と声を出して笑った。
「ところで、これからこいつらと一緒にグランメゾンで今回の決闘の反省会をしようと思っているのだけど、君たちも一緒にどうかな? クラスメイトのみんなも一緒に、もしよかったら」
「そんなのお断りに決まっているだろう! 俺様はこれから愛する妻と熱く燃え上がる愛の炎でキャンプファイヤーをするのだから!」
ジュスティーヌのクラスメイト達は内心で「余計なことを!」と思う。どう考えても、あの英雄アルフォンスと一緒に食事、しかもお貴族様御用達のグランメゾンに入れるなんて行きたいに決まっている。
「殿下、ここはこの男について行きましょう。次なる戦に向けた敵情視察ですわ。たくさんご馳走になって、敵の資金を減らしてやりましょうよ」
「愛しのマイハニーがそういうのであれば仕方がない。俺は5人分は食うぞ! 覚悟しとけよ!」
「兄上、あまりはしたないマネはおやめください……」
「カイトは3人分ぐらいはいけそうかしら? わたくしもがんばって2人分は食べますわ!」
いや、そこ、がんばるところじゃないでしょうと思うクラスメイトたち。
「ははっ、お好きなだけどうぞ」
ガキっぽいレナードとジュスティーヌとは違う大人の余裕。懐の深さを見せるアルフォンスであった。
こうして30人近い人数でグランメゾンに押し掛けたジュスティーヌたち。当然、全員で同じテーブルに座れるわけではない。彼が予約した個室には、8人掛けのテーブルが4つ用意されていた。
アルフォンスはジュスティーヌの肩を抱き寄せて、「ジュティはここね」と席に着かせるとちゃっかりしっかり隣に座る。当然、反対隣りにはレナードが「なんでお前が俺の妻の横なんだ!」と文句を言いながらも、椅子をジュスティーヌ側に移動させて間を詰めて座った。
「ジュティ、もっとこっちにおいで」
そうアルフォンスが言いながら、椅子ごと自分の近くに引き寄せる。
「妻は正義の味方の俺の近くの方がいいよな!」
今度はレナードが言いながら、椅子ごと自分の近くに引き寄せ返す。
「もう、くだらないことしてるんだから!」
ジュスティーヌは席を立つと、同じテーブルの反対側に着座していたセドリックの隣に座った。セドリックは、今この場にいる一番強い男に目がまるで笑っていない笑顔で睨まれ、二番目に強い男には指を差されながら怒鳴られることになった。
俺、全然悪くないのに……。
結局、二人の男の間には、カイトが座った。二人の間にはどう考えても緩衝材が必要だが、ジュスティーヌ以外であの場所に座れるのは、ここにはもうカイトぐらいしかいなかったからだ。
でも、魔王と鬼に挟まれたあの席よりはずっとマシかもな。
二人の強者に挟まれ、完全に委縮しているカイトを眺めながら、セドリックは自分を慰めた。




