第76話 非モテ同士、助け合って生きていくのですわ!
着替えを終えて、食堂に姿を見せたジュスティーヌ。いつも余裕そうな顔つきのアルフォンスが、ジュスティーヌを一瞥した後で、珍しく顔を少し赤くして、目をそらしてきた。
「ジュティは何を着てもかわいいし、今日の服も本当によく似合っているよ。だけど、目のやり場に少し困るな。俺以外の男にそんなに見せたらだめだよ」
そういうとアルフォンスは自分の上着をジュスティーヌの肩にかけてきた。しかも、ご丁寧に胸が見えなくなるように、ジャケットの前をしっかりと留めてくれた。彼シャツならぬ、彼コートである。
そう、このディアンドル、胸がめちゃくちゃ強調されたデザインで、着てみたら想像以上にドエロいのだ。しかし、着替えるにしても、他の服もこれから行く場所には似つかわしくない。結局、ジュスティーヌは彼コートで1日過ごす羽目になった。アルフォンスの服を着て、あちこちで歩かないといけないとは、これはこれで外堀からじわじわと埋められているような気分である。
二人は冒険者ギルドに来ていた。
ギルドの戸をくぐった瞬間から、針の筵にされたようなものすごい注目を集める。それはそうだ。あのアルフォンスのコートを羽織っているのだから。
男たちは「その彼コートの下は、一体全体、どうなっているのだあ!」と気になった。女たちは、「アルフォンス殿下のコートを着ているなんて、羨ましすぎる!!」と気になる。
クエスト達成の報告を受けてくれた受付嬢も、完全に目が泳いで声が上ずっていた。
「初クエスト達成、おめでとうござ、います。こちら、がクエスト、達成の報酬です。それから、討伐した大爪兎はどう、しますか? こちらで買い取ること、もできますし、解体費用をいただ、ければ素材にしてお渡しすることも可能です」
大爪兎は、毛皮はコートや襟巻などの素材になるし、肉は食べられる。だが、一番の目玉はその爪である。鋼鉄をも貫く鋭い爪で、暗器や武闘家が装備する爪などの武器の素材になる。
ジュスティーヌはレナレナの死を無駄にしてはいけないと思った。死してなお、彼を生かすには素材にして側においておきたい。そしてそれは活用できる形でないといけない。
「一体だけ、解体して素材をいただきたいです。あとは買取をお願いします」
こうしてレナレナは素材となって再びジュスティーヌの元に戻ってきた。
「そいつをどうするつもり?」
アルフォンスが聞いてきた。
「アルは、この爪を武器に加工してくれるお店を知ってる?」
「もちろん。これから案内するよ。毛皮はどうする? それも加工したいならば工房に案内するよ」
アルフォンスは冒険者ギルドから少し離れた武器加工工房『モンスターボーンズ』に連れてきてくれた。
それにしても、昨日の薬草店にしてもそうだけど、この辺りの店のネーミングセンス。まんますぎじゃない……。ってことは、毛皮の工房は、『モンスターファー』とか『モンスタースキン』とかかしら。
モンスターボーンズの工房主は、意外にも若い女性だった。
登場した女性をみて、「この女たらし皇子が!」とジュスティーヌはアルフォンスを責めたくなったが、話してみるとそういう女性ではなさそうだった。
「よう、殿下、いつもごひいきに。あれっ、あんた女がいたんだ」
「ああ、俺の婚約者で恋人のジュスティーヌ姫だ。今は彼女とパーティを組んでいるんだ」
えっ、いつの間に婚約した? したっけ? してないと思うけど?
そう思っていると、アルフォンスはこちらを見て微笑みながら目配せしてくる。
この目配せの意味は、話を合わせろってこと? もしかして、この店は未婚約者の非モテ女は入店禁止とか? だけど、非モテのモンスターは丁重に扱っていただきたいものだわ。
「わたくしは、アルの婚約者にして結構モテる女のジュスティーヌよ。今日は非モテのモンスターの加工をお願いしたくてこちらに伺いましたの」
こんなでOKかしら?
確認するようにチラッとアルフォンスを見ると、彼は必死に笑いをこらえていた。そして、こらえることをせずに笑い出したのがここの工房主だった。
「ぷはははっ。殿下、あんたの彼女、想像以上におもしれー女じゃんかよ! やるねー、あんた!」
「お褒めいただき光栄だよ。な、以前話した通り、すごくかわいいだろ?」
そう言うと、アルフォンスはぷくーっと頬を膨らませて怒っていますという顔のジュスティーヌを抱き寄せて、頬をつんつんとつついた。
「で、結構モテる女のジュスティーヌ姫さんは、どんな非モテモンスターの加工をしたいので?」
ジュスティーヌはご機嫌斜めな顔つきでレナレナの爪を差し出した。
「なるほど、こいつは確かに非モテモンスターだね。で、こいつを何にする? 爪かい? それとも暗器?」
「爪でお願いします」
「ちょっと、待った。その爪、どうするつもり?」
それまで楽しそうにしていたアルフォンスは急に険しい表情になる。
「えっ、レナード殿下にあげようかと」
ジュスティーヌは当然のことのようにそう答えた。
「ぷはははっ。さすがは結構モテる女のジュスティーヌ姫さんだ! 殿下と獲ってきた素材をほかの男にくれてやるとは! いいね、面白い! 最高の武器に仕上げてやるよ!」
ジュスティーヌはここの工房主に気に入られたらしい。
「へえー、ジュティは俺には何もなしで、あいつには武器を贈るんだ? へえー」
「あー、だって、これはその……何と言うか、この子のモテないっぷりがレナード殿下に似ていたからっ。モテない同士、一緒にいたら淋しくないかなって。あなたはモテるんだからいいじゃない!」
工房主は腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。それまで不機嫌そうにしていたアルフォンスも思わずプッと噴出した。
「そっか、そうだね。俺にはジュテがいるからね。うん、そうしよう。この爪はあいつにくれてやろう」
この人たち、さっきからずっと笑ってるけど、何がそんなに可笑しいのかしら! なんだか小馬鹿にされた気分だわ!
むくれているジュスティーヌを、アルフォンスはもう一度やさしく抱き寄せた。




