第68話 腹黒皇子VS変人王子の舌戦ですわ。
アルフォンスと明日の約束が済んだジュスティーヌは、至極普通に……どちらかというと結構ルンルン気分で、好物のタルトと共に寮に戻ってきた。
セドリックは全く心配していなかったが、カイトは連れ去った相手が相手なだけに気が気ではなかった。それより何よりもレナードがうるさくて敵わなかったので、彼女が早く姿を見せたことにその場にいた一同はほっとした。
「妻よ! おお、クリオネの様に愛らしい妻よおおお!! 俺は荒海に放り出されたクマノミの気分だったぞお!」
クリオネ……。褒められているんだか何だかよくわからないわ。っていうか、えっ、クマノミ!? クマノミってあのオレンジのちっちゃなかわいい魚よね? レナード殿下はクマノミというよりもクマ、もしくはサメでは?
たぶん、本人以外、一様に同じ感想を抱いたと思う。
「妻よ! そ、その、なんだ、スカ、スカ、スカ……」
常に猪突猛進なレナードが珍しく口ごもっている。
「何がスカスカなんですの?」
「あっ、い、いえ、兄のことは気にしないで、ジュスティーヌ姫」
スカートめくりはされずに済みましたかなんて聞けるわけがない。
「ところで、アル……彼は、どうしてこのようなことをしたんだろうか?」
「あれ? アルからの手紙見ていない?」
カイトは、二人が消えた後、二人で何をしていたのかが知りたかった。知りたくないけれども、知りたくて、回りくどい言い方になってしまい、にぶいジュスティーヌには質問の意図が全く伝わっていない。
ただ、ジュスティーヌが少し嬉しそうな程度で普通にしているということは、二人の間に自分が危惧しているようなことはなかったのだろうと推測することはできた。
「いや、見ましたよ。持ち帰って、今はオリビアに預けてあります。彼女が上手く宣伝してくれるでしょうからね」
セドリックだけが唯一淡々としている。
「それにしても、私も見たかったです! 怪盗プリンス!!」
「俺も、俺も! 今日広場に行った人は完全に当たりでしたね」
その場にいなかったアカネ、ボブ、マイクが、後から話を聞いて羨ましがっていた。
少しみんなと話をしたジュスティーヌは、「アカネ、タルトを一緒に食べましょう」とアカネを誘って二人で女子寮に帰って行った。こういう時、女子は得だなぁと思うボブ&マイクであった。
「レナード殿下! 姫様のあの様子だと、スカートめくりはされていませんのでご安心を!」
女子がいなくなったところで、セドリックがきっぱりと告げて去っていった。ボブとマイクはここでどうしてスカートめくりがでてくるのかまったくわからなかったが、それを聞いたレナードとカイトは気が抜けたような様子だった。
翌朝、ジュスティーヌは、侍女のメリーに用意してもらっていた真新しい冒険者服に袖を通していた。動きやすさを重視したミニ丈のノースリーブワンピに、ニーハイブーツと七分丈のグローブを合わせたスタイルで、腰には愛用の剣とステッキを差していた。レナードが見たら鼻血を吹き出しそうな服装だ。
軽く鼻歌を歌いながらロビーまで行くと、何やら外が騒がしい。アルフォンスが来る時は大抵こんな感じなので、おそらく彼がいるのだろう。
外にはやはりアルフォンスと、あのレナードが対峙していた。
……今度こそ、姫を取り合う男の対決、よね?
「陸の上ではお前がほんのちょっぴりだけ強いかもしれないが、海の上では俺の方が圧倒的に強い!」
「その根拠はなんだ?」
「俺は海の男だからだ!」
「まるで、根拠になってないな」
「そして、海と陸では海の面積の方が広い! だから俺の方が強い!」
「しかし、人間の生活の場はほとんど陸地だろ? 戦いもほとんど陸戦だ。だったら、やっぱり俺の勝ちだな」
ただ、その内容は愛する女性を取り合うというよりは、男のプライドの対決といったところか?
しかも、アルフォンスらしからぬ、すごく低レベルな言い争いをしているではないか。
ジュスティーヌに気が付いた二人はそれぞれ声をかけてくる。
「やあ、ジュティ、待っていたよ。今日のその服もよく似合っているよ」
「おお! 愛する妻よ! ぶほっ」
レナードは前の反省を生かして、鼻血が噴出さないように必死に手で押さえた。するとすき間からたらっと鼻血が垂れる。
アルフォンスがジュスティーヌに近づこうとするとレナードが立ちふさがる。
「貴様! 俺の妻に何の用だ!」
「それにしても、君が女性に興味を持つとはね、意外だな」
「そのままそっくりお返しする! お前はむさくるしい男どもに囲まれていろ!!」
「今日、ジュティと一緒に出掛ける約束をしているんだ。そこをどいてくれないかな? 2年前、俺に剣を折られて敗北したレナード殿下」
ちょっと、待って! なんか今日の腹黒皇子、ストレートに悪人なんだけど。
「なんだと! いいか、よく聞け! 俺は剣は捨てた! 今は己の肉体一つで戦っているんだ! だから、もうお前に折れる剣はない!」
「へー、そうか。では、次は君のその腕でも折ってやろうか?」
「ちょちょちょ、タイム! 月曜日に決闘があるんだから、今レナード殿下がケガしたら困る!」
レナードの後ろからジュスティーヌが慌てて叫んだ。
「レナード殿下、ここを通してください。わたくし、行きたい場所があるんですの」
「妻はどこに行きたいんだ? 俺が連れて行ってやろう!」
「えっと、冒険者ギルドと買い物と、あとは冒険ですわ」
「よし! それならば、今から海に冒険に行こう!」
ジュスティーヌが戸惑っていると、アルフォンスが正論を返す。
「海は遠い。それに初心者がいきなり行く場所ではない」
「俺様がいるんだ! 何の問題もない!」
「問題ありまくりだ! 無謀すぎる。もっと相手のことを考えろ。冒険には、念入りな準備が必要だ」
「お前は意外と臆病なんだな!」
「君と違って愛する人を危険に晒したくはないからね」
「死と隣り合わせの危険を味わうことが冒険の醍醐味ではないか!」
「愚かすぎて話にならないな」
呆れたと言わんばかりのしぐさをしたアルフォンスはこれ以上付き合い切れないと思ったのか、スリープの呪文でレナードを眠らせてしまった。
「君はもう少し魔法の対策をしたほうがいい。まあ、聞こえてないだろうけどな」
アルフォンスはジュスティーヌの手を取ると先ほどまでとはうって変わった様子で笑顔を見せると、「じゃあ、行こうか」と言って歩き出した。




