第7話 世界を統べる魔女の力でクラスメイトを平伏せちゃいますわ!
「おーっほほほほほっ! 皆さん、ご機嫌よう! 今日もとてつもなく素晴らしい一日になりそうですわね!」
ジュスティーヌは上機嫌でスキップしながら教室のドアをくぐった。すでに彼女のクラスでも、ジュスティーヌ姫がカイト王子の婚約者候補の令嬢たちを撃退したという噂で持ち切りだった。その姫が入ってきたので、噂話をしていた同級生たちは一斉に押し黙った。彼らはチラチラとこちらを伺いながら挨拶をしてきた。
「ジュスティーヌ姫様、お、おはようございます」
「ひ、姫様、今日もよろしくお願いいたします」
なになになに、この男たち、悪役令嬢のわたしに恐れをなしている感じ? いいじゃない、いいじゃない!
ジュスティーヌは髪を手で後ろに払いながら男たちの前を華麗に通り過ぎて席に着いた。髪が邪魔だったわけでも何でもなかったのだが、それっぽい演出をしたかったのでとりあえずやってみた。男たちは美しくたなびくジュスティーヌの金色の髪に釘づけになっているように見えた。
一時限目は座学だが、二時限目からは魔法の実習だ。
ジュスティーヌの魔法の腕前はなかなかのものだ。王族ということもあって生まれながらの才があるうえに、悪役令嬢として自信をつけるために日夜特訓に励んできたのだから。ここで魔法の腕を見せつけて、クラスメイトの尊敬を勝ち取り、取り巻きを増やすのだ!
最初の実習は、静止している目標物に正確に魔法をぶつける訓練だった。
戦闘技術科の生徒の多くは、魔法よりも剣術を得意としている。そのため、ほとんどの生徒は最初の授業から苦労していた。平民の男子の中には、そもそもまともに魔法を顕現させることもできないものもいた。
その中にあっては、カイト王子の腕前は際立っていた。本人は魔法は苦手みたいなことを言っていたが、土魔法で拳大の石を生みだし、慎重に狙いを定めて正確に的に当てていた。
「まじかよ、それで苦手なのかよ」
的外れな魔法を飛ばしまくっていたフルード公爵令息がお手上げだぜといったポーズをとってカイト王子を褒める。
「でも、僕の魔法は威力が小さくてね。それに発現させるのにも時間がかかるから、このままでは実践ではつかえないのが課題かな」
カイト王子は正確に自己分析をしていた。その辺もさすがである。
前座、ご苦労!
次はジュスティーヌの番である。ここは、悪役令嬢らしく炎魔法をぶっ放つ!!
「フレイムボムッ!!」
しかも、無詠唱で!
ジュスティーヌのステッキから炎の玉が生み出されたと思ったら、その瞬間に的がボッと音を立てて燃え上がった。
「す、すげえ!」
「かっこいい!!」
「まじかー!」
「やばっ!!」
同級生たちは口々に感嘆の声を上げた。フルード公爵令息は顎が外れそうなぐらい口を開けている。カイト王子も目を丸くして唖然とした表情をしていた。
ふっふっふっ、これが魔法と言うものよ、よく見なさい! そして、悪役令嬢のこのわたしをもっと褒め称えなさい!
「ま、こんなものかしら」
ジュスティーヌは余裕そうにそうつぶやくと、悪役令嬢っぽく手で髪を後ろに払った。
「す、すげえ、すげえぜ、ジュスティーヌ姫様!」
フルードは興奮冷めやらぬ様子でもてはやしてくる。
「お見事です! 姫。さすがですね!」
カイト王子も手放しで賞賛してくれた。
二人が遠慮なく褒めるものだから、平民のクラスメイトもジュスティーヌの周りに集まってきていろいろと質問をしてきた。
はいはいはい、このすんばらしいわたくしに聞きたいことのある皆さん、お並びになって、わたくしは一人しかいなくてよ! ああ、きもちーーーーっ!!
ジュスティーヌはできるだけ懇切丁寧に質問に答え、魔法が苦手な同級生たちに的確なアドバイスを送った。ちょっと、というか完全に自分が悪役令嬢であることを忘れていた。
魔法の実技授業の一時間にしてクラスの人気者みたいになってしまったジュスティーヌ。とりあえずこのクラスメイト達には悪役令嬢の取り巻き役を演じてもらうという設定で、このまま仲良くしてもいいかなと思うことにした。
クラスメイト達はジュスティーヌに対して、最初は気位が高くてとっつきにくく、そして何よりも癖の強いつかみどころのないお姫様だと思っていた。その上、想像の一歩先を行く実力の持ち主であり、さらに近寄りがたい存在になってしまいそうなところ、思い切って質問してみたら意外にも話の分かる人物だったというわけだ。
しかも、「平民は話しかけないで」とか「平民の質問には答えたくないわ。平民なんて学ぶだけ無駄でしょう」といった身分の高い令嬢にありがちな差別はしてこない。王子のカイトと平民のトムやマイクに対する態度が全く変わらないのだ。
こんな次第で魔法談義を通してジュスティーヌとクラスメイト達はあっという間に打ち解けることとなった。
わーい、悪役令嬢、取り巻きを大量ゲットですわ!




