第66話 シルクハットの怪盗に連れ去られてしまいましたわ。
街の広場に行くと、すでに30人近い子どもたちが待ち構えていた。
「あっ、マジョリーヌとバケモノがきたぞ!」
「うわ、すげー、今日は騎士ライダーがいるじゃんかよ!」
そう言われたケヴィンは子どもたちの前で決めポーズをとって見せる。ヒーローの登場に子どもたちは大はしゃぎだった。
「マジョリーヌではなくて、マジカールですわ!」
「別にどっちでもいいじゃんかよ!」
「それより騎士ライダー、必殺技を見せてくれよ!」
「俺らの前で変身しろー!」
子どもたちは言いたい放題だ。
「君たちちょっと落ち着きなさい。お菓子あげるから」
そういうと、PJL33の幹部3人は子どもたちにお菓子を配って回り、子どもたちが大人しく食べている間に新しい鬼ごっこの説明をした。子どもたちはそれらの案にもちろん乗り気で、今日は氷鬼をすることになった。
アンたちの提案で、鬼ごっこ参加者が誰なのか、誰が捕まっている(凍っている)のかわかるように、鬼ごっこスペシャルハットが配られた。といってもただの紅白帽子なのだが。
そして、ヒーローは子どもたちの味方ということになった。マジカールチーム4人対子どもチーム28人で、10分間の本気の鬼ごっこのスタートである。
今回は、身体能力の高い戦闘技術科の生徒同士の追いかけっこでもあったので、広場に居合わせた人々もまるでアクロバティックなショーでも見るかのように鬼ごっこを見守った。
残り1分を切り、動ける子どもが少なくなってきたときだった。
「捕まえた」
一瞬にして、ジュスティーヌは、後ろから抱え込むように腰と左腕を抑え込まれた。鬼ごっこに熱中していたとはいえ、またしても簡単に背後をとられてしまうとは……。
「あっ、マジョリーヌが捕まってる!」
「怪盗プリンスだ!!」
子どもたちは、魔王のごとく自分たちを追い回していた恐ろしいマジョリーヌが、怪盗によって鮮やかに捕まった様に目を奪われた。
これには、子どもたちだけでなく、広場にいた全女性も目も心も奪われた。どこからともなく、キャーキャーと黄色い歓声があがる。
今自分を後ろから抑え込んでいる男が誰かはわかってはいるのだが、ジュスティーヌは首を後ろにそらして声の主の顔を確かめた。アルフォンスは黒の正装姿にマントを羽織り、シルクハットにマスカレードまでつけ、子どもたちの言葉の通り、人気キャラクターの”怪盗プリンス”のコスプレをしていた。
「俺がいなくて淋しかったからってひどいじゃないか」
視線が合うと、怪盗プリンスは白い歯を見せて笑みを浮かべると、とびきり甘い声で、そう耳元でささやいてくる。
「ななな、何のこと??」
「あんな男に心を奪われるなんて……。だから、奪い返しに来たのさ!」
今度はまるで周りに聞かせるように、アルフォンスはよく通る声で台詞を吐いた。
「誰にも奪われてないし! だから奪い返す必要もないから!」
バタバタしながらなんとかアルフォンスの腕から逃げようとするが、びくともしない。
「絶対的かつ圧倒的なスターである俺様の麗しのプリンセスな妻を放せえええ!! 悪魔の化身である怪盗プリンスッッ!!」
今度は猛スピードでレナードが走ってきた。意識を取り戻したレナードが、野生の勘で愛妻の危機を察知したのか、広場に駆けつけてきたのだ。
「うおおおっ、今度はレオカイザーがきたぞ!!」
「レオカイザー! マジョリーヌが捕まってるんだ! マジョリーヌを助けてくれ!!」
「おう! 俺に任せろ! 俺こそは通りすがりのスーパーヒーローにして正義の味方だ!」
次々に登場する新たなヒーローに子どもたちも大興奮だった。子どもたちはマジョリーヌを助けに来たレオカイザーの味方のようだ。
ちなみに、レナードは別にコスプレはしていない。何となく子どもたちに人気のお芝居に登場する百獣の王の王様のように見えるだけである。
「魔女姫の言葉が聞こえなかったのか? 残念ながら、彼女は君に心を奪われてはないそうだ」
「そんなことはない!! 俺は、俺は妻の20%の婚約者だ!!」
「ふっ、たったの20%? では残りの80%は私がいただく!」
「勝手に決めないでくれない? わっ」
アルフォンスはさっとジュスティーヌを抱き上げた。
「きゃーーきゃーーー!!」
女性たちの興奮もマックスに達する。
「貴様! 俺の妻から離れろーーー!!」
レナードはパンチを繰り出すが、ジュスティーヌを抱きかかえているアルフォンスに信じられないぐらい軽やかにかわされてしまう。
「おおー!」
子どもも周りで見ていた大人たちも、一連のやり取りから二人の戦いまでを、まるでヒーローショーや恋愛活劇でも見るかのように目を輝かせながら見守った。
アルフォンスはレナードの鋭い蹴りをかわすと、正面を向いたまま屋根の上に飛び乗った。
「では、魔女姫はこの私がいただいていく、さらばだ、諸君!! はははははっ!」
その台詞が終わるか終わらないかといううちに、二人の姿はその場から消えていた。そして、二人が消えた場所からは、手紙が一枚ヒラヒラと舞い落ちてきた。怪盗プリンスからの挑戦状である。
「妻を返せーー!! 怪盗プリンス! クソーーッ!!」
レナードの絶叫が広場に響き渡り、お芝居の一幕が終わったかのように、周りからは大きな拍手が巻き起こった。




